第3話「大火炎」

 レイドの仲間入りを果たしてから一ヶ月が経とうとしていた。


「次は【二級】に位置する取得階級を持ち合わせた【転域】の習得に入ろう」


 この時に俺が次に取得するのは、【通るべき道を飛ばして移動できる】術式だ。これが使用でからようになると、どこに移動するにせよ便利になるのは間違いないだろう。


 しかし、その前に外出の許可が下りたので、今から少しの間だけ出掛けることにしたのである。


(確か通り魔が出た時にレイドが叫んだ通りだと、街を管理しているのが【騎士団】になるな? だったら、そこでお世話になれないか尋ねてみるのも良いだろう)


 そういち早くあの場所から安全地帯に移りたかったので、働き手として相応しいところを探す必要があったのだ。その労働先と言うのが【騎士団】なのであった。そこはレイドみたいに脅迫されるような場所ではないと思うので、そこが一番俺に適していると考えられるのだ。


 そして周囲にいる一般人に声を掛けては、【騎士団】の情報を収集する。そしたら、そこで【騎士団】の団員を募集している先が見つかった。しかし、そこにどうやってレイドにバレないで挑めるのかが問題になって来るのである。


(まずはレイドが忙しくて帰って来れない日を選ぼう。そこで確実に騎士団に所属できれば、それ以上に安全な場所はない。しかし、騎士団のメンバーになるには、それなりに強くないと入れないなら、レイドの下でさらに強くなる必要があるな?)


 そう内心で思い立つと、俺はその辺で引き返した。騎士団について探っていることがバレたら、その先は真っ暗になってしまう。なので、あまり立ち寄らないようにはしているが、危険を受かるにはどうしたら良いか考えているのだった。


(もし【転域】が使えるようになることで、戦闘にも役立つ方法を探る必要があるな。【鉄鎖】はすでに取得済みだから、それを使って拘束することは可能だし、そこを通じて凍らせる手段も十分に活かせる。そこに【転域】を加えることで、背後から拘束すれば、そこで抵抗される恐れもなくなって来る。そこでさらに攻撃に特化した術式があれは心強い)


 そんな風に考えながら帰ると、そこにはレイドがいて、エルシャと会話をしていた。そこに俺は帰宅した時の挨拶をすると、それに二人は答えてくれる。そして久し振りの外出はどうだったのかを聞かれるのであった。


「とても良い時間になりました。本屋にも立ち寄ったのですが、術式についてはこちらで学べると思って購入はしませんでした。しかし、そこで攻撃に特化した術式を教えて欲しいのです」


「ほう? 良いぜ。教えてやるよ」


「ありがとうございます!」


 その時、俺は思い切って攻撃型の術式が学びたいと希望してみた。すると、レイドはそれに賛同してくれ、教えてくれるみたいだ。そんな風に敵側から術式について学ぶのは、少し気が引けるところもあったが、これも俺の思惑が通じるための策だったのである。仕方のないことだ。


 そしてレイドが俺に教えてくれた攻撃型に分類される術式とは【大火炎】だった。それは【炎を放出した時の軌道を自由に操作したり、手足や胴体などに纏って強化させる】と言った術式である。これらには必殺技を生み出すことが出来る術式とされていた。これで炎を拳に纏わせることで強化させた【焦炎鉄拳】を身に付けるように言われる。それはレイドにも扱える【大火炎】を活かした必殺技みたいだ。それで殴れば大ダメージを与えることが出来ると、そんな風にアドバイスをもらった。


「これは炎系統に分類される術式だ。それも軌道をコントロールしたり、身体の部位を強化させたりする。だから、これと【鉄鎖】を組み合わせれば、拘束した状態の対象を引き付けてから殴ったり、炎を放出させると言ったコンボが繰り出せる。便利だろ?」


