14 逆襲
足をひきづるように中牧は登校した。
青空が広がる晴れやかな天候だったが、そんなものは何の役にも立たず、目の前に巣を作っている蜘蛛に捕らえられたかのような息苦しさを感じていた。
教室に着くと既に冬児は席に座っている。
席周辺を女子達に囲まれていて、目が合う事もなけれ話しかけられる事ない。
中牧にとって好都合であった。
他のクラスメイトも至って普段どうりで、おしゃべりに興じたり、机に筆記用具を置いて1時間目の準備をする児童もいる。
ピンと張り詰めていた中牧の感情は氷のように少しずつ溶けていく。
間もなく教室に担任が入ってきた。
昨晩、春彦に言われた言葉が頭を過ぎる。
やはりこのまま終わる事はなく、昨晩の"事件"について担任から呼びだされてしまうのではないか。
中牧は再び動揺してしまい、落ち着きなく貧乏揺すりをしている。
出席をとった後も、何事もなく授業が始まった。
クラスメイトと同様にスーツ姿の担任は、ちょっとした笑い話を交えて普段と変わりなく教え子達の笑いを誘った。
良かった、特になにもないじゃないか。
1番後ろに座る体格の良い中牧はホッと胸を撫で下ろした。
****
給食当番であった冬児が給食室へ向かう廊下で、後ろから呼び止められた。
振り返ると潮田だった。
冬児は潮田の要件を承知していたので、他のクラスメイトには先に給食室へ向かうように話した。
「なぁ?冬ちゃん。何の話かわかるよね?昨日の俺の願いはいつ実行してくれるの?
ちっとも喧嘩をしないじゃないか。」
「その事なんだけど…。僕は中牧とは喧嘩しないよ。」
「えっ!仇は取ってくれないの?
俺達は友達だよね?」
「ウッシーは大切な友達だよ。
これからも友人同士でいたいと僕は思っている。
でも、悩みに悩んだ結果なんだけどさ、僕はウッシーの代理で喧嘩はできない…。」
「そんなの酷いよ!
俺はちょっと靴を踏んだだけで鼻が折れてしまうかと思うくらい殴られたんだよ!
冬ちゃん?俺はアイツが泣いて土下座するまで許すつもりはない!」
「ごめんね。ウッシー。
喧嘩の仲裁に入ったり解決に向けて相談に乗る事はしても、僕は中牧とは殴り合いの喧嘩はできないよ。
僕らには担任がいる。
もしまた何かあれば僕らだけでなく先生を交えて、いじめをどうするか話し合っていくべきじゃないかな。」
「友達なら俺の仇を取るべきだ!
弱い者を守るのがおまえの役割だろ?
何が友達だよ、やっぱりおまえはみんなにチヤホヤされたいだけの口だけ野郎だぁ!」
顔を真っ赤にした潮田は殴られた鼻を摩りながら言った。
潮田は廊下を走って給食室へ向かった。
下校時、下駄箱で冬児は友人達と談笑しながら上履きからスニーカーに履き替えていると、
潮田に踏まれたスニーカーを靴箱から取って、ややヘソ付近からスニーカーを地面に落とした瞬間、冬児は中牧が背後にいる事に気付く。
潮田が殴られた事を担任へ言いつけた事で、中牧に恨まれている為、昨日のように怒りをぶつけられるのを覚悟した冬児だが、朝から下校時まで中牧は何をするわけでもなくおとなしい。
中牧と目が合ったが一触即発というピリピリした雰囲気はなく、寧ろ中牧の方から目を逸らすほどであった。
しょんぼりしている中牧を見て、冬児も中牧と同様に胸を撫で下ろしていた。
ジーパンのポケットに手を突っ込み、少し前を歩く中牧の後ろをカラフルなランドセルを背負った冬児達が続く。
歩く順序は変わる事なく、そのまま正門を潜ると、鬼頭が待ってましたとばかりに待ち構えていた。
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