第八話 王に会いに行く

 朝晩の冷え込みが厳しくなった季節の風呂はいい。最高。


 傭兵部族『き』共同浴場

 転生少年 ローカルガイド クチコミ1件

 ★★★★★ 1日前


 大自然を満喫出来る露天風呂です。

 男女混浴。無料です(その代わり少し労働が必要)。

 今のところ唯一のお風呂なので★5とします。


 ……ってレビューしたくなるぐらい俺は満喫している。


 河原。

 川の水をすぐ引き込める場所に穴を掘る。

 声をかけて大人たちにも手伝ってもらった。

 水が溜まったら、石を積んで焚き火。

 熱せられた石を次々と放り込む。

 風呂の完成だ。 

 山でキャンプした時にやったことあるのよ。


 ただし。今は問題がある。

 俺の横にはミサ、反対側にはオミ、正面にはディザ帝国の皇女さま。

 絵面だけ見たら天国かって思うけど、思春期の身体を持つ身としては辛いんだよ、これ。


 こっちじゃ宗教によって刷り込まれた倫理観が無い。

『性=後ろめたいこと、恥ずかしいこと』ではないんだな、これが。

 開けっぴろげ。

 フリーダム。

 おおらかで奔放だ。


 オミと皇女さまからは目を逸らす。俺の身体の一部がヤバいからだ。

 ミサはいいなぁ。中学生ぐらいだから色気なし!

 ほんと娘だよ。俺の癒し。

 ミサは少し恥ずかしそうにしてるけどな。


 さて皇女さまーー名前はユリーカーーの処遇はどうなったかと言うと『き』預かりとなった。


 中央部族の使者とユリーカ皇女が交渉した内容は以下の通り。


 ・亡命を希望する


 ・転移出来る距離は最大で帝国の端から端まで転移できる(数百km?)


 ・もしも帝国が奪還、或いは暗殺に来た場合、国境近く(つまり『き』の拠点)にいる方が対処もしやすい


 ・また戦闘においてこの国トップである『き』の拠点にいる方がより安全である


 さすがは皇女さまだね。


「さて、お前に尋ねたいことがある」


 おっと皇女さま、俺の方に寄らないでくれるかな?肉体年齢思春期の男子にはきついです。


「私が転移のことを話した時、お前だけが驚きもせず、わかったような顔をしていた。それはなぜだ?」


 あちゃー。そうかー。そうだよなー。


「皇女さま」

「ユリーカで良い。もう私は皇女でもないしな」

「えーではユリーカさま、俺がこれから話すこと信じてもらえます?」

「話してみよ」


 そして俺は地球で生きていた記憶があると告白する。

 ミサやオミを始め『き』の人々はもう知っている。


「それでですね、娯楽としての空想物語がそれこそ星の数ほどあります。そんでもって転移はそういう異能の定番なんです」

「ほぅそうか」

「違う星へ転移するのとかもありましたからね」 

「それはそれは。想像もつかないな」


 さすが帝国、天文学も発達してそうだな。


「すごい話だねぇ」


 オミが感心したように言う。


「オミ、そう言う物語はたくさんあったんだ。書物だけじゃなく、芝居……祭りの時にやるだろ?あれをいつでもどこででも観ることが出来るように色んなものが発達してたんだ。俺はそういうのが好きで子どもの頃からよく観てた」

「オミ達みたいなのも空想上ではいたんだよ。ライカンスロープってやつ。獣の姿に変身するの」


 英国陸軍の部隊と狼男達が戦う映画、また観たいなぁ。

 少し懐かしくなる。

 しかしここでの毎日が俺にとっては日常ではあるけれど空想物語そのものだしな。


「他の皇族ってどんな能力持ってるの?」

「それを発揮して役職に就いた者以外、ほとんどが秘匿されている」

「雷を落としたり、手から光線出したりとかある?」

「何だそれは?」

「異能の定番だよ。空飛べる人いる?」

「人は鳥のように飛べんよ」

「そっかー。あ、隠すわな」

「時と場合によっては知られることが命取りになる」

「あれ?今更だけど……なんで転移で逃げなかったの?」


 ユーリカさま、微笑みながら


「大森林より北、この大陸はほぼ帝国の支配下でな、何処へ行こうと必ず見つかる」

「うはぁ!ほんまに大帝国なんだ!」

「そうだ。こちら大森林の南、帝国領土まで遠すぎる。あの遺跡まで逃げたとして、私のような目立つ容姿の小娘ひとりが森の中で生きていけると思うか?」

「まぁ……無理かも……」

「そういうことだ」

「帝国へ行ってみたいなぁ」

「だ、だめだよ!」


 ミサが反応する。


「だってローマ帝国かモンゴル帝国並みの大帝国だよ?興味あるじゃん」


 俺は好奇心を抑えきれないでいる。

 戦になる可能性は低いとは言え、どんなものか見ておきたいってのもある。


 ユーリカさま曰く、帝国は南進する気は今のところ無いだろうとのこと。

 そりゃそうだな、山脈と大森林を抜けるにはコストがかかり過ぎる。よほど魅力的な資源があれば別だろうけど、そんなものないし。


 そうだとすると大巫女様の占う「北の良くない気配」ってなんだろう……気になるなぁ。


 耳長達の件は、単なる調査だったそうだ。

 不自然に消息を断つので、調査を命じられたそうで。

 あの警戒心の無い態度とかに関して、ユーリカは


「何らかの術をかけられていたのだろう」


 とのこと。

 人を操る術あるのかよ……怖っ。落ち着かないな。

 こっち来るなよ!帝国!フリじゃないからな!


 冬も終わり、春に息吹を感じられる頃、この国の頂点、つまり王からの呼び出しが来た。

 ユーリカに。


 護衛にオミ達。なぜか俺とミサも同行することになったけど、いいのかな?

 往復で一週間ぐらいの距離だから、その分の仕事をそれはもう頑張った。


 兵糧丸のアイデアいただいた携行食が好評だったので、それも大量に作らされた。

 そりゃ戦する人間にとって飯は大事だよね。


 出発の日。

 特に何があるわけでもなく歩いていく。馬は貴重だから。


 大森林。

 どこまでも続いているように見える山々。森が埋め尽くしている。

 直径が数メートルもある大木、苔だらけの岩、剥き出しの大自然だぜ。

 道とかは無いので歩きやすいところを選んで進むだけだ。


 出発した翌日。俺たちは再会した。

 誰とだって?

 サイだよ、ユーリカが乗ってたやつ。


 いきなり森の中に佇んでいたから俺たちは驚いた。

 ユーリカを見つけるとゆっくり近づいてきて、鼻先をこすりつける。なんか可愛い。


 バボって種類の草食獣だそうだ。帝国ではクロカン4WD扱い、つまり不整地専用の移動手段として、或いは戦車としての運用らしい。馬じゃ勝てんわー。


 それでこいつは、辺境へ行かされることの多いユーリカの専用騎獣。

 子どもの頃から一緒に育ったんだ。

 この森には熊っぽいのや猪っぽい獣が割といるんだけど、まぁこいつには敵わないだろう。体重が違いすぎる。ユーリカも全く心配してなかったしな。


 俺とミサも乗せてもらい、道中は楽になった。やっぱ大人の歩幅に着いていくのは少しきつい。


 三日目の朝、王がいる支配部族『まと』の砦に到着。

 さぁ王はどんな人物かな?

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