第6話 唐変木直人1(恋愛編)

 「『性別変更』を見せてもいいが交換条件がある」


「何ですか?」


 先輩からの交換条件。労働系を予想した。闇バイトなら断らないといけない。果たして、交換条件の内容は?


「俺の告白を応援してくれ」


 彼の言葉に9人の手下が、ウヒョー、と盛り上がる。


 こ・く・は・く・の・お・う・え・ん?


「告白って、あの告白ですか? 恋愛の……」


「おう。あの告白だ。俺の恋愛を手伝ってくれ」


「相手は誰ですか? まさか大地林先輩じゃ?」


「違う。あんな物騒なロリ策士を相手にできるか。名前は坂道絆(さかみち・きずな)。白薔薇高校の2年生。レベルは3だ」


 海人は、どうやら唐変木直人の信頼を勝ち取るために、愛の応援をすることになった。


 3月は別れの季節。4月は出会いの季節だ。


 海人にデートの経験はない。しかし、空と毎日修行することがデートというのであれば、デート経験はある。


「坊主。いや、青野様。お前の助力で俺を男にしてくれ」


 唐変木直人は、彼女いない歴=年齢の男で、アンダードッグの仲間内では熱いハートを持って接しており、人気がある。が、女性相手は、からきしダメだと言った。


「ダメなんだ。坂道さんを相手にすると、緊張して言葉が出なくなる」


「坂道さんと出会って、いくらくらい経過しますか?」


「ざっと3ヶ月だ」


「なるほど」


 坂道絆は昭和のレトロゲームが好きで、よくこのたまり場に通っていた。そしらぬ他人から、唐変木直人がゲームを教えてあげたところ、二人の仲は急接近。連絡先を交換し、仲良くなって3ヶ月が経過した。もうそろそろ告白の時期だというのに、男である唐変木直人がビビってしまったのだ。


「女性と交際した事が無いから分からない。なあ、青野。1年くらいずっとゲームを教えて仲良くなればいいのか?」


「それは良くありません」


 青野海人は、統計と恋愛工学を用いる。


 統計では、女性への告白がうまくいくのは3ヶ月以内が最も多い。逆に、1年以上の付き合いがある女性への告白は、かなり成功率が落ちる。と統計にある。


「先輩。つまり告白するならば、出会って3ヶ月以内の今が最初で最後のチャンスになるわけです。友達関係を1年以上、引き延ばしにすると告白は絶対に失敗します」


 これには男性脳と女性脳が関わってくるのであるが、今は省略する。


 恋愛工学に置いて、3回目のデートで決めるのがベスト。できれば1回目、2回目のデートの間にホテルにゴールインしたい。


「でもでも。俺はバカだから分からないけれども。相手の坂道さんが俺に好意を抱くまで待ってもいいんじゃないか?」


「それもダメです。女性は基本、男性とお喋りして好意を抱きません。セ〇クスしてから初めて女性は男性に好意を抱くのです」


 オオー。


 セ〇クスという単語が出て、歓声が沸く男性陣。15歳、16歳の男の子は、頭の中は常に女とセ〇クスでいっぱいだ。勉強どころではない。


「結論から言います。唐変木直人先輩。今すぐ坂道絆さんを誘ってデートに行って、流れでそのままホテルに連れ込んでください」


「ハードルが高いぃいいい!?」


 海人のスパルタ恋愛講座では、デートして、満足した女性をそのままホテルに誘って、OKし、男女二人がホテルに到着したら、セ〇クスは目の前だ。お互い未経験でもコンドームを買い、流れでセ〇クスしたら120点。満点だ。


 海人は統計と恋愛工学を使い、唐変木直人をサポートした。


「爪を切ってください。坂道先輩と会ったら飲み物をプレゼントしてください。清潔感を保ってください。ひげを剃ってください。制服は高校の制服のままで。デートスポットは、マイホームで勝負するのが普通なので、このゲーセン内でデートしてください。食事は必ず男が奢ってください。最後に……」


「最後に……?」


「手下はつけずに、一人で戦ってください」


「ほぎゃぶ!?」


 男女が一対一でデートするのは当たり前体操。仲間が常に守ってくれるとは限らない。ゲームセンターにいれば常にアンダードッグの手下がいて会話をサポートしてくれた。しかし、仲間はもういない。唐変木直人は一人で戦い、男にならなければならない。


「青野。ハードルが高くない?」


「いつも男友達で群れるオスより、孤高に女性をリードするオスの方がモテますよ」


 起業家や経営者がモテて、ニートがモテない理由。メスは組織のトップであるオスに惹かれる。社長は組織のリーダーであるが、ニートはヒエラルキー最底辺。


 まあ、唐変木直人は、落ちこぼれの不良集団であったが、組織のボスであることとマイホームがゲームセンターであったことが肯定的に働いた。


 同じレトロゲーム好きの坂道絆先輩を口説くにはちょうど良い。


「唐変木直人先輩。最後に付け加えます。話はずっと聞いてください。会話の8割は女性に喋らせてください。黙って話を聞く男はモテます」


「ちょっと待て。青野。メモさせてくれ。俺は頭の要領が悪いんだ」

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