第3話 王国を滅ぼした者.2

 まず、ユサが言うには、師匠のザルダンは、故郷のグレンヴァール国に帰ったのだという。


「黒竜を二回封印したことがあるとかって、ユサの師匠は何歳なのよ? ドワーフ族なんだっけ?」

「忘れたとは言っていたが、封印を前回、前々回としてるのだから、ざっと二百歳くらいだとは思うが」

 イナンナの問いにユサは答える。


 ドワーフ族は、身長百九十センチほどの妖精族で、伝統を重視し生真面目な性格をした種族だ。濃い髭は、種族としての誇りとされている。

 ザルダンは、アメノとミツゾの師でもあった。


「で、グレンヴァールまでは、どれくらいで着くんだ?」


 ヨシハは、真剣な眼差しだ。

「まず、アルベニア、ベルガリオン国を抜けるほかないだろう。そこまでは、ドーヴェルニュ家の馬車を使えばいい。ここの屋敷同様に、両国にもドーヴェルニュ家の商会の拠点がある」

「たしか、どちらも小国だったよな?」

「そうだ。道もそこそこ舗装されてるし、二週間あれば抜ける。そこから先は、いくつかの領地を通って、北国を目指せ。ただ、グレンヴァールは、高い山脈と深い谷に分断された氷と雪に覆われた帝国なため、強靭な体と精神が必要になってくるがな」

「余裕だ。で、全部で何日かかる?」

「ざっと四カ月」

「そんなに遠いのか? もたもたしてると、また黒竜の封印が解けるぞ」


 イナンナの予想では、あと二年。あの戦いからすでに二ヶ月あまり経過している。

 時期が早まっているのは、闇のエネルギーが、年々増幅しているためだ。


「あと、他にも注意が必要だ」

 ユサが口に出したあとに、声が割って入った。


「その通りだ」

 ユサの父だった。


「父上⁈」


 その自信に満ちた出立ちと、立ち振る舞いからは、この煌びやかな屋敷同様に、威圧と威厳を放っていた。空気が一瞬にして、張り詰めた。


「黒竜の討伐後、周辺諸国の動きが活発だ。じきに、我が王国イダビレも戦争を起こす可能性もある」

 ユサの父は、レム村の二人を見下すようにしてから、視線をユサに戻し、再び口を開くと部屋を後にした。


「お前もいずれは領主となる男だ。ドーヴェルニュの名に恥じぬよう、精進するのだぞ」


 ドーヴェルニュ家は、武器の流通に多大な影響を及ぼすことで、今の地位を築いた経緯があり、王国の最高貴族とも親密なパイプを持っていた。

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