第10話 御乱心.2
そこは陽の光は遮られ、身分に似つかわしくない建物だった。
——隠れ家的な場所?
グロームに、来るなら来な、と促される間もなく獣車の荷台を降りた、ソフィーは狭い路地裏を一つ二つと曲がって後をついてやって来た。
——あそこにドゥムロフが。
ソフィーは、はやる気持ちを押し殺した。
グロームは、旧来の友達の再会を喜ぶかのように声をかけた。
「よお! ご主人はいるか? ドラコニアから魔法瓶を持ってきたぞ」
兵士の戸惑いから、おそらく初対面なのだということは容易に想像できた。
ソフィーは視線を落とし、息を殺す。
「そ、そこで待っていろっ。ドゥムロフ様に確認をしてくる」
ただ、挙動不審な兵士に、ソフィーの苛立ちは隠せなかった。
その気持ちを察したのかは不明だが、「なーんだ、中に居るんじゃねーか! 入るぞ」
グロームは、兵士の制止を無視して扉に手をかけ、入り口の縁に頭をぶつけないように少し屈みながら中へと入って行く。
「お、おいっ。ま、待てっ!」
ソフィーも後に続き、他の三人もしぶしぶ足並みを揃えた。
それを見た兵士は、慌てて大きな声を上げる。
「お、おい! おまえたち、いい加減にしろ!」
建物の中は狭く、なんの変哲もない簡素な雰囲気が漂う中、再び兵士の声が響いた。
「おまえたち止まれっ!」
兵士はすかさず槍を向けてきた。しかし、グロームはそれをいとも容易く折ってしまう。小さな虫を一瞬にして振り払うように。
兵士は自分の目を疑い、開いた口が
「どこにも居ねーじゃねーか」
グロームは辺りを見回すが、人の姿はなかった。そして、たまらず兵士に居場所を訊きかけたとき、暗がりの奥の方から声が聞こえた。
「何じゃっ? 騒々しい。静かにせんか……」
地下らしき部屋から上がってきたようだ。
その声に、ソフィーは自分の心臓が、波打つのがわかった。床のきしむ音は、ゆっくりと向かってくる。
「ドゥムロフ様っ、こいつらが勝手に……」
男は背筋さえは伸びてはいるが、ずいぶんと歳を重ねているのは容易だった。
「ん? 何じゃ、グロームではないか。おまえは相変わらず騒々しいやつじゃな」
ドゥムロフは吐き捨てるように言い、「こやつらは何じゃ?」
と、グロームに訊き、皆に視線を移して
そして驚愕した。
「ドゥムロフっ!!」
ソフィーは、ドゥムロフを飛びかかった。
皆、その一瞬の出来事に驚くが、このあとの言葉を耳にして、さらに目を見張ることとなる。
「ソ、ソフィア姫殿下っ⁈」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます