3

「ねぇね?あの2人はあそこで何してるの?」


カーテンに隠れて話す冬児達に疑問を持ったショートカットの女の子が、席に腰掛けている仲良しの女の子に耳打ちした。


「ああ、ふゆくんと潮田うしだ

さっき中牧が潮田を殴っちゃったの。」


「ええっなんで?」


驚愕して声を荒げた。


「私も詳しくはわからないけどね、潮田が中牧の買ったばかりのスニーカーを踏んだからだって。」


「うひゃあ…そんな理由で?

でも冬くんがなんで潮田の隣でいるの?まさか冬くんも殴られたの?」


冬児までもが中牧に殴られたかの問いに首を振り否定した。


「それは、ほら…。」


眼鏡をかけた女子は数秒ほど間を置いて話す。


「私は4年3組で冬くんとも潮田とも同じクラスだったじゃん?

だから知っているんだけどね、冬くんて正義感が強いんだ。」


「うん。正義感が強いのはあたしも知ってる。」


ショートカットの女の子が相槌をした。


「4年生の頃、潮田がいじめられていた事があって、冬くんが潮田をいじめから守ってあげた事があるの。」


「それは知らなかった。冬くんらしいなぁ!」


ショートカットの女子は胸元で腕をクロスさせてはにかんだ。


「でもね、いじめられていた原因は潮田がね、クラスで人気のスイーツニャンコのカードを盗んだじゃないかって話が男子を中心に浮上したの。」


「そういえば4年生の時、3組で泥棒した子がいる話が私のクラスにまで伝わってきたっけ。

犯人は潮田だったんだ。」


ズレた眼鏡を人差し指で整えた女子は少し首を傾けて言った。


「…犯人は結局、わからずじまいなのよ。

盗んだ現場を誰も見てないから。

ただねスイーツニャンコスイニャンのカードが盗まれるのはきまって体育の時なんだ。」


「盗まれたのは1回だけじゃないの?」


「計4回。

そのうちカードが盗まれたのは3回なんだけど。

潮田が犯人だと疑われたきっかけは、忘れ物をした男子がたまたま教室に戻った時、潮田が机の引き出しや手提げやロッカーを荒らしていたのを発見したの。

それからクラスのみんなは潮田を疑うようになったんだ。」


「その状況を目撃したんなら犯人は潮田しかいないよ。」


「…まあね。

クラスでは3回も盗まれているから自衛の為にって事でスイニャンのカードは潮田には秘密にして家がお金持ちの男子が代表して預かったんだ。

わざわざ、小さな金庫を家から持ってきてね。

厳重に鍵をかけて、私も知らない場所へ隠したみたい。

その甲斐あってか盗まれる事はなかったんだけど、金庫を使って厳重に保管されている事を知らない潮田は教室でカードを物色しているのを隠れて監視していた男子達に見つかったんだよ。

それから男子達は潮田を攻撃するようになったの。」


「うわぁ…。」


「かなり酷かったよ。

ぶったり蹴ったり階段から突き落としたり…おまえが犯人だろって詰め寄っても潮田は認めず否定し続けていたの。」


ショートカットの女の子はカーテンから足しか見えない2人を見つめる。


「クラス中が潮田を責めるなか、冬くんだけは潮田を庇ったの。

みんなは冬くんを信頼しているし好きだから、冬くんに免じて暴力は止まったの。」


「冬くん格好良い!」


「…もしかして冬くんの事、好き?」


ショートカットの女の子は恥ずかしそうに頷く。


「やっぱしね。でも冬くんは私のだ。」


眼鏡をかけた女の子が言う。


2人は笑いながら身体をくっつけて戯れている時、トイレに行った中牧が教室に戻ってきた。


「あっ中牧だ。」


眼鏡をかけた女の子が小声で言った。


襟足が長くて威圧感のある風貌の中牧はパーカーのポケットに手を突っ込んだまま、席にはつかずドア付近で教室を見渡していた。


クラスメイトは中牧と目を合わさぬよう下を向いたり本を読むフリをして、プレッシャーに耐えていた。


中牧はカーテンに隠れている2人を見つける。

上履きの踵を履き潰した足取りで、朝の光を遮るカーテン付近に向かって行った。

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