第2話「秘密結社の存在」

 俺は翌朝からレイドが用意してくれた部屋で一夜を過ごした。そこは広い一室になっており、レイド以外にもそこに住んでいる人が数人いるらしい。その人たちには後で会った時に挨拶をしようと思っていたが、そこでレイドから衝撃的な事実を口にされた。


「秘密結社⁉︎ ここはその本部なの?」


「あぁ。名付けて【エターナルエデンズ】って言うんだ。君も入るだろ?」


「目的は?」


「術師による支配だ。目的は魔王と変わらないが、いつか生き絶えるのを待っている。そこで君が魔王を退治するなら、それだけ有り難いことはない。だから、英雄になるなら俺の活動に参加しろ。悪いようには使わないからよ」


「魔王と同目的? それに賛同すると魔王を倒す意味がなくなる」


「術式を学びたくはないのか? それに予算にだって限界はある。ここで魔王の死を待ち侘びるよりは、君によって倒してもらう方が手っ取り早いと判断した。よろしくな?」


「そんな勝手な……」


 俺は迷った。しかし、この時点で相手の方が実力は上だ。この場で逆らえば殺される恐れもあった。それを考慮した上で俺の中ではそれを利用した策に出るのも悪くないと思ったのである。


(取り敢えず今は騙して術式を学ぼう。さらに生活費をここで何とかして、いつか独り立ち出来るまでに成長したら、この場から出て行こう。まさに命懸けだな?)


 そんな思いが生じするなら、俺はそれを実行に移す。


(ここで俺が魔王と同じ立場に立つとしたなら、天命は許してくれるのかな?)


 俺は正直に言うと、魔王が倒せるほどの術師になるなら、周囲を支配するのも良いのではないかと思っていた。しかし、俺が魔王を退治する理由はがあるなら、いつかそれと同じ目的を持った人間が現れるかも知れない。その時に討ち取られたとするのなら、俺はそこで悔しい思いをすることに変わりがないと思われるのだった。


「それじゃあ早速術式を教えてやるよ? 確か本を読みながら術式の取得に入っていたって聞いたな? だったら、それの取得を手伝うよ」


「本当ですか! よろしくお願いします!」


 そこで俺の目的の一つでもある術式の取得を手伝ってもらうのだった。これが本来の目的で、強くなってからレイドの下を去るのも悪くないと思っている。なので、今のところは行く当てもない訳だから、この場所で暮らすことは余儀なくされた。


 そこで俺が教わるのは【フリージングハンド】だ。これは触れた箇所に発動させる術式である。触れた先から凍らせるので、直接対象者にタッチするのもありと言える術式なのであった。地面に手を突くことで、そこを通じて凍らせることも書ぬな術式となっているため、それなりに万能性は高いと言えるのだ。これは取得階級は低めの【四級】だった。


「ほう? 触れた箇所を凍らせる術式か? それは広範囲にも及ぶ氷結¥が放てるな?」


「はい。この後は昨夜に見せてもらった【掌から鉄差を出して操作する】術式を教えてください。多分敵を拘束してから凍らせることもありだと思うんですよ? これで魔王の身動きを封じられるなら、それに越したことはありません」


「なるほど。それなら歓迎するぜ? 是非とも取得してみろ」


 そんな風に【フリージングハンド】は自力で種痘することになったが、レイドが使っていた術式に関しては教えてくれるらしい。なので、俺はそれをマスターすることで、戦闘に活かせると思って取得したいと思ったのであった。【鉄鎖】はこの先で魔王戦に活用できると信じて取得し、熟知したいのである。


 そして天命から得た情報によると、三時間後には【フリージングハンド】の取得が出来る合図が出される。それが知れた時には天命の役割も中々便利だと思える。なので、俺はその後からは【鉄鎖】を学ぶのであった。


 俺が考案した【鉄鎖】の使い道は、まず対象を縛ってその先を凍らせると言ったコンボである。鎖を通して【フリージングハンド】で凍結させることで、さらなる拘束に繋がるのだった。このコンボはかなり使えるのではないかと思って練習しようと思っていた次第だ。


 そして俺はレイドの指導を受けながらも、【鉄鎖】の取得に入った。そこでレイドが見せてくれた【鉄鎖】は本来だと何本も出すことが出来て、それらを自在に操って見せる。何本もの鎖で対象を縛ることで、身動きが出来なくする強度を底上げさせるのだった。そんな使い道も知れることによって、より拘束を強化させるのである。


 俺が【鉄鎖】の取得を開始させてから一時間が経つ。すると、そこで俺以外に本部で暮らしていた人物がやって来た。彼女はエルシャ・ディオローズと言って、彼女もこの組織の一員みたいだ。俺がレイドに術式を教わっているところにやって来たので、挨拶をするとそれに何気ない顔で返事をしてくれた。俺はそこでエルシャがどんな人物なのかを知らなかったので、彼女の素性についてはレイドに聞こうと思う。それが一番手っ取り早いと判断したのだ。すると、レイドの口から出たエルシャの情報はいかにも謎に包まれていた。


「彼女は素性を一切明かさない女だ。俺も彼女が何をしているのか知らない。だが、彼女の術式は確かに本物だ。うちの主戦力と言っても可笑しくはない。そこで自由に活動させるのを条件にうちで雇っているんだよ」


「え? それって本当に大丈夫なんですか? もし裏切られていたら大変ですよ?」


「分かってるんだが、彼女に関してはこちらも敵に回すと厄介な術師なのは確かだ。そこで彼女には怪しい動きを見せた時のために仕掛けをしておいた。それが彼女の心臓に爆弾を埋め込むことだ。もし裏切ろうものなら爆発させる予定だ」


