第5話 王国を滅ぼした者.5

「一人、魔導士がやって来た。そして一夜で一国を焼き尽くした。それだけよ——」


「はあ⁈」


 イナンナも、うそでしょ、と呟き驚きを隠せなかった。

「戦争か? ひょっとして、ベルガリオンなのかっ⁈」


 ソフィーは、くすくすと、まるで悪魔に取り憑かれたかのように高笑いする。


(こいつ、大丈夫か?)

(絶対っ、ヤバいにきまってんでしょ!)

 ヨシハとイナンナは、視線で会話をした。


「この服は?」


 視線を落とすと、ソフィーの服は、素朴ながらも機能的な服に変わっていた。


「それは使用人の人が用意してくれたものよ」

「そう……」

 イナンナに視線を移し、ソフィーはゆっくりと立ち上がる。

「素敵な服ね。あとでお礼を言わせて。あら、これも綺麗にしてくれたのね」

 そして、ベッドの脇に立てかけてあった剣を手に取ってから、ヨシハを見た。「それはそうと……」

 ソフィーは更に、じっと顔を覗き込み口を開く。


「あなた……私の着替えを見たのね?」


「バッババカ言うなっ! んなわけないだろっ⁈」

 慌てふためくヨシハは、よろけて壁に頭をぶつける。

(何やってんのよっ! あんたは)

 すかさずイナンナの蹴りも入った。

 衝撃の反動か、辺りは少し静まる。


「ついてくればわかるわ」

 ソフィーは、涼しい顔をして扉に向かって歩き出した。

(ヨシハ! 絶対、この子、怪しいってっ)

(でも行くしかないだろっ⁈ 国が滅びたんだ。ただ事じゃないっ)

 不信感しかないイナンナと、正義を貫くヨシハ。

 扉の取手に手をかけたところで、ソフィーは振り返る。


「私の着替えを見たのだからついて来なさいっ」


 イナンナはヨシハを見て、必死に訴えかける。

(ぜーったいに、この子ヤバいって!)


 でも、ヨシハは揺らがない。後を追って行ってしまう。


「あと、大きめな布もお借りしたいわ」


 飼い犬を従えた主人の後ろ姿に、イナンナは思う。

 こいつは相当な天然なのか、はたまたとんだ食わせ者か。

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