 レイドからの説明は大体理解できた。それなりに真面な術式を教えてくれるけれど、エルシャの心臓に爆弾を仕掛けることで縛る行いは許せるものじゃない。しかし、彼女はレイドと落ち着いた会話を交わしているところを見ると、やはり忠実な仲間に加わっているのかも知れないと思わされた。しかし、それがもし生き延びるためなら、その時はエルシャを救う手立てを考えたいと思う。彼女が救えないようでは俺が英雄として生きることは間違いであると判断されたくなかったのだ。けれど、心臓に仕掛けられた爆弾をどう対処するのかによっては、エルシャを救い出すことが出来ないかも知れない。だけど、エルシャが純粋に脅迫によって動かされていたなら、俺以外に彼女のことを救える人間はいない訳だ。俺にはレイドを討つ使命を持たなければいけない。なので、この場でレイドから教わった術式で彼を倒すのであった。


 それから俺が【大火炎】を取得する修行を始めた時だ。そこでエルシャから【大火炎】を取得させるためのコツを学んだ。まず術式を取得して行く度に魔力は増加する傾向にあると言う。なので、魔力の限界を超える必要性はなく、術式の取得だけでその上限は常に増しているのであった。そこでエルシャが言うには【大火炎】を使うに当たって内心に浮かべるイメージによって具現化することが出来るらしい。それを忘れずに行うことで、あらゆる術式を取得できるみたいだ。


 俺はエルシャに教わった通りにすると、確かにイメージしたみたいに魔力が変換されるのが分かる。それを意識しながらまずは小さな炎が発現し、それによって少しずつその火力は増して行く傾向を見せた。


「その調子で今度は放出してみな? その軌道がコントロール出来て来るだけで、取得率が各段と上がるよ」


「こんな感じですか?」


 俺は僅かな炎を放出させるのと同時に軌道を変える技術を試みた。すると、炎を右に曲がるようにして意識したら、何とそれが実現したのである。


「よし! それで良い。大分コントロールが機能して来てるじゃないか? そんな感じで操れると完成度に磨きが掛かる」


「分かりました!」


 そこで俺は積極的に炎の軌道を変える技能を鍛えた。軌道が操れるなら、それに越したことはないのだ。


 そして俺が【大火炎】の取得を目指して三日が経った。今度から取得に励んでいる術式の完成まで僅かだと天命から告げられ、その次には【転域】を覚えたいと思う。


 そこで騎士団の情報を集めていた時のことだ。騎士団に入団するには実技試験を受ける必要があるらしいが、その内容を掴むことが出来た。実技試験の内容は審査員の前で一対一のバトルを行い、そこでより術式の扱いに長け、戦闘技能において優れた人材が選出されると言う。例えバトルに敗北しても、少しでも惜しい結果を残したり、今後の成長に期待できる人材は選抜されるみたいだ。開催日は月に一度のチャンスであり、何度もチャレンジする人たちもいるので、幾ら挑戦しても構わないことになっている。しかし、俺の場合は一発で選抜されない限りは命が危ないので、慎重に出場する機会を窺いたいと思っていた。騎士団に入団できれば、給料や寝床を確保することが出来るので、このチャンスを逃す手はないのである。


 そして今日も俺の下にレイドの姿はなかった。何故なら他の仲間と日頃から活動をしているみたいで、聞いた話によると、彼らは着実に支配を進める勢力を集結させていたのだと言う。それを聞いて俺はいつか彼らを阻止する日が来るのだと、その意思を維持しながらまずは騎士団のメンバーに入る必要があった。


(大分火力も上がって来た。炎の規模も徐々に大きくなっている。これで攻撃手段は確保できたと見て良いだろう。これと【転域】のコンボで背後に回ったところに炎を放出し、燃やし尽くして倒す戦法で行けば、大体の術師を圧倒することが出来る。他にも鎖で縛り上げた対象に炎で燃やしたり、凍らせることで戦闘不能に陥られせるのも有効な手段だ)


 そんな風に戦術を組み立てながらも、俺は術式の取得を目指した。戦術に合わせることで、戦闘をどれだけ優勢に進められるかが鍵を握る。そこで俺は様々な戦術の考案をすることによって魔王退治に活かすのだった。


