第十六章 感謝
「あ、起きた!!みんな〜、神樂様起きたよ〜〜‼︎」
目を開くと、猫娘をはじめとする何人かの湯女が覗きこんでいた。
「あ〜〜、良かったぁ。のぼせただけだろうと思ったけど、そこらじゅうに蟲の死骸もあったし、顔がゆでダコとかじゃなくて、もはや蒼白みたいになってたから、もっと深刻なんじゃないかって、もうマジで焦った焦った!!もぅ私なんて心配で泣いちゃってさ〜〜!助からなかったらマジどうしようかと思って〜〜、氷枕でガンガン冷やして団扇あおぎまくるのが正解だったの、ホント良かったよぅ」
猫娘があまりにまくしたてるから、私がビックリしていると、他の湯女たちが、うるさい、静かに!絶対頭痛いんだからおやめ!!とボリュームを下げてささやくように口々に言い、猫娘をはたくようなコントが頭上で行われた。
どうやら、私はあの後お湯の中でのぼせて気絶したらしく、湯女たちがつきっきりで介抱してくれていたようだ。
開店前で忙しいだろうに。
しかも、蟲の死骸が散らばっていたらしいから、相当汚したどころの騒ぎではなく、掃除と湯の入れ替えをせざるを得なくて大掛かりだったのではないか。
私は多大な迷惑をかけたのではないかと、蒼白になり、何度も謝ると、湯女たちは、いいのよ、と、口々になだめてくれた。
大掛かりな掃除は手慣れたもので、湯女だけではなく、男性従業員も一緒にことにあたり、プロの技でことなきを得たそう。
それでも申し訳なくて、私が頭をあげられずにいると、ふくよかな湯女が入ってきて、私に水を差し出しながら優しく言ってくれた。
「聞こえたよ。蟲で大浴場を汚してしまったのを気にしてるんですって?あれだけの蟲がいるということは、たっくさん傷ついてきたってことさ。ここにいる全員が蟲に侵されたことのある経験者だし、紫月様に助けられた者たちばかりだ。もし、神樂様がこの中の誰かから蟲がたくさん出たら、迷惑と感じるより、心配するだろう?あ、もちろん、怖いって思って反射的に逃げてしまうことはあるかもしれないけれども」
それを言われて、私は確かに、この中の誰かが苦しんでいたら、助けてあげたいと思うだろうと感じた。
仮に何かを汚して仕事が増えてしまったとして、それはその人のせいでは無いから、迷惑だなんて思わない。
むしろ、こんなに苦しんでかわいそうに思うし、早く楽にしてあげたいと思う。
私にも、そしてここの人たちにも、そんな優しさと思いやりがあることに気付かされる。
そして、私はつい何時間か前にこの方を怖い化け物のように勝手に感じたことが、恥ずかしく、悔やまれた。
思い返せば、このふくよかな湯女は、悪意なく、紫月様が神樂のどこが気に入ったのかに純粋に興味があって、さらっとそれを口にして言っただけだったのだ。
他意はないのに、おまえなんか紫月様に相応しくないなどと思われてるなど、ただの被害妄想で、自分の自信のなさの表れだったことに気づく。
ここは、幽世。
人間の住まう現世とは違い、自分の思う事やイメージはすぐに可視化されてしまう世界。
自分の捉え方1つで、いかようにも世界はみえてしまうのだと改めて感じた。
私は、湯女たちに深くお辞儀をし、紫月様の部屋へと急いだ。
私が気絶したのをみて、一番心配したのは紫月様だときいて、私は、我が主君を少しでも早く安心させたいと思った。
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