宝石
両親は二度と帰ってこなかった。飛行機が墜落したのだ。
シュンは少し泣いて、その後シャルロットの部屋に向かった。任されたことがあったからだ。
「シャルロット、父さんと母さんが死んだんだ。だから、僕たちはここに行かなきゃならない、」
シャルロットの目は潤んでいたが、歯を食いしばって頷いた。
渡された住所はとても遠かったが、飛行機は危険だし、日の光に当たりにくいよう、船を選んだ。それを聞いてシャルロットは言った。
「私は、船の貨物室にいるわ。私が一人ぶん入る箱があればいいのだけど、…棺なんかどうかしら。」
そんなわけで、シャルロットは船の貨物室に入った。流石に棺には入らなかったが。
船に乗って、シュンは本当に一人になった。今まで、シャルロットがいたから耐えられていた涙腺が緩んで、次から次へと涙が溢れた。
「…父さん、…母さん……。」
船を降りたあとは貨物船に入れておいた自転車で、夜のうちに施設に向かった。
なんとか施設に着くと、そこにいた吸血鬼が出迎えてくれた。
「シュンどのですね。シャルロットをありがとうございます。」
吸血鬼は30人ほどいた。髪のいろはさまざまだったが、全員が見目麗しく、目はザクロのような赤色だった。
シュンとシャルロットは、そこでやっと安心して寝られた。
しかし、安心などしてはいけなかったのだ。こんな状況なのだから。
翌日の昼のことである。
どこから漏れたのか、謎の組織が施設を襲った。
ロケットランチャーで壁に大きな穴を開け、施設に踏み入った。吸血鬼が応戦したが、穴から漏れた日光には敵わず、灰になってしまった。
彼らはとうとう、シャルロットとシュンが寝ている部屋に押し入った。
壁の隙間から入っていく光をシャルロットは必死に避けた。
「女は殺すな、日光で石に変えてから連れて行く。」
「石は脆い!銃を打つのは最小限だ。」
シュンは必死に光からシャルロットを庇った。シャルロットは体を小さく丸めて、体を髪で覆った。
バンっと乾いた音がして、シュンはずるりと崩れ落ちた。撃たれたのだ。
「シュン、シュン!」
シャルロットはシュンを必死に揺さぶるった。日陰をなくした体は日光に晒され、体はパキパキと音を立てながら、紅き宝石になった。
「シャルロット…」
シュンはそう言って息絶えた。シャルロットは今や、体のほとんどが宝石となっていた。
しかし、一部はそのまま残っていた。例えば、口元である。
シャルロットは、からだをうまく動かせず、シュンの元に倒れ込んだ。都合よく彼の首筋に口が当たった。
シャルロットは牙をたて、シュンの血を啜った。
そして彼女の体は完全に宝石に覆われた。彼らは銃口を下ろし、シャルロットを捕らえようとした。灰と血と硝煙の混じったひどい臭いが充満していた。
その時だった。
彼女の体は宝石に覆われたままだったが、体の自由が効くようになった。身体能力も格段に上がって、彼女は組織のすべての人員をなぎ倒した。宝石は銃弾すら跳ね返した。
今のシャルロットには知る由もないことだったが、紅い宝石はもともと日光から守るためのものだった。その機能が生き血を啜ることによって覚醒したのだ。
夜になると、宝石は元の肌に戻った。彼女は仲間の吸血鬼を埋葬すると、恐れるものなど何もないように夜のまちにあるきだしていった。
その後のシャルロットと名乗る少女の吸血鬼のその後は、誰も知らない。もちろん、本人を除いて。
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数日後、裏社会のとある組織の首領が変わった。次の首領は白髪の美しい長髪と血のような目を持った少女だった。その傍には、いつも平凡な容姿の少年がいた。その少年の目は、首領と同じ赤だった。
トップが入れ替わった日、首領は言った。
「別に貴方がついてくる必要はなかったのよ。」
少年は答えた。
「それでも行くに決まっているだろ。君は、僕の命の恩人なんだから。」
「…ありがと。ねえ、あの宝石なんだけど、持ち前の再生能力のおかげで私の好きなだけ作れることがわかったわ。」
首領は嬉しそうに微笑んだ。そうすると、まるで普通の少女のようだった。
「君がそれを作るのに負担はないのか」
「もちろん、痛みすらないわ。それで考えたんだけど、私は、私たちの復讐にこれを使おうと思うの。」
へえ、と少年は面白そうに頷いた。
「どうやって?」
「私たちを狙ったのは、直接的には裏社会のこの組織よ。けれど、この依頼をしたのは世界中の富裕層だわ」
と、首領は書棚から依頼者のリストを取り出した。
「この富裕層全員に、ほんのひとかけら、宝石を超高値で売りつける。その後、世界中の貧困層に宝石を配り価値を激減させるの。高値で買った一欠片の宝石なんて、その辺の石ころと価値が変わらないくらいにね。」
「なるほど。それはいい案だな。」
少女と少年は笑い合った。
その後、この組織は「
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