3-4 アリアさんの独り言



 ただ気まぐれに遊びたいだけ。人助けなんてしないの。だから今回は特別だった。


「お願い。ワタチね、たすけたいんだよ……」

 ある日のこと、女の子の顔をした人形が話しかけてきた。

 その子をじっと見つめる。愛らしい顔つき。

 幼い子供に人気の人形だとすぐにわかった。

 それに、この世にいてはいけないこっち側のイキモノだということも。

「アリアは、何でも屋じゃないから。同じ幽霊でも助け合いなんてしないよ?」

 女の子の人形は、しょぼんと顔をうつむかせる。そんなにわかりやすくしょんぼりされたって……。

 助けてあげたりしないんだから。…ふんっ!そう思いながら、もう一度ちらりと人形を見つめる。

 よく見ると、腕は取れそうだし、あちこちがぼろぼろだった。

「ねえ、どうしてそんなにぼろぼろなの?」

「これは……いいンダ。名誉のアカシだから」

 そういってにこりと笑う。

「名誉の勲章?まさか身を挺(てい)して助けたりしてるの?」

「ウン……」

「ばっかじゃないの!」

 思わず大きな声になっちゃった。だって人形のくせに、誰かを守るなんておかしいもん。

「ぼろぼろになるのはイインダ。だって…ともだちを守りたいから」

 友達……。その言葉に、なぜか心臓あたりがちくりと傷んだ。おかしいね。もう心臓なんてとっくの昔に止まってるのに。

「なんだか、だんだんチカラが入らなくなってキチャッタの」

 そういって右手を上にあげてみせたけど。

 確かに今にもとれてしまいそうだった。

 目の前の人形ちゃんは、どうやら身を挺してお友達を助けてるらしいの。

 そんなことアリアには関係のない話。人助けなんて、したくないんだから。

 そう思ったのだけれど。

 今日は綺麗な満月だったから。そんな理由をつけて。協力してあげることにした。

 満月に照らされた夜の学校。淡い光の中、窓の外を見つめる。

 

さっきまで、夜の学校の中を逃げ回っていた陽菜ちゃん。正面玄関を出て、校舎の外を歩いていた。その腕の中には、あの人形が抱かれているのが見えた。

「友情って、人と人以外にも芽生えるなんて」

 窓から見えた二人は、笑いあっているようにみえた。なんだろう。胸のあたりがぽわんと暖かくなって。クスッと笑ってしまった。

「あーあ。つまらなかったなー。誰も閉じ込めたり、あそんだりできなかった」

 誰かを閉じ込めたり、悲鳴を聞くのはすごく楽しい。今宵はつまらなかった……。

 つまらなかったはずなのに。

 なんだか気分がいいような気がするの。

 なんでだろうね……。

 まあ、いっか。こういうのもたまにはね。

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