第12話 豪華なお屋敷


 覇王の横にはハルドゥーン将軍らしき男と、もう一人知将と呼ばれる男が立っている。

 覇王が皆に答えるように、手を振っていた。


 誰かが『きゃー! こっちを見たわ』『すごい! 沢山手を振ってくれてる』と叫んだ。


「本当だ……こっちを見て手を振ってるわ。ふふ、知り合いでもいるのかしら? シィーンに自慢してあげましょ。あ~もう退散だわ。疲れた……」


 マキラは溢れる人混みを避けながら、街外れの我が家へ帰った。

 あと二日ほどお祭りは続く。

 お祭りの間に、恋人と喧嘩したという急な相談も二件入り、マキラ自身はお祭りとは無関係に過ごした。

 シィーンと過ごしたベッドで眠ると、愛された時間を思い出して身体が熱くなる。


「私また……思い出して、いやだわ……私ってこんな女だったのね」


 シィーンの熱い吐息を思い出すと、会いたい気持ちが募る。

 前夜祭、パレード、お祭り二日が終わっても、あと三日。

 そんなマキラに手紙が届く。


「シィーン! 手紙を寄越すだなんて、嬉しいわ」


 すっかりシィーンに心を奪われていると自覚しているが、シィーンも短い手紙にたっぷりと会えない寂しさと愛を書き綴ってくれている。


「こんな素敵な恋文も書けるのね……」


 最後には、会える日が一日早まる事。

 そして迎えに行くので、夕飯を外で食べようという誘いだった。

 

「外食……楽しみ。どうしよう、アクセサリーとハイヒールのサンダルも買おうかな」


 精一杯生きてきて、楽しみだって作ってきた。

 でも、こんなにも心が踊る経験は初めてかもしれない。

 

 そして二日後。

 いつも以上に気合を入れてしまったマキラは、美しく輝いている。


「迎えに来たよ。マキラ」


「シィーン……!」


 嬉しさで急いで、ドアを開けた。

 また花束を抱えていたシィーンだったが、彼はすぐにマキラを抱き締める。


「マキラ……! 会いたかったよ」


「うん……私も……んっ……」


 花束がパサリと玄関に落ちて、シィーンの熱い口づけをマキラも受け止める。

 激しく舌が絡んで、お互いの身体に熱が帯びていくのがわかった。


「ん……はぁっ……あんまりに綺麗だから我慢できなかった……」


「もう……でも……嬉しい」


「君が欲しくなってしまうが……今は我慢だな。夜のお楽しみだ」


 正直すぎる男の言葉に赤面してしまうが、マキラもシィーンを求めている自分を感じた。


「明日の仕事は早いのかい?」


「明日の占いは午後からなの。でも夜まで予約が入ってるわ」


「売れっ子なんだな……じゃあ明日の朝までは俺が君を独占してもいいかい」


「えぇ。貴方もお仕事は大丈夫?」


「マキラとの時間を作りたかったから、なんとかしたよ」


「嬉しい、会いたかったの」


「俺もさ。じゃあ少し先に馬車を止めてある」


「え、そうなのね」


「質素な馬車で悪いが」


「そんな事、思ったりしないわ」


 マキラは貰った花束を花瓶に活けて、一泊の支度をして、荷物をまとめる。

 自然に二人共、ベールやターバンで顔を隠して外へ出た。


 外へ出た二人の手は、しっかりと握られている。

 特に人通りもないが、初めての恋人同士の手つなぎ。

 大きな温かい手、つい嬉しくなって微笑んでしまう。


 横を歩くシィーンも、マキラを見て微笑んでくれたのがわかった。


「俺は、まるで子供のようにワクワクしているよ」


「私もよ」


 質素だと言われたが、落ち着いた色味の馬車なだけで中は広い。

 座った途端に、シィーンにまた唇を奪われて、愛を囁き、抱き合う熱い時間になった。


「はぁ……っ……着いたか」


「シィーン……もう、こんな馬車の中で……」


「誰にも見られていないし、わかりはしないさ……。さぁおいで」


「歩けないわ……シィーンのせい」


「はは、そうだね。さぁ俺が連れて行こう」


 恥ずかしがるマキラをシィーンは抱き上げた。

 お姫様抱っこされて馬車から降りると、御者ももういない。


「え……素敵……!」


 夜に浮かび上がるような、美しい建物が見えた。

 白い大理石でできた屋敷には黄金色のドームがあり、ライトアップで光り輝いている。

 庭には豪華な噴水があり、色とりどりの花の花園。

 屋敷へと続く道には綺麗なタイルが敷かれている。


「宮殿みたいだわ」


「はは、食事の用意はさせてある。人払いはしてるから、此処には俺達二人っきりだよ」


「こんな大きな屋敷で二人きり? 此処はホテルなの……? とても高そうよ……」


「ん? 君はいつも心配をしてくれて優しいな……大丈夫だよ」


 マキラを抱きかかえながら、笑うシィーン。

 美しくライトアップされた花園を眺めながら、屋敷へ歩く。


「え……虎の子供……?」


 真っ白でふわふわな虎の子が二匹、シィーンに飛びつくように走ってやってきた。


「あぁ。仔虎だ。おい、俺の恋人のマキラだよ。ティンシャーとバグガルだ。この時間は好きにさせているんだ。君にも紹介したくって」


「なんて可愛らしいの。虎を飼うなんて、すごいわ」


「親虎が亡くなって孤児だったのを拾ったんだ。飼うというか、俺がいつも遊ばれているんだよ」


「ふふ、可愛い。私も遊びたいわ」


「二匹に嫉妬するのはごめんだよ。まずは俺と愛し合うんだ」


「もう」

 

 二匹を連れながら、シィーンはマキラを抱いたまま屋敷へ入る。

 煌めくシャンデリア。

 豪華な芸術品が飾られた大理石の廊下を歩く。

 庭が綺麗に見渡せる大広間には、伝統的な絨毯が敷かれ、長いローテーブルには沢山の食事と酒が用意されていた。

 ふかふかのクッションに優しく降ろされる。

 降ろされたマキラに仔虎が二匹とも飛びかかって、しばらく二人と二匹でじゃれ合い、遊んだ。


「お前たち、餌の時間だよ」


 どこかでチリンと鈴の音が鳴ると、二匹は遊びながら去って行く。

 世話係がいるのだろうか。


「あぁ楽しかった! とっても可愛い子たち。それに素敵な絨毯に、贅沢な家具……美味しそうな料理に……此処は魔法か、夢の世界?」 

 

「気に入った?」


「なんだかびっくりしちゃって……豪華絢爛とはまさにこの事だわ……」


「君を喜ばせたくて、つい張り切ってしまった。こういうのは苦手だったかな」


「いいえ、シィーンの気持ち、とても嬉しいわ。私のためにありがとう」


「君が喜ぶことを、なんでもしたい」


 シィーンは微笑むと、二人はまた熱い口づけをかわした。

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