第九話 転移の謎

 喉が渇くなぁ。

 今、俺は緊張しまくって突っ立っている。


 左右に畑が広がる大河を擁する平野の真ん中に、木造の大神殿がその威容を見せつけている。

 支配部族『まと』の中枢だ。


 俺たちはその最奥、大広間にいる。


 正面、大きな台座に王が座ってる。

 大男だ。プロレスラーみたいだな。

 厳めしい顔。

 鋭い目つき。

 黒澤映画に登場しても違和感なし。


 それなのに威圧感はまるでない。やたら肩で風切るタイプでなく、スイッチひとつでオンだろう。


 威圧感はないけど存在感がすごい。お忍びでどこかへ……なんて絶対無理。

 複数部族をまとめ上げたり平定して、一国の王になる人物はやはり非凡だ。


 左右にはお偉いさんが並んでる。

 そして俺らの背後には兵士が並んでる。

 こっちからの威圧感が凄い。


 ユーリカは平然としてるな、さすが皇女。

 オミ達は少し緊張してる。



「ディザ帝国の皇女たるユーリカ、よく来たな」


 ユーリカのしたことは国境侵犯、国交という概念もまだまだ。こんなもんだろうな。


「この度は意図しなかったこととは言え、貴国の領土へ入ったこと、謝罪する」

「直に問う。ディザ帝国にその気はあるのか?」

「無い。そもそもここに国があることすら知らぬ」


 しばらく見つめ合う二人。


「なら良い。食事の用意をしてある。ゆっくりしていかれるが良いだろう」


 あっさり終わったな!助かるけど。


 食事は豪華だった、食材が。山の幸、海の幸、見たこともないものが並んでた。

 でもな、味付けは薄いんだよ。健康診断のサービスでついてくるヘルシーメニューみたいな感じ。


 何かが起こるわけではなかったが、ある意味予想通りかな。広大な畑で作ってるものを見たかったけど。


 こうして俺たちは『き』の拠点目指して帰る。

 

「ここはまだ国として固まってない」


 帰りの道中、ユーリカの感想。

 うん。その通り。

 大きな平野部にある支配部族『まと』とあと二つの部族が中枢(中央)となり、食料生産をもって他の複数部族を従えてる感じだ。


 そもそも「国」って概念が希薄だし。

 だからこそ国名すら決まってないんだろう。

 国を納めるのに必要な「法」も経済の要である「税」も「貨幣」もない。なんもない。

 中央から時々「貢ぎ物よこせ」って要求はあるみたいだけど。


『き』は戦力を中央に差し出す。代わりに農産物をもらう。他部族も何かに特化していて、それを食糧と交換してる現状だな。


『き』に戻ってすぐに俺は大巫女さまに遺跡の奥の徹底調査を具申した。

 ユーリカが転移してきた原因があるに違いないと思ったからだ。


 承諾は得られた。同時に学術部族『ぬ』から調査員も派遣されることになったのだ。


『ぬ』は色々な研究や調査をしていて、妖術とか呪術も扱う。ユリーカの能力にも大いに関心を寄せてるそうだし。


 単に光苔が採れる場所だった遺跡。それが違った価値を持つかもしれないということで、規模の大きな調査隊が編成されることになった。


「あーまた薬の作り置きしとかにゃならんな。しばらくハードワークだぞ」

「ミサ、がんばる」


 ミサ、お前……社畜体質かも。


「このストーンヘンジみたいな石が何らかの装置なんじゃないか」


 俺は思わず呟く。


「ストーンヘンジとは?」


 訊いてきたのは学術部族『ぬ』からやって来た男、ハバ。四角い顔で眼鏡が似合いそう。


「あーうん、俺の記憶にある遺跡だよ。あの石の並びを見て」


 光苔が放つ淡い光に照らされている遺跡の最奥。

 単なる広場のように見えて、石がどう見ても人為的に積まれて周りを囲んでる。

 俺たちは学術部族『ぬ』と共同で遺跡の最奥を調査中。

 さて。これから言う概念をハバにどう説明したものか。


「ここは元々転移をする為の部屋なんじゃないかな」

「その仮説興味深い。教えてくれ」

「この遺跡を残した人々は転移を自由自在に使ってて、今もこれは生きている。それでユリーカの能力に反応してここに転移させたのではないかと思う」


 過去の文明が今よりずっと進んでたなんてことはザラだろう。そして滅亡とともに技術も失われる。


「移動手段の発達は必須だと思うんだ。あんたもさ、研究成果を中央に持っていくとして、片道三日かかって行くのと、一瞬で向こうへ着くのとどっちがいいと思う?」


 ハバは目を閉じて考えこむ。


「人の移動はモノだけではなく、知識も……いや全てが……そうか」

「人が集まって国になる。その国を一つの生き物だと捉えてみてくれ」


 ハバの目が見開く。理解が早いな。


「ただの石じゃないと思うんだけどなぁ」


 ハバが石を調べる。


「ふむ。確かに。見たこともないな。遺跡に使われているのは山から切り出した石、それとは明らかに違う種類のものだ」


 お、さすが。俺はさっぱりだけど。


「それとさ、ハバ見てよ。石の並びが何かの意図があるとしたら?」

「何かの図形……文字か?」

「遺跡の文字って研究進んでるの?」

「ある程度は。なるほどこれは他の遺跡と照らし合わせてみないとな」

「転移のためのものだとしたら、あちこちあると思うんだ」


 これ、使いこなすことができたらすごいことになるな。簡単じゃなさそうだが。

 おそらく動力源は何らかの不思議パワーに違いない。


 そもそも光苔の光を獣が嫌うメカニズムもわかってないしなぁ。あぁまどろっこしい。


 俺は石の配置をスケッチする。『ぬ』のハバ達も同じように書き写してる。

 ミサは忙しなく光苔を集めて袋詰め。この広間のは全て採ってくれって頼んだから。


「ミサ、休憩しよう」

「うん。疲れたぁ」


 古代の超文明、ロマンだぜ!

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