第42話 馬鹿だ、馬鹿がいる

「ねぇ、何があったらバスケコートで眠ることになるの?」

「いや、本当に面目ないです」

「しかも、新メンバーと二人って…………。え、新手の青春?」

「本当にごめんなさい」


俺は、目の前でなぜか一切の光を失った瞳を向けて来る城崎さんに必死に土下座していた。いや、なんでこんな事態になっているのかは、俺も聞きたい。

だが、それを彼女が許してくれるとは思えないけど。


「で、君は東雲くんだっけ?」

「ああ」

「これからよろしくね。多分、私がPGするから」

「わかった。俺はCができれば何でもいい」

「そう」


城崎さんは注意深く彼の体を観察すると、「なら、もう少し左右のバランス整えた方が良いね」とアドバイスをした。

え、なんの話?


「すげぇな、そんなことわかんのかよ」


ごめん、俺だけついていけてないんだけど。え、なんの話?


「まぁ、この人もそうだけどね。片足、片腕がないと、自然と偏るからね」

「ああ、注意はしているつもりだったんだがな」

「もっと意識した方が良いかも。既にプレーには多少の影響が出るレベルで問題があると思うけど、強制できれば圧倒的な強みになる」

「ああ!」


ああ、なるほど。重心と筋肉量の話ね、ハイハイ。まぁ、確かに俺も足がある方に重心が向きやすいし、中心がずれている自覚はあるからなぁ。常日頃から、高い意識を保つのは結構難しい。

ふとした瞬間に、気を抜いてしまうんだよね。


「はぁ、人が朝練しに来たらこんな状況だとは」

「あはは、でも城崎さんが朝練って、すごいね。昨日も遅くまで付き合ってもらったし」

「全然足りないよ、私。今の私の実力じゃ、君たちのサポートはできない。何より、雪さんたちがいるんだから、経験者の私たちがリードしないと駄目なんだよ?なのに、私既にシュートだけ切り取ると、雪さんには抜かれそうなんだけど」

「いや、あれは完全に想定外だよね」

「ねー、と思えば加奈ちゃんは急に成長するじゃん?しかも、上達速度が

早いのは良いとして、意欲的だしね。巣の運動神経もあると思うけど、相当才能がないと無理でしょ、この速度の成長は」

「うん、コツをつかむのが異常に早いってのもあるけどね。城崎さんの言うように、加奈ちゃんは才能がすごい。運動神経の良さも相まって、もう数か月もプレーすれば、そこら辺の中学じゃエース級だと思う」

「だよねぇ」


しみじみと、俺たちは彼女の才能に嫉妬する。とはいえ、だから邪魔するかと言えばそんなことはなく、ガンガン成長してほしい。そして成長して叶わない花になった時、俺たちは挑戦者として容赦なく襲い掛かるのだ。

その孤高の花を、摘むために。


「おい、なんか追加で二人来たぞ」

「あ、あの二人がさっき話していたメンバーだよ」


そんなこんなで、結局メンバー勢員が揃った。お互いに軽く自己紹介を済ませて、事情などを話し合った。東雲は少し女子に慣れていない所もあったが、特に問題は無し。

ただし、城崎さんが俺たちが夜通しバスケをしたことを話すと「いいなぁ、その手があったか」という加奈ちゃんと、おなかを抱えて笑いをこらえる雪さんの姿が確認された。


うん、次回以降は注意するよ。できる時には。




「さて、自己紹介も済んだことだし。学校に行こう」

「その前に、君たちは家に帰って準備をしなさい」

「ちゃんと朝ご飯を食べてくださいね」

「ばいばーい」


俺と東雲を除いた女性陣は、余裕で学校に間に合ったらしい。俺?遅刻したに決まってるじゃんか、もう堂々と三時限目から登校してやったぜ。


超目立ったので、これ以降はできるだけ控えるようにしたい。なお、東雲は学校をさぼったらしく、後日雪さんから説教されたという話を聞いた。


世間って狭いよね。

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