第2話 王国を滅ぼした者.1


 +++



「ううう……」


「ヨシハ! 目を覚ましたわよっ」


 ……ヨシハ?

 ここはどこ?

 頭の中が、ぼんやりとしている。「おいっ、昨日の夜に一体何があったんだっ? アルベリア国はどうなった⁈」

 ベッドに駆け寄るなり問い詰めるヨシハを、イナンナは制止した。


 ……ああ、昨日か。

 私は、生き延びてしまったのね。


「やめなさいよ。まだ起きたばっかりじゃない。まずは自己紹介よ。相変わらずバカなんだから」


 ……夢であったのならよかったのに。


「ヨシハ・ティアマテルだ」


 ティアマテル……。

 ああ、どおりで。

 あの方と面影が重なるわけだ。


「私はイナンナ・アナトリアよ。よろしくねっ」


「私は、ソフィー……」


 ソフィーはゆっくりと体を起こし、自らの傷の癒え具合から、イナンナは相当な実力者なのだと察した。

 それと、重厚な枕木と柔らかな羽毛のベッド。部屋の壁にかけられた織物やカーテンの豪華さから、ここはそこそこ高貴な家だということも。


「それで何があったんだっ?」

「あんたはそればっか。少し落ち着きなさいって」

 イナンナは、詰め寄るヨシハを手で押さえ、「また、変なこと考えてるんじゃないでしょうね?」

 と言い、すねを蹴る。

「痛ってーなー。イナンナこそ昨日から何なんだよ。変だぞ」


 イナンナは、何か不思議な魔法にすいこまれるような澄んだ青色の瞳と、陽光に輝くつややかな髪。そして、どこか上品な佇まいに嫉妬していた。

 そんなこと、ソフィーはもろともしないが。


「見たの?」


「ああ。あのあと見に行ったら、国は全部、黒焦げで跡形もなかった。何があったんだ?」


「そうなのね……」


 アルベニアは、魔店と自然の調和を重んじる民族が住み、美しい森と湖に囲まれた小さな王国だった。


 ソフィーは、言葉を溢しながら、命かながら逃げ出したあとの光景を思い浮かべ、現実を重く受け入れ、ゆったりとした口調で訊いた。


「あなたたちは何をしにアルベニアに?」


「おれたちは——」

 ヨシハは淡々と話し始めた。


 ◇◇◇


 ——少し日付をさかのぼる。


 黒竜を封印したのち、ヨシハとイナンナは、ユサの屋敷に足を運んでいた。

『もしものことがあったらザルダンを訪ねろ』

 それは、今は亡きミツゾの遺言でもあったためだ。

 三人はテーブルに向かって座り、今後について話し合っていた。

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