第2話 策士1

「一の型。斬撃」


 電車内に突入してきた金属バットを持った男集団を一振りの竹刀で一人ずつ倒していく空。


 あっという間に暴漢が撃退されていく。たった一人の少女の竹刀によって。一人を残して、全滅、気絶した武装集団。


 リーダー格のドレッドヘアが降参する。


「たんま、たんま、待ってくれ。俺たちは指示されてやってきた。すみませんでした!」


 と降参するドレッドヘアの2年生。彼は負けを認めた。


 空は竹刀を向けて詰問する。


「あなたがリーダー? 何のために? どうして電車を襲撃したのですか?」


「俺たちは策士に操られて襲撃しただけだ。ここのメンツは『負け犬たち』通称アンダードッグと呼ばれる落ちこぼれの不良集団だ」


 ドレッドヘアの2年生は弁明する。彼らはレベル1の落ちこぼれ集団。人数は全員で10人。ドレッドヘアが健在だから、気絶したアンダードッグは9人。ドレッドヘアを合わせて10人のただの不良集団だった。


「俺たちは踊らされた。策士によって」


「策士?」


 海人がしりもちをついているドレッドヘアに疑問を投げる。


「ああ、策士は『十人十色』というレベル4の超能力を扱う2年生だ。俺は奴に操られて、ただ、体を操作されて電車を襲撃した。策士の目的は不明。ただ、すごくやっかいな敵だ」


「先輩の名前は? 能力は? レベルは?」


「俺の名前は唐変木直人(とうへんぼく・なおと)。能力は『性別変更』レベル2だ」


「アンダードッグはレベル1の不良集団だったのでは?」


「悪いな。新入生の坊主。俺だけレベルは2なんだ。だからリーダーをやっている。まあ、超都市でレベル2は偏差値50以下だ」


 海人はひょっこり『武士道』で竹刀を構える空の横に並ぶ。ほうほう、『性別変更』のレベル2。なかなか使えそうな能力だな、とTS設定にご満悦する。


 10人足らずの新入生は、一段落した襲撃に、ひっと一息をつき、ガラスを片付け始める。すると一人の少女がぱちぱちと手を叩く。


「竹刀の彼女。すごいっすね!」


 小柄なショートヘアーの女の子。一年生のようだ。


「君は?」


「ボクは大地林(だいち・りん)。新入生だよ」


 右胸にある制服のボタンを見るに、今年度の一年生のようだ。胸はロリっ子。空の普通のバストよりもかなり小さい。


「Aだな」


「何が?」


「何でもない。それより大地さん。2年生の先輩は気を付けた方が良い」


「策士だね。ボクたちをねらっているのかな?」


「分からない。今後も襲撃があるかもしれない」


 新入生同士で交流を深めていると、土下座から顔を上げたドレッドヘアの2年生の直人が口をはさむ。


「そうだ。策士から手紙があると言っていた。開けてく……開けてください」


 丁寧に竹刀を持った空に渡す。


「空。開けてみて」


「分かった。海人」


 空の開けた手紙を覗き見ると、こう書かれていた。


『新入生の諸君。策士からプレゼントだよ。10分間ごとに2年生の先輩が電車を襲撃します。なお、これは訓練だと思ってください。電車の偉い人には許可を取ったよ。早く2年生の私を見つけてね。ピース by策士』


「なんじゃこりゃぁあああ!?」


 どうやら策士は1時間おきに襲撃する算段。電車が超都市の目的地に到着するまで後1時間。つまり、残り6回の襲撃を覚悟しなければならない。


 困った1年生たち。ドレッドヘアの2年生は意識を保ちながら体を操られていたらしく。あまり役に立たない。ならば、立つしかない。


「みんな集まってくれ。僕の名前は青野海人。先輩を全員倒した彼女は飛行空。これから毎度10分おきに襲撃が来る。それまでに策士と呼ばれる2年生を見つけなければならない」


 10人足らずの新入生たちは落胆する。これが超都市。治安の悪さピカイチの市の洗練だった。


「大丈夫。安心してくれ。敵はレベル3の『武士道』である空が全員倒す。だから僕たちは推理に専念しよう」


 こうして一年生は、たまたま乗り合わせた関係で、一致団結する。


「海人。私は頭があまりよろしくない。だから任せた」


「おう、任せろ」


 男子のリーダーを海人、女子のリーダーをロリっ子の大地林に任せる。


「まず車内に策士がいないか確認する。全員、右胸のバッジを見せてくれ」


 海人は男子のバッジを確認する。女子は大地林に任せる。さすがに右胸を凝視するのは度が過ぎた。思春期の恥ずかしい症候群だ。


「男子は1年生のみ。2年生はいない」


「女子も1年生だけだよー」


 元気に返事する林。ナイス音声。将来は声優になれそうな逸材。


 と適当に推理せず、今度は襲撃犯に期待する。気絶した彼ら、もしくはドレッドヘアの2年生、唐変木直人が犯人の策士かもしれない。


「おい、性別変更」


「何だ。坊主? ちなみに俺は策士じゃないぜ」


「試しに能力を使ってみてくれ」


「ああ、了解」


 2年生の直人は気絶している部下を一人、触り、女性に変更する。制限時間は3分とちょっと。ゆえに最弱。レベル2になったのは遠隔から性別変更できるまで進化したから。しかし、3分では風呂の覗きすら使えない役立たず。結果、手で触った方がより確実に超能力を行使できる。


 そして、男性から女性に変更する。確かに、見た目は胸が大きくなり、体のラインが丸みをおびる。


「大地さん。確認をお願い」


「かしこま。お、これ、本当に女の子だよ」


 林が気絶した2年生の胸を触り、下半身の局部を確かめる。どうやら本当に『性別変更』がされたらしい。男だった気絶した2年生は女になっていた。


「坊主。俺の力は3分とちょっとが限界だ。策士は『十人十色』。これで俺の冤罪は晴れるわけだ」


「ああ、疑って悪かった」


 となると、策士はいずこ?


 電車の中で素振りをする竹刀少女をよそに、推理は続く。もうすぐ10分が経過。


 ――これは困った。焦った。海人は長考した。

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