第十二章 歪まされる快楽

「私は自分の劣等感にも欲にも負けたくありません!」


私の宣言に、蒼紫は少し驚いたような顔を見せた。そして、その覚悟を受け止めるように頷くと、私の手を握り、手の印を結ぶように促した。


「オン アミリテイ ウン ハッタ

オン キリキリ ヴァジュラ ウン ハッタ。


私が貴方を幽世に戻した時に、この印を結びながらこの呪文を繰り返し唱えてください。


この呪文は紫月様の体内に流れる蜜、アムリタを引き出す力があります。


アムリタ、甘露ともいいますが、魔を祓う浄化作用のある蜜みたいなものです。


これを引き出す際、紫月様は苦しみ喘ぐでしょう。ヴィナーヤカの抵抗も強いかもしれません。それでも、唱え続けてください」



私は蒼紫の助言を聞き、さっそく暗記のために、地面に呪文をかきとめる。


何度も復唱する私を見守るように蒼紫は何度も小さく頷いた。


ようやく覚えたと思えた時に、私は蒼紫に向き直ると、彼は私の手を握りながら大事なことだから、と、呟いた。


「紫月様は、アムリタが身体から漏れるとそれに酔い、正気を保てなくなります。紫月様のどんな苦しみも誘惑も、跳ね除けてください」


これを言われた時、私の頭は呪文のことでいっぱいで、誘惑も苦しみも、なんのことだかわからなかったのもあって、空返事をしてしまった。


蒼紫もそれに気づいているようだったが、これ以上無茶は言えないと思ったのか、目を伏せ、光の球体を神樂の前にかざした。


「準備ができた時にこの光の玉に触れてください。そうすれば元の場所に戻れます」


私は覚悟を決め、光の球体に手を伸ばした。


眩い程の光が一気に目に差し込み、視界一面がまっ白になる。


次の瞬間、私は紫月様に馬乗りになり、その首に手をかけていた。


接触の多い下腹部をみれば、二人のモノはドロリとした粘液と滑りの良いサラサラとした蜜が絡み合い、擦れあえば水音が響く。


滑りに乗じて私のものが、紫月様の秘部に潜り込もうとしているといった、アラレもしない構図となっていた。


厳密にはヴィナーヤカが、ことを成そうとしていたが、正解なのだろうか。私は慌てて腰を引き、手をその首から離すことで、紫月様を解放する。


「ヴィナーヤカ……!」


私の身体でなんてことしてくれるんだ。


ぐったりとする紫月様に手を伸ばそうとすると、ドロリとした粘液がはね、少し唇にかかった。


ふわっと花の香りと共にほんのりとした甘さが口に広がる。


あまりの美味しさに私は目を見開き、唇を無意識に舌でなぞってしまう。


これが蒼紫の言っていたアムリタか。

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