「ば、爆弾⁉ それってこちらにも被害が及ぶんじゃな?なきのではないですか?」


「大丈夫。小型爆弾だ。周囲を巻き込まない程度の爆弾を仕組んである。だから、彼女も俺らから逃れることは出来ない」


「な、なるほど。それなら逆らえない訳か」


 しかし、だったら何で彼女を従わせないで自由を与えているのかが疑問だ。そんな脅しが用意してあるなら、それで彼女を動かすことだって可能なはずである。レイドが一体何を企んでいるのかは知らないが、俺にはそこまでの脅迫が見られないのには何かしらあるはずだ。それをレイドに確かめてみる必要がある。


「どうして俺には爆弾で脅すことをしないんですか? 俺だって裏切ったら大変かも知れませんよ?」


「さすがに子供相手にそこまではしないさ。俺は君を信じてるからね?」


(単純だ。こちらが裏切る隙を窺っていることも知らずに縛らないところからして俺はラッキーだな? これでいつ裏切っても殺されることはないだろう)


 俺の内心ではそんな余裕が生じて、レイドの確かな信頼を利用した上で、強くなっては後で壊滅させれば良いと思っていた。魔王に匹敵する術式さえあれば、レイドが率いる組織も壊滅に追い込むことは可能だろう。いつの日かそれを決行させる時が来るのを待つのが現時点に必要なことだと思っているのだった。


(そこでエルシャも救えれば良いが、彼女の心臓にあ爆弾が仕掛けられている。それを踏まえると、それが起爆しないように取り除く必要がある訳だ。彼女がもし本当に主戦力なら、いつか退治する時を迎えるのも時間の問題である。しかし、そこで彼女がレイドの率いる組織にどう関与しているかが問題でもあった。果たして救うべきなのか?)


 俺は迷った。そこでエルシャがどんな思いを抱いているのかで、救出を試みるかは決まってしまうからだ。エルシャの判断によってはレイドが率いた組織の壊滅を望まない場合がある。その時には彼女も一緒に潰さないといけない訳だ。そこの判断基準はどこに委ねれば良いのか分からなかった。


 そして俺の内心では判断し切れない問題に直面しているが、今はそれを決断する時じゃない。なので、俺はまず初めの段階である術師としてのスキルを磨くことに専念したいと思っていた。


「大分取得できそうになって来たな? 中々呑み込みが早くて成長の度合いが高いぜ」


「ありがとうございます。これもレイドさんの指導が上手いからですよ」


「そういったお世辞はいらないのにな」


 俺の口からはそんな風に言っているが、実際は彼の率いる戦力を育成していることになっていた。それを知らずに指導している彼はいつ潰しに掛かるか分からない術師に助けの手を差し伸べいるのだ。残念に思うけど、ここで仇討ちにはなるが、魔王と同じ目的を果たすなら、それは潰れて行ってもらっていた時の方が助かるのだった。


 それから昼食の時間になる。そこで出された飯は【カレーライス】で、辛口になっていた。俺は有り難く頂くが、それでもこの組織を壊滅させるこのに変わりはないと思っている。果たして彼にはそれが阻止できるのだろうか楽しみになって来た。


 そして午後になると、そこでレイドが用事を思い出したと言うので、その先は個人での取得に取り組んだ。多分秘密組織に関与する用事なのかも知れない。何らかの活動に打ち込むのが目的なら、俺はその間に強くなって彼を阻止しなければならなかった。その時、俺の下にエルシャがやって来て声を掛ける。


「貴方はレッドガンね? 新メンバーなら歓迎するわ。まだ子供みたいだけど、この先で主戦力とも呼ばれるだけの人材になってね?」


「はい」


 そこで彼女から声を掛けて来た時にふと気になったことがあった。それはレイドが言っていたエルシャの術式についてだ。彼女が扱う術式によれば、この組織の要にも至る重要人物に認定されている訳だが、何を以てそう呼ばれるのかが俺には気になったのだ。


「そう言えばエルシャそんな質問です。良かったら答えてください」


「んぅ? 何かしら?」


「エルシャさんの扱う術式って何ですか? この先の活動に役立てたいので、是非とも教えてください!」


「そうね。良いでしょう。教えてあげる。私の持つ術式は【重力操作】と【領域改変】の二つよ。後者の【領域改変】は特に取得階級が【一級】に相当するわ。【領域改変】とはいわゆる【領域を意思によって改変させる】と言った術式になるの。改変された領域は目の前の景色を変え、自身が思い描いた形に変換する術式よ。これが発動している間は周囲の領域内に建物を構えることも出来るわ。そこで私たちが住んでいる建物も私が使った術式によって構成した館なのよ」


(凄い。領域内を好きに改変できる術式によると、自身の思い通りにすることが出来る。それにあの館もエルシャが作ったのなら、レイドが言っていた主戦力に相当しているのも納得させられる。かなり凄い術師なんだと思ってしまった)


 そんな風に彼女が主戦力として挙げられる理由は大体分かった気がする。エルシャを欲する訳も理解できたので、彼女はこの先で倒さなければならない相手かも知れなかった。しかし、もし味方側に付くなら、その時は寝床を用意してもらうのもありだ。


「それじゃあまたね? これからはよろしくね?」


「はい!」


 少しでもエルシャのことが知れて良かったと思う。しかし、彼女が敵に回った時のことを考えると、かなり厄介な相手になるのは間違いないのであった。だけど、エルシャの心臓に仕掛けられた爆弾を取り除がなければ、彼女が助かる確率は低い。なので、それができる段階にまで成長したら、そこでエルシャには協力を要請する形になるのだった。

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