第5話 入学式

 東京ドームの収容人数は5万5千人。入学式は、東京ドームよりもちょっと狭い超都市のドームでおこなわれた。収容人数は1万人ほど。なにぶん新入生を10万人も受け入れているので、入学式の式典は10回に分けておこなわれた。


 ほとんどの生徒はレベル1かレベル2の超能力ばかりで、3年間、地道に鍛えてきたレベル3の生徒は稀だった。まあ、海人が策士こと大地林に目を付けられた原因は、操作系である『女性洗脳』の影響なので、電車襲撃の歓迎は仕方ないと思った。


「レベル4の操作系『十人十色』が、いずれ敵になる覚悟をしておかないと……」


 そっと呟く。


 対応策は、まだ何も考えていない。治安維持部がどんなものか目に見えてくるまでの辛抱。海人はレベル3の『女性強化』だと偽らなければならない。


 超能力を乱用すれば策士である大地林に捕まってしまう。ならば、極力『武士道』

の空に身を守ってもらい、海人自身は自分を無能の道化にしてピエロを演じなければならない。


 すごく難しい。


 アンダードッグ効果や判官びいきを使って、『女性洗脳』を隠しながら弱者として生活するのだ。


「アンダードッグ効果……そういえば……」


 入学式が終わり、男子寮と女子寮に振り分けられる生徒たち。海人は男子寮へ。空は女子寮へ向かった。コマが常に周囲を警備してくれるわけではない。まあ、問題ない。安全装置があるから命の心配はない。


 アンダードッグ効果で、ある組織を思い出し、一応、連絡先を聞いておいた、ある組織のリーダー。唐変木直人に連絡を取る。唐変木直人は貴重な情報源だ。


 超都市で生きていくには、まずは情報が必要になる。仮に、知り合いの先輩に超都市の研究内容や生き方を勉強できればこれほど心強いことはない。


 スマホはすぐに鳴った。


「おう、俺だ」


「唐変木さん。ちょっといいですか?」


「何だ?」


「今から会いませんか?」


「いいだろう。俺らのたまり場に来い」


 超都市で2年の先輩にアポイントメントが取れるのは心強い。また、不良の集団でレベル1ということは、戦闘力は皆無でもゴキブリ並みにしぶとい事を意味する。


 1年間、超都市から脱落せずに生きてきたのだ。後学の為に唐変木直人とその他の愉快な仲間たちに会いに行った。


 たまり場は、キャバクラのVIPルームみたいなところを想像していたが、現実は違った。ぼろいゲームセンターの一角だ。レトロなゲームがずらりと並んでいて、令和から平成を通り越して昭和感を滲み出していた。もうアンダードッグの不良以外は誰も近づかない。そんな、辺ぴな、たまり場だ。


「よう、坊主。入学式は済んだか? さっきは操作されていたとはいえ悪かったな」


「いえいえ。構いません。策士に目を付けられたのは僕だったから」


 不良集団アンダードッグのメンツは空が『武士道』でボコボコにした顔ぶれ。唐変木直人以外は海人の顔を見てビビり散らかしていた。横に空の姿がないのを見て一安心する。


「こんな底辺のたまり場に何の用だ?」


「超都市の情報をください」


「情報?」


「例えば、7人の超人(レベル5)についてとか」


「ああ、いいだろう」


 唐変木直人は自販機から、顔認証で缶コーヒーとお茶を買う。


「高級なものは用意できないが、やるよ。座りな」


 海人は冷たい缶コーヒーをもらい、案内されたベンチに座る。


「7人の超人(レベル5)。あれは化け物だ」


 7人のうちに、何人か女性がいれば、ワンチャンス『女性洗脳』で操れると思ったが、人生そんなに甘くないと海人は思い知る。唐変木直人の話はどれも荒唐無稽で、まるで神を相手にしているかのようだった。特に、操作系は、自分と同じか、自分より下のレベルの超能力者しか操れないので、もし海人が超人(レベル5)を洗脳できるとすれば、それは海人自身が『女性洗脳』を超人(レベル5)まで上げた時だけ。


 レベル2の唐変木直人がレベルを上げる方法を知るよしもないので、蛇足な質問はしないでおいた。本当は『地道』な努力以外で手っ取り早くレベルを上げたい。しかし、肝心の相方の空が女子寮に行ってしまったので、高校とプライベートで会う時間が極端に減ってしまうのはきつかった。


 何か、治安維持部に見つからないように女性を洗脳する方法は……。


――あった!


「先輩。『性別変更』を見せてくれませんか?」


 ちょっとずつアンダードッグのメンバーと仲良くなる作戦に、海人は出た。

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