第41話 で、なんの話だっけ?

ひとしきり勝負を終えて、彼は口を開いた。


「で、なんで俺たちこんな必死にバスケしてんだよ、夜中に」

「あはは、なんでだったかな?」


いや、なんでだっけ。なんで俺たち、こんなまじめにバスケしてんだっけ。なんか、譲れない理由的な何かがあったと思うんだよなぁ。

そう、具体的にはバスケ関連って!


「そうだったっ!俺のチームに入ってくれ!」

「あ?ああ、そういやぁ、そんな話だったな。っつーか、俺に勝ったらの話だろ?」「くっ!なら、即座にリベンジマッチだ」


俺がそういうと、彼は心底愉快そうに高笑いを始めた。「アハハ、ハッハー!」と豪快に笑った見せる彼に、俺は扱いを決めかねる。これは、俺はどう立ち回るのが正解なんだ?

一緒に笑うべきか?しばらく混乱していると、「いや、わりぃな」と悪びれもなく言う。


「まさか、3時間もバスケして再戦を即座に申し込まれるとは思わなかったぜ?つーかオタク、バケモンかよ」

「それが体力とバスケへの意欲を言ってるんなら、完全にブーメランだぜ?」

「ちげぇねぇ」


言いあいながらも、互いにコートの中央で大の字になって寝そべる。不思議と、無駄に沈黙が流れるこの時間も、何故か心地よい。普段なら、絶対に嫌な時間なんだけどなぁ。


「なぁ、おい」

「なに?」

「お前、本気でバスケチーム作るのか?ほかのメンバーは?」

「作るのは本気だ。今のところ、女子三人。うち二人は初心者だな」

「はぁ?!」


うぅ、言いながら俺だって無理があるなって気はしてたさ。だって、本気でやるって言ってるのに、女子三人って。しかも初心者って、勝つ気ないもんなぁ。

俺だって、逆の立場なら全力で疑う。


「お前、勝つ気あんのか?」

「ある。でも、バスケは楽しんでなんぼだろ」

「確かにそうだが、さすがに色物すぎやしねぇか?ストリートだぜ?」

「やっぱり?」

「ったりめぇだろ」


流石にストリートで、男女混合で男子2は結構きついよなぁ。あたりが強いチームとかに接触したら、困るし。流石にスポーツにかまけてセクハラするゴミはいないと思いたいけど、現実どうなのかわからんし。


「それに、肝心の男勢は五体満足とはいかないらしいしな」

「なぁー。俺は片足ないし、お前は片腕ないもんな。はぁ、マジでなんで足を切り落とす羽目になったのやら」

「あ?てめぇ、それは生まれつきじゃねぇのか?」

「ん?ああ、この春切り落としたんだよ、交通事故でな。で、バスケの試合に出れなくなったから、もちろん勝つことは目指すけど、俺だけの楽しめるバスケ空間を作ろうと思ってな」

「行動力が半端ねぇな、お前。もう少しへこむ時期とかあんだろ」

「凹んだら何か変わるのか?いや、悩むし迷子になるし何度も自問自答を繰り返すし、うじうじしてるけど。でもさ、だからと言って、現実は何も変わらないんだよ。いや、むしろバットエンドだけが、唐突に俺に襲い掛かってくるんだ。なら、自分でつかみに行くしかないだろ、打席に立たなきゃ、三振すらできねぇんだぞ?」


待っていたって、誰も助けてはくれない。ヒーローなんて存在しなくて、いるのはいつだってヴィランだ。そんな世界で、自分から動かずに打席にも立たずに待っているだけの、そんなお姫様にはなりたくない。


「俺は、俺たちは、決して無能でも無用でもない。俺は、俺のすべてをかけて、今はそれを証明する」

「はぁ……………………だったらせめて、ヒット打てや」

「だね」


どちらからともなく、笑いあう。いつぶりだろうか、こんなすがすがしい気分は。なんだろう、信頼できる親友ができたみたいな。いたことないけど。

でも、遠慮なく正面から激突できる、そんな相手を手に入れたと思う。


「ま、なんでもいいや。いいぞ、チームには入ってやる」

「マジで!」

「ただし、条件がある!」


いつの間にか上体を起こした彼は、ビシッと指を立てると俺に条件を提示した。しかし、その内容はむしろこっちからお願いしたいことでもあった。


「俺に、センターをやらせろ」

「むしろお願いしたいくらいだ」

「え?良いのか?」

「いいも何も、そこら辺のポジションを頼みたかったんだ!俺のポジションは元々、PGだしな。チームでは、多分PFあたりをするけど、この足じゃCは無理だからな」

「なら、文句はねぇ」


満足そうにうなずく彼に、俺はそっと近寄ると左手を差し出す。もちろん、チーム結成の握手だ。

というか、まだ自己紹介すらしていなかったしな。俺たち、どこまであほなんだ。


「んじゃ、これからよろしく。禅定夏樹だ」

「こっちこそ、頼むぜキャプテン。俺は、東雲勇作だ。見ての通り、片腕のゴミだが………って、お前が禅定なのかっ!?」

「ん?」


なぜそんなに驚く?俺、そこまで有名人じゃないはずなんだけど。

俺の知らぬところで、包囲網か何かできてるのか?


「いや、中学の時にやべぇPGがいるって話題になってたぞ」

「あー、らしいね。もう関係ないけど」

「はぁ、なんつーか、お前。面白い奴だな」

「え、男にそれを言われる日が来るとは」


背筋がぞっとするよ、やめてくれ。

俺はノーマルだ。


「いや、なぜに驚く」

「ごめん、なんでもないんだ」


穢れていたのは俺の方だったか。

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