第4話 策士3

「断る」


 超能力者はレベルを上げて研究者や政府に仕事を任されて、将来、2年間、働いて天下るエリート候補生。高校生なんて適当にダラダラ過ごせばいい。海人の場合、『女性洗脳』の研究に没頭すること。


「治安維持部なんて入れません。空の場合、見ての通り、剣道部に入部予定です」


 竹刀を扱う空の『武士道』と剣道部は相性が良い。コマとしてさらに強くなってもらうためには剣道部で己を磨き上げることが重要。


 策士である大地林は残念そうな顔をする。


「そうかい。ちょっと青野君だけ3号車両に来てくれるかな? 大事な話がある」


「分かりました」


 空を置いて、二人で3号車両へ。すると、大地林はこう話し始めた。


「操作系は嫌な奴が多い」


「そうですか。僕は強化系ですよ」


「君、『女性洗脳』だろう」


「?」


 海人は固まる。人間、秘密がバレた時は二パターンあり、焦るか、固まるか。海人は黙秘を貫く。


「ボクは『十人十色』で研究者を操って機密データを見たことがある。特に操作系。君は『女性洗脳』という素晴らしい能力だった。普段は、飛行空さんを操ってエロいことしているの?」


「エロいことしてないわい!?」


「クスクス。君、純情そうだからね」


 電車はガタゴトと行先に向かう。振動が、まるで武者震いのごとく海人の動揺を代わりに表現してくれるようだ。心臓の鼓動が上がる。


「安心していい。『女性洗脳』はボクと君だけの秘密だ」


「何が狙いだ。金でも欲しいのか?」


「いらない。いらない。操作系だから分かるでしょう?」


 小さくつぶやく海人。


「ああ」


「ボクは、ボクたちは――優秀なコマが欲しいのさ」


「本当に性格が悪い。大地先輩」


「お互いだよ。青野新入生」


 操作系はレベル至上主義。お互いに操作系である場合、レベルの高い奴が低い奴を操作する。逆に、レベルの低い奴が高い奴を操作しようとすると、反射される。無効化されるのだ。


 海人の『女性洗脳』はレベル4。大地林の『十人十色』はレベル4。


 海人は相手の操作を抗うことができた。しかし、レベル4の操作系は切り札として持っておきたい。なので、策士である大地林の操作に順応することにした。


 『十人十色』が発動する。


「犬のポーズになって椅子になり、ボクを乗せなさい」


「ワンッ!」


 体が勝手に動く。海人は犬のポーズの四つん這いになり、背中に大地林を乗せる。


「先輩。こんなご褒美いらないのですが?」


「安心して。操作系が効くかを試しただけだよ。青野新入生の『女性洗脳』はレベル3相当だね。ボクよりも下で安心したよ」


 ――まあ、本気で抵抗しないだけでレベル4相当かもしれないけどね。


(可愛いロリっ子のくせに、本当に、嫌な奴)


 海人は心の中で悪態をつく。


(将来、必ず、操作してエロいことをしてやるぜ)


 彼の目標は悪い女にエロいことをすることだった。


 ひょいっと、背中から大地林が下りる。


「ボクの予定はここまで。操作系のレベルを把握しておきたかった」


「電車を襲撃までして、懇切丁寧にありがとうございます」


 立ち上がって、服の汚れを取り、嫌味を言う海人。


「ボクのおもちゃである『治安維持部』に入らないのであれば、ボクたちは敵同士になるかもしれない」


「御冗談を」


「女性をかどわかす悪魔は治安悪化の根源だからね」


「大地先輩の目の届く範囲では悪用はしません。神に誓って」


「バイバイ。青野新入生。楽しかったよ」


 大地林が3号車両から出て、2号車両に行く。ちょうど電車は止まり、目的の新入生の式典会場に到着した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る