第3話 策士2
状況を整理しよう。
電車は3両編成。中央の2両目に、一年生が10人ほど集まっていた。青野海人、飛行空、大地林を含めて、その他7人の一年生たち。男女はほほ平等。
10分おきに、『十人十色』によって操られて襲ってくる2年生たち。
リーダー格はアンダードッグの唐変木直人。彼はレベル2の『性別変更』能力者。
この中に犯人がいる可能性は薄い。なぜなら、1年生は無関係だから……また唐変木直人はすでに超能力を発揮しているので、『十人十色』の策士ではない。
本当に1年生は無関係なのか?
海人は気づく。フェルミ推定だ。
2024年の高校生の数は300万人。10人に1人が超能力に開花する。そこから導き出される答えは?
「あ? 推定した」
「何かわかったの? 青野君。ボクらに残された時間はわずかだよ」
ちょうど襲撃まで1分を切ったころ。
「策士の正体が分かりました」
海人は答えを披露した。
「犯人はこの中にいます!」
「海人。誰だそいつは? 私がやっつけてやる」
「まあ、そう慌てるな。竹刀少女」
海人は拘束されている2年生のドレッドのヘアの先輩――唐変木直人から離れて、後方で待機していた1年生の方に振り向く。
「フェルミ推定はこうです。日本全体の高校生は300万人。その1割、約30万人で超都市は形成されている」
「ふむ。当たり前の推理だな」
「推理じゃなくて推定だよ、空。それから導き出されることは、1年生、2年生、3年生の割合は、約3分の1ずつ。約10万人になる」
そして、海人は1年生全員を指さした。敵として……。
「僕たちの電車は入学式の前日または当日には超都市に着かなければならない。明らかにおかしい……」
すっと手を挙げて聞いてきた大地林。
「何がですか?」
「人数がだよ。大地さん」
電車は10分おきに出る。例えば、8時間を10分で割ると、48回の電車の行き来がある。約10万人の入学制だ。48回を1万人で割ると、ややこしいのでフェルミ推定して50回を1万人で……1万÷50=200人。つまり……。
「この電車には最低200人は1年生が載っていないとおかしいことになる」
東京の横にある超能力都市。推定で、電車の中の人数は200人前後と予想される。
だから。
「犯人は1年生の振りをして電車に乗っている2年生だ!」
「なるほど、海人。犯行現場に居続ける奴が策士」
「そう。策士はずっと僕らを観察していたんだ」
あとは簡単。大地林を含む8人の1年生たちから能力を聞き出して本当にできるか確かめてみるのみ。尋問すればいい。
パチパチパチ。
誰か一人が拍手した。
パチ。
パチパチ。
パチパチパチ。
すると、2人、3人、いや大地林を含む1年生全員が拍手をし始める。
「素晴らしい。竹刀で敵を圧倒する飛行空さん。フェルミ推定で困難を解決する青野海人君」
「大地さん?」
「正解。この電車は君たち2人のために用意された特別なもの。あとの1年生はボクたち2年生が“1年生のバッジをつけて”偽ったものだよ」
「!?」
8人の1年生。全員が2年生で、策士はこの中の一人?
「じゃあ、『十人十色』の策士は誰だ?」
大地林がまたまた手を挙げる。今度は、堂々と。
「レベル4の『十人十色』にして超人(レベル5)に最も近い者。策士はボクだ」
「――なにぃいいい!?」
一番驚いたのは拘束されているドレッドヘアの先輩、唐変木直人だった。素っ頓狂な声を上げる。
「あのロリちゃんが策士!?」
「すまないね。アンダードッグの諸君、盛大に利用させてもらった」
続けて、大地林は、
「『十人十色』は他人を10人に操る能力ではない。みんな違ってみんな良い。十人と十色の、20人を一斉に操る超能力だ。車掌や運転手を含めてね!」
「なるほど。アンダードッグの10人、1年生に扮した2年生の7人。そして、車掌や運転手などのその他を含め、20人を同時に操っていたのか? 大地林?」
恐ろしい天敵。大地林。ちっちゃいお胸と体以外は、かなり堂々として大きい。
「毎年の恒例行事だよ。レベル3に相当する有望株を入学前からスカウトする」
「スカウト?」
「うん。策士であるボクが部長を務める――治安維持部に入らないか?」
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