第五話 やって来たのはギャル?
結果は「否」だった。
うん、わかってた。
あああやっちまった! 恥ずかしい!!
大巫女さま達にカミングアウトして胸のつかえが取れたのもあって、俺は変なテンションになってたんだ!
昔の怪獣映画で怪獣対策本部に子どもが当然のように入ってて、大人は誰もそれを咎めない。
見ていた俺は『けっ! ガキンチョが』とドン引きしていたものさ。大人が働いているところへ混ざって好き勝手してる子ども。そんなのしらけるだろって。
でも自分がそのガキンチョになってた。大人の仕事のこと何にも分かってないのに口出しするなんて!
あああーっ!
穴を掘って中に入りたい。
しかも現実問題としてオミ達が俺というお荷物を庇いながら戦うのは難しい。
そして大国があるかも? ってのもあくまで俺の仮説。
何もかも無理があり過ぎたよなー。
けど戦士長が長耳族エリアへの偵察部隊を派遣することを決めた。そうさ杞憂であればそれに越したことはない。
翌日、精神的ダメージの回復を待って俺はとにかくやるべきことに着手した。
「というわけでミサ、俺とお前はしばらく特訓だ」
「どういうわけ?」
「最低限身を守る術と逃げ足を鍛えるんだ」
「え? いやだよ」
「これは大巫女さまの命令でもある」
「えー」
いざという時に生死を分けるは体力だ。
水害が身近な町であった時、それをニュースやネットで知って痛感した記憶がある。
俺とミサは走り込みと体術の稽古を薬の調合が済んだ後に必ずやるようにした。
おかげで飯が美味い。ミサは最初イヤイヤだったが、毎日のように体力作りがいかに必要かわを説いた。
どうやら俺の真剣さが伝わったらしく、そのうち真面目に取り組むようになった。
加えて同年代の子どもを集めて吹き矢を使ったサバイバルゲームを週一で開催。
隠れ方とか相手の虚をつくやり方、気配の探り方の訓練になる。
これでわかったのがミサは隠れ方が異様に上手いこと。全く見つけられないと思ったら背後から仕留めてくる。こりゃ有望だな。
それと並行してギリースーツの製作に取り掛かる。髪の毛や頭の形ってのは森の中ではすごく目立つ。色と形が不自然だからだ。
ベースは蔦。それをネット状に編み込みんだものへ様々な素材をグラデーションになるように固定していく。
天然素材百パーセントのギリースーツは、なかなかの出来栄えとなった。
オミ達も欲しがって、戦士長まで話が上がり、部族全体で採用となった。
俺一人じゃ無理だから、周囲に作り方のコツを伝えて回る。
吹き矢も改良した。
出入りの商人がゴム紐みたいなのを持ち込んできた。大きな蛙の腱らしい。
弓の弦にするには短すぎるとのことで持て余し気味の素材。
それならと吹き矢の筒を矢と同じ長さにして、息ではなくゴムの張力で飛ばす仕組みにしたら、結構な威力だった。
鏃は無い、先を尖らせた矢。筒が銃でいうとバレルの役割を果たすため、狙い通りに飛んでいく。
ただし有効射程はせいぜい二十メートル。
近距離かつ小型の獣専用として狩にも使われることになった。また非力な者向けの武器として数は増えていく。
威力があり過ぎるから俺たちがやってるサバイバルゲームには不採用。
この世界の人間、総じて身体能力が高いから死人が出そうだからだ。
日が暮れるのが早くなった頃、あるものを取りに遺跡へ出かけた俺とミサ。
同行するのはオミの部隊。
緑に飲み込まれその一部が露出している遺跡。ピラミッドに見えなくもないなと思う。
入り口は巨大な四角い穴。高さも幅も約二十メートル、それがずっと奥へ続く。
まるでトンネルだ。すごい巨石で作られてるけど、これ人力で掘ったのか?
しばらく進むと全体が薄い黄色の光に満ちてくる、光苔だ。
この遺跡の中には発光する苔が群生していて光苔と呼ばれてる。
大型の獣が巣にしても良さそうなのだが、光苔が放つ光に決して近づこうとしない。獣だけでなく鳥や虫に至るまで。
だから獣避けとして重宝されており、『き』の特産物になっている。
「今日はオミ達にも運んでもらうから、いっぱい取るよー」
「ミサがんばる」
予定通りの採取を終えた頃。
突然オミ達が一斉に奥へ視線を飛ばす。
耳も動いてる。
「人の話し声」
「気配からすると二十人以上」
「聞いたこともない獣の足音だね」
オミ達の脅威的な感覚で捉えた情報。
「出るよ。相手がわからない。見るだけにする」
オミは小声でそう言って俺とミサを促す。足音を立てないように、でも素早く出口に向かう。
出口から上へ。大木に登り、ギリースーツを頭から被る。
自作の炭ペンとキャンバスを取り出す。
前の人生ではたまにネットへイラスト投稿をするぐらいには絵心があった。
ミサやオミの似顔絵、動物や植物のスケッチなどを描いていたら戦士長に見つかり、偵察任務でのスケッチを頼まれるようになった。
そういうわけでいつも炭とキャンバスを持ち歩いていている。
オミは未知の相手との戦闘は危険だと判断した。それは正解だと思う。
ならば相手の情報を少しでも多く持ち帰ろうと待ち構える。
はっきりとした重い足音が聞こえてきた。
熊とかそんなレベルじゃねぇ!
