第4話 放課後

それから普段であれば長いと感じる授業が終わり、あっという間に放課後になった。

放課後透君は掃除当番があるため、私は一人ポツンと廊下にいることになった。

自分から誘ったくせに緊張しっぱなしな私はお守りの代わりに、昼休みに大親友たちに送ったグループラインの履歴を見る。


『ごめん、今日透君と帰る!』

『マジ⁉︎餌付け成功⁉︎』

『まさかの展開にご馳走様』

『そんな期待するようなことじゃないよ(泣)』

『どういうこと?どっちにしろ健闘を祈る‼︎』

『春菜ファイト‼︎』


最後に、応援する二つのゆるキャラのスタンプで締めくくられた画面を見ながら、深呼吸をする。別に告白など大それたことをするつもりはないが、一緒に下校なんて高校生になってから初めての出来事なので、やはりどうしても不安でいっぱいだ。

一緒に帰ってそのまま家で遊ぶことなんて、小学生や中学生のときだってあったのに気恥ずかしく思えてしまうのは、私が思春期だからだろうか。


「お待たせ。じゃ、帰ろ春菜」

「あ、うん」


今日の帰る道のりは好きな人がいるから少し特別。たったそれだけのことなのに、いつもの道路や道端に生えている花、雀さえもなぜか愛おしく感じるのだから透君はすごい。私は今の透君の地雷になりそうな話題は避けて会話をした。とは言っても共通の話題と言ったら、殆どが高校のものになってしまったが。


「ただいまー」

「お邪魔します」

「おかえり。あら、透君じゃない。久しぶりね」


リビングに入るとお母さんがちょうどパンを焼いていたようで、ふんわりとキッチンの方から香ばしいバターの香りがした。料理が趣味であるお母さんは休日は大体何かを作っており、私もその影響でお菓子作りにハマっている。

ちょうど良いからそのままチョコレートの湯煎に、キッチンを使ってしまおう。

手を洗って冷蔵庫から板チョコとタッパーに入ったクッキーを取り出すと、お財布を片手に持ったお母さんに声をかけられた。


「春菜。お母さんちょっとスーパーまで買い物行ってくるから、お留守番よろしくね」

「はぁーい」


顔を上げていってらっしゃいと送り出すと、透君と目があった。


「手伝うことある?」

「あっじゃあ、チョコレート刻んでもらって良い?」


透君はどうやら暇だったようだ。久しぶりに我が家に来た透君はソワソワしていて、その姿が意外だった私は可愛くてクスリと笑った。こうして隣にいると昔に戻ったようで懐かしい気持ちになる。チョコレートを刻んでもらっている間に、私はお湯を用意することにした。


「相変わらず包丁上手いね」

「…まあ、俺の当番だったし」


あっ、地雷を踏んでしまった。

私は必死にフォローしようとしたが、返す言葉が見つからなかった。

それからは私達は黙々と作業を続け、出来上がったものをリビングのテーブルに運んだ。そして、私は先程の言葉を思い出す。

透君は小学生の頃からずっと我が家に来て夕食を食べるか、忙しいお母さんの代わりに料理を作っていたのだ。でも言い方から察するに、最近はそうではないようだ。きっと、新しいお父さんが出来たから。


「…父さん、すごい良い人なんだ」

「え?」


突然独り言のように呟いた声に心を読まれたのかとドキリとしたが、透君にとって大切な話だと直感的に感じたので、私は黙って聞くことにした。

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