第三章 蟲の脅威
「簡単に仰いますな」
トカゲの老人たちは立ち上がり怒りを
「あたかも我々が仕事をしてこなかったかの言いよう。では、貴方が我々の立場なら、どうにかできたのですか? 紫月様」
「少なくとも今よりはずっとマシだったはずだ」
紫月様は低くも強い意思を感じさせる口調で返す。
「俺は、怨霊化の原因のもとをつきとめているからな」
天帝の周辺の空気がピリリとはりつめるのを感じた。
「俺が十年以上も前から提出してきた報告書。おエライさんが実際目を通したのかどうかはわからないが、この際だから聴衆にも聞いてもらおう」
紫月様は、聴衆が見やすいように蓮の台座に乗って天高く舞い上がると、高らかに宣言した。
「若い神々の怨霊化の原因は、
そして彼は両手から無数の青い球を出現させると、そこにたくさんの若い神々の顔が映し出された。
「ここに映るのは人間の守護にあたり、その罪穢れを直接くらう事で怨霊化してしまった神々の姿だ。
俺は怨霊化の原因をつきとめる中で、この者たちの間にとある共通点を見つけた」
紫月様が指を鳴らした瞬間、それらの球は黄色に変化し、そこに映し出された映像に神々は悲鳴をあげた。
「なんだ、あの大量の虫は!」
「嫌だ……怖い!」
先ほど映っていた若い神々の穴という穴から、おびただしい数の毒蟲が羽音をたてながらあふれ出していた。
あまりの衝撃映像に、気を失いかける女神たちや、それを気遣う男神たちでその場は騒然となったが、紫月様はかまうことなく発表を続けた。
「人の罪穢れ、煩悩により羽化した蟲は守護神に感染し、その思考力を負の感情へと導き、怨霊化させる。
この蟲に対する知識や防衛策が未だ、人間界で働く神々の間で浸透していないのが、度重なる新人たちの怨霊化の原因だ。
この問題についてこの際、皆々様には関心をもっていただきたい」
この蟲の存在……!
私は何度も見たことがあった。
なぜなら、私が守護していた少年の周りは、常にその幼虫とも思える針金蟲でいっぱいだったからだ。
「紫月様! 私は、守護した人間の周りに針金のような蟲がたくさんいるのを見てきました! それが人間の放つ悪意や毒のある言葉により、広がるのも知っています……!」
紫月様は驚いたような表情で振り返った。
「針金蟲……! おまえには、幼虫の姿が視えるというのか!
普通なら成虫しか視えないというのに……!」
紫月様は蓮の台座から飛び降り、私の前に着地すると、勢いよく私を取り囲む札をビリビリと破り始めた。
罪人に施された結界を破り、引っ張り出そうという乱心ぶりに周囲が悲鳴をあげたが、不思議なことに、判事や天帝は黙したまま見守る姿勢を貫いているように見えた。
「顔をよく見せてみろ!」
紫月様に抱き寄せられ、無理やり顎を掴まれ上に向けさせられる。
「青と赤のオッドアイ……どちらかの目に、幼虫を視る能力があるんだな。
それに……この白い肌に白銀の髪……!」
一瞬紫月様は、誰かと私を重ねるようにしながら、ひどく辛そうな顔をした。
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