もっと大型の獣だ。
やがて遺跡の入り口から『それ』が現れる。
声が出そうになった。
な、なんじゃありゃー!!
さい。
サイ。
漢字だと犀。
動物園で見たことあるサイにそっくりだ。
とにかくデカい。
五メートル、つまりミニバンぐらいはありそうな巨体。
そしてその背中にギャルが乗ってる。
何を言ってるかわからないだろうけどギャルとしか表現出来ない。
金と薄い紫が混ざった髪、透き通るような白い肌、紫の瞳。
派手な顔をしてるのに目を強調し、頬や額に何やら模様を描くメイクのせいでギャルなんだ。
顔の作りが明らかに俺たちと違う民族。
そして派手な戦装束。
背中には短めの、薙刀を短くしたような槍を数本背負っている。
だが少し様子がおかしい。
サイ(と呼ぶことにする)は苦しそうに歩いていて、ギャルは落ち着かせようと苦労しているようだ。
サイの後ろからは二十人ぐらいの兵士が徒歩で続く。
簡単な鎧装備の連中と比較的重装備の騎士風の連中に分かれている。
俺はオミにハンドシグナルを送る。
『現状維持?』
オミからの答え。
『続行』
キャンバスにサイの姿をスケッチ。
するとサイが俺とミサが取りついてる木に向かってきた。
おい、こっち来るな!
俺の願い虚しくサイは木に激突する。
大木といえども数トンはありそうなサイの衝突で大きく揺れる。
「あっ」
激しい振動でミサが落ちそうになった。
「ミサっ!」
俺は慌ててミサの腕を掴み引っ張り上げたが、それをギャルに見つかってしまった。
「¡Jan jupanakar escapapjjamti!」
何か叫ぶと同時にギャルは背中の槍を俺たちの方へ向け投擲。
槍は俺の顔のすぐ横を掠めるように飛んでいく。
怖えぇ!
ミサを庇いつつ、俺は新兵器をギャルめがけて投げつけた。
テニスボール大の果実を乾燥させ、中に触れるだけで皮膚が爛れるキノコの胞子を仕込んだもの。
ギャルは槍でそれを両断した。
狙い通り!
煙のように広がる胞子。
叫び声をあげ顔を抑えサイから落ちた。
明らかにこいつがリーダーだよね。
キノコ胞子はサイの目にも届いたらしく、悲壮な鳴き声をあげると同時にどこかへ走り去った。
これはチャンス!
地面でのたうち回ってるギャルへ向かう。
痛っ!!
蹴飛ばされるも何とか拘束する。
ミサも手伝ってくれた。
なんつう力だよ、このギャル。
既に他の兵士はオミ達によって完全に無力化されている。
身体から矢を生やしてる者、槍で貫かれ地面に縫い付けられている者。動く者はいない。
手首、足首を縛られても激しくのたうち回ってるギャル。
お気の毒に。
目や唇が腫れ上がりすごい顔になってね、
うん。あのキノコの胞子に触れたらすっごく腫れ上がるからねぇ。
「オミ、こんな顔したやつら初めて見るよ」
「そうだねぇ。あんな獣も見たことないし、どこから来たんだろうね、こいつら」
「尋問は影の仕事だしね。それよりあの奥を調べたいな」
「次が来ないとも限らないよ。調べるにしてももっと人がいる。一旦帰ろ」
オミにそう言われ俺も納得した。もし後続部隊が来たらヤバすぎるよな。
見張りを二人残して俺たちは『き』の拠点へ帰投することになった。
ぐったりしたギャルはオミが担いでる。
ギャルが身に付けている服、細い滑らかな糸でしなやかな布地、仕立ても上等。高貴な身分なのはすぐわかる。
一番気になったのは胸当て。紋章っぽいものが刻まれているのだ。この辺りで防具に紋章を刻む文化はない。
三つの角がある蛇っぽいのが何かに絡みついている図形。
あれこれ考えながら観察していたら、ギャルの胸をガン見していたと勘違いしたミサに腹パンされる。理不尽。
当たってほしくなかった予想が的中したことにゲンナリする。
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