 そしてニヶ月後。俺はこれまでに三種の術式を取得した。【転域】【大火炎】【ボルトブレット】だ。この中でも【大火炎】と【ボルトブレット】は攻撃に特化しており、【転域】との組み合わせが抜群である。【ボルトブレット】に関しては【電気を凝縮させて弾丸を生成する】と言った術式で、どこからでも射出できることから、今の段階だと一度に三発ほど生成させられるのだった。レイドが言うには熟練度を上げることによって一度に生成できる弾の数が増えるらしい。なので、俺は次の術式を取得するのでなく、一度の生成でより弾の数を増やせるように鍛えるのだった。


「この期間で大分術式を取得できて来たしゃないか? この調子なら魔王退治も夢じゃないな?」


「そうですね?」


「しかし、対人戦闘に大事なのは術式だけじゃない。まず動き方も重要になって来る。そこでレッドガンにはそれを教えておこう。これを教わるのに損はないだろう。やってみたいか?」


「はい! よろしくお願いします!」


「それじゃあ立ち回り方を教える。まずは私と対人戦闘をするよ? そこで君にどれだけのセンスがあるのかを確かめたい」


「分かりました! やって見せます!」


「その威勢は良いね! しかし、どこまでやれるかな?」


 そんな感じで俺はエルシャと対人戦闘を交わすことになった。もちろん熟知している彼女に勝てる訳ないとは思っていたが、それでも一応俺だって戦術を考えるだけのことはして来たのだ。それを活かしてどれだけ通じるのか試したかった。


「それじゃあ始めるよ?私の合図でスタートだ!」


「はい!」


「それではスタート!」


 その合図と共に俺はまず相手の動きを止めに入る。それもレイドが俺を救う時に見せたのと同じ【鉄鎖】で拘束を試みるのだ。


「これでどうだ!」


「ほう? レイドがよく使う手段だな? しかし、攻略済みだ!」


 すると、伸ばした鎖を自ら手を出し、敢えて巻き取ることでそれを制する。そこでエルシャが制した鎖は引っ張ることで俺の動きをその場で制限させた。


「どうよ? その術式の弱点はいかに掌が封じられてしまうことだ。これで一旦発動させた術式を解かないとかないとでしょ?」


「くっ! それなら次の戦術だ!」


 俺は即座に【鉄鎖】を解いて、次に使用した【転域】によってエルシャの背後を取る。そこから炎を噴射させると、その戦術でさえも彼女は攻略してしまうのだった。


「その術式は単純に背後を取りに来る手段としては有効だ。しかし、初めから警戒するに越したことはない」


 エルシャはすぐに背後から迫って来る炎を届かない距離まで走り出した。それによって炎が届くこともなく、さらにエルシャは取得階級の中でも一番高い術式を発動させる。


「行くわよ? 【領域改変】!」


「なっ⁉︎ 早速来たか⁉︎」


 俺もその術式だけは発動される訳には行かなかった。俺が立っている領域まで改変させに来るだろう。しかし、その術式は自身の有利な陣形に変えてしまう効果を発揮するとしたら、俺はそれを受けるのだった。


(足元が改変させられる……! 一体どうするつもりだ⁉︎)


 すると、彼女が下した地形の改変は俺の足元に及んだ。それも足元の地形を変えることで、俺の動きを封じる手立てに出たのであった。


「君の足元からは鎖が出て来るわ。私の【領域改変】によって何でも生み出すことが可能なのよ!」


 宣言通りに鎖が足元に現れ、そこから俺を縛り上げるのだった。この術式の凄いところはゼロから鎖を誕生させてしまう万能性が抜群に至っていることだ。【領域改変】が行われた瞬間にエルシャの手元からは魔剣が現れて、それを握って彼女は最後に斬り付けに来た。すると、俺の頭上で斬れる寸前で止めるのである。


「そこまで。君の戦術もまだまだね?」


「参りました……」


 そこで俺はエルシャに負けると、少し悔しく思える感情が込み上げて来る。それが自身の未熟なところであり、これから改善するべきだった。そんな風に俺の動きはエルシャの思った通りだったみたいで、それ以上の戦闘は覆せるほどではないのだ。


 俺はそこで反省を施し、次に活かせる戦術を組み立てるのであった。

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無職だった俺が英雄として転生した件 源真 @mukuromukuromukuro

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