第3話 マキラは強い女です!
店員を助けた事によって、荒くれ者と対決することになってしまったマキラ。
「ひひ案内してもらおうかぁ~」
ニヤニヤと男達が立ち上がる。
「お会計をちゃんとしなさい。女将、これ私の代金よ。お釣りはいらないわ」
「マ、マキ……」
名前を言うなと、シーッとジェスチャーをした。
男たちは相当に酔っ払っているようで、金を落としながらも支払いをした。
そして喚きながら、店を出たマキラを追いかけてくる。
「ババアでも楽しませてもらうか。嫌がる女に突っ込むのが俺は好きなんだ」
「観光客かもしれんぞ。金を沢山持っているかも」
「金品奪っても殺して埋めればバレないな」
「おい、ババア。今更泣いて許して~なんて聞かねぇぞ? 俺等も観光で来たわけで、俺等チームがどんだけワルだってわかってなかったようだけどよぉ~地元じゃ有名なんだぜ~?」
男達が、今までの犯罪履歴を自慢して後ろで笑っている。
この時期は、治安を守る憲兵も増えるんだが大通りで何かあったらしく一人もいない。
彼らを見て、逃げていく人達を横目にマキラは顔色ひとつ変えずに歩く。
しばらく歩くと、ゆったりと流れる大きな河がある。
上流の方では酒場も作られ、キレイな外灯も作られているが此処はもう暗い。
暗い河川敷の原っぱ。
ぬるい風が、マキラと男たちの頬を撫でる。
「誘ってやがるぜ。この女」
「なんだ。お前が商売女だったのか」
「そういう事かぁ~どこに小屋がある?」
「すぐに裸にひん剥いてやるぜ~ひっひっひ」
風に揺られてマキラのワンピースが身体に張り付くと、彼女の豊満な胸とスレンダーな腰を見て男達が興奮し出した。
「バカな事ばっか言ってるんじゃないわよ。最初は店に案内してやろうかと思っていたけどね。あんな犯罪自慢されたんじゃ黙ってられなくなっちゃった。成敗してあげる」
綺麗なマキラの瞳が、怒りの炎を映す。
「なんだと……」
マキラから膨れ上がる怒りの殺意に、男達は身構え腰の剣に手をやる。
既に剣を抜いた男もいた。
「丸腰の女が生意気な!!」
「丸腰?」
マキラが紅色のベルトに手をかけると、しなやかにうねる剣へ変化した。
鞭のようなベルト剣。
マキラの国では儀式の舞や呪術にも使用され、王女であるマキラは護身術としても幼い頃から叩き込まれていた。
鍛錬も毎日、誰にも見られないように壁を作った裏庭でしている。
「なんだあの剣……」
「はったりだ! あんな剣すぐにへし折って犯してやろうぜ!!」
「折れるわけないじゃない? 本当に頭の悪い男達……!! ほら、かかってきなさい!?」
「殺せ!!」
マキラに逆上した男達が斬りかかる。
ぬるい風を斬る、一筋の風が吹いた。
「うわぁ!?」
「いでぇ!!」
気付いた時には男達の剣は、もう手には無い。
「酔っぱらいで、見たところ修行も随分してなさそうな身体だし、私が負けるわけないでしょ」
「な、なんだ?」
まだ理解していない男がいる。
マキラのしなる鞭のような剣で男達の剣は、河の方へふっとばされたのだ。
「ふ、ふざけんな!! 殴り殺せ!!」
剣がなくても腕がある! と言わんばかりに次はマキラに殴りかかろうとする男達。
あまりに芸がない。
「はぁ。くだらない男達ね」
鞭のような剣の腹で男達の顔面を薙ぎ払った。
切れはしないが、強烈に鉄の板で頬を殴られたのと同じだ。
今度は男達自身が吹っ飛んでいく。
此処まで歩いてくる時、脳裏に浮かんだ風景と同じ男達の未来。
しかし……笑い叫ぶ一人の男の未来が見えた。
「え……!? 嫌な予感!!」
自分の未来は見えなくても、相手の未来から予見はできる。
マキラはまだ一人立っていた男から、用心して離れた。
「ちくしょうーーー!! 許さねぇぞ!! 仕方ねぇとっておきを使ってやるぜ!!」
「何をする気!?」
「禁魔道具を使ってやる!!」
「禁魔道具ですって……!」
この世界には魔術がある。
火・水・風・土。
そして光と闇。
しかしこれを操るには、特別な才能と教育が必要だ。
血筋と才能と教育、選ばれた者が幼い事から鍛錬し続けてやっと手にできるものだった。
それを、一般市民、果ては落ちぶれた者達にも闘う術を与えた方法が生まれた。
それが禁魔道具――。
修行する必要もない、誰でも一流の魔術戦士になれる。
しかし、一般市民に隠されていた禁魔道具のデメリットがあった。
死に至る副作用だ。
当然、今の覇王の統一世界では全面的に禁止されている。
だが裏での取引や、密売などが行われている話は知っていた。
「やめなさい! 死ぬわよ!」
「あはははは!! ハイになるってんで試してみたかったんだ!!」
雑な説明しか、受けていないのだろう。
快楽麻薬とでも思っているようかのように、男は笑う。
男の手のひらには丸い鏡のような、禁魔道具が取り出された。
封じ込められた魔術はそれぞれだ。
ほぼ軍事目的の魔術が込められているが、個人的な恨みを晴らす専門の禁魔道具士もいるらしい。
「一体、なんの術……?」
マキラは冷静に剣を構えながら考える。
また、ぬるい風が吹く。
「――逃げた方が、いい? ……でも……」
ますます、許せない。
この禁魔道具によって今後こいつらの犠牲者が増えるかと思うと、逃げていいのかと思う。
「ぎゃはははは!! ぶっ殺して、それから犯してやるぜ!!」
ジリ……とマキラが後ずさったのを見て、男は禁魔道具での勝利を確信したようだった。
嬉しそうに、笑って舌なめずりをした。
「へぇ? 随分と楽しそうなことをやっているな! 俺も混ぜてくれないか?」
マキラと荒くれ者の間に、まるで花火が鳴るような軽快な声が響いた。
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