吸血鬼
「私、吸血鬼なの」
シャルロットは話のついでのように言った。
「……は?」
「シュンは吸血鬼ってどんなものだと思ってる?」
シュンは、気持ちを落ち着けようと、一口紅茶を啜った。
「そりゃあ、血を吸って、昼間は棺で寝てるんだろ?」
シャルロットは楽しげに笑った。
「そうよね。でも、私は違うの。これでも、紅茶も飲めるし、昼間は起きてられる。血も少しだけで大丈夫なのよ。それに、痛覚も鈍いし、怪我もすぐ治る。もっとも、日にあたれないのは一緒だけどね。」
シャルロットは自慢げに言った。
「それはわかったけど、なんで吸血鬼がうちにいるんだ?確かに父さんと母さんは医学部の教授だけど、人外は対象外のはずだぜ」
「あら、貴方のご両親の発明品を忘れちゃったの?」
そう言われて思い出した。
シュンの両親が発明したのは、完璧な人工血液だ。輸血に使われるものだが、献血の必要がなくどの血液型にも使用が可能だとして、高い評価を集めていた。吸血鬼のシャルロットが開発に関わっていても不思議ではない。
「もしかして、あの人工血液が関係しているのか?」
「そういうこと。どの血液型に混ぜても固まらないのは、吸血鬼の血の成分が元になっているからよ。」
彼女は誇らしげに笑った。
「なるほど、だからシャルロットはここにいるんだな」
「ううん、それだけじゃないわ」
そう言って彼女は包帯に指をかけた。スルスルと包帯が解けてゆくうちに、その中あるのは皮膚ではないことに気がついた。その奥にあるのは片目のはずだったが、違った。そこにあるのは、形こそ少女の顔の一部だった。しかし、素材が違った。
そう、包帯に隠されていた部分は、紅い宝石のように変化していたのだ。
「触ってみる?」
シャルロットはニコリと笑ったが、宝石の部分の表情は変わらなかった。
シュンは慌てて首を振った。シャルロットは悲しそうな顔をして、包帯をまきなおした。
「私は、日に当たっても灰にならない代わりに、日に当たった場所が紅い宝石に変化するの。そういう体質なのよ。この顔は赤子の頃に当たった部分が変化してしまったの。」
「…そうなんだ。」
シャルロットは、雰囲気を変えようとパチンと手を叩いた
「実はね、貴方のご両親にこのことを言うよう言われたの。もともと、貴方の勉強が行き詰まっているから、話相手になってやってくれって頼まれたしね。もっとも、このことを貴方に伝えるのは、別に理由があるようだけど……。」
「わかった。それは僕から聞いてみるよ」
家に戻ると、シュンは両親にシャルロットのことを尋ねた。
両親たちによると、シュンがシャルロットと会話をしていることは気づいていたが、お互いいい影響をあたえると思い、見守っていた。しかし、近頃状況が変わったらしい。
「実はね、シャルロットを狙うものが現れたの。」
「どうして?」
「シャルロットの紅い宝石に絶大な価値が現れたの。」
「僕たちはシャルロットの体質や変化した部位を治すために、少しだけ宝石を採らせてもらった。それを研究していると、ある発見があった。あの宝石は高エネルギー体だったんだ。あの一欠片だけでも、全人類丸一年分のエネルギーを賄える。」
「私たちは、それを化学や物理学の研究者に発表し、量産できるかを調べてもらった。しかし、どうしても量産どころか再現もできないことがわかったわ。そこまでは何も問題なかったの」
でも、その情報が漏れてしまい、裏社会の人間がシャルロットを狙うようになった。
「ねえ、シュン。私たちにもしものことがあったら、シャルロットを守ってあげて。私たちが、人口輸血材の儲けで作った吸血鬼を保護する施設があるわ。そこに届けてあげて。」
そう言って母親はシュンに住所を書いた紙を渡した。父親はシュンの頭を撫でた。
翌日、両親は出張に出掛けていった。シュンは姿が見えなくなるまで手を振って見送った。
いつも多忙で、シュンには遠くみえた両親が、いまはただただ誇らしかった。
その後、両親は二度と帰ってこなかった。
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