第32話 コーチイングとプレイヤー

ガコンッ!ガコンッ!と、良い音を立ってボールが大きく宙を舞う。宙を舞うボールは見事に放ったものの手に収まった。


「ねぇ、夏樹さん!これでいい?」

「夏樹さん、私の方はどうですか?」

「う~ん、いい感じでだとは思うんだけどなぁ。入ってはないねぇ」


加奈ちゃんも雪さんも、揃ってシュートを外した。ただ、シュートフォームはしっかりしている。ジャンプをしてから、ボールを放るまでのタイミングも、まぁ問題はなさそうだ。

でも、シュートはリングの中に納まることは少ないらしい。


「感覚的な話だけど、シュートするときにどこ見てる?」

「え?リングの奥?」

「リングの手前かな?」

「「え?」」

「ふむ」


ちゃんと自分で見るべきところを定めているのか。それでも、二人ともいい音を立てて、リングにシュートがはじかれている。ということは、飛んだ時には視線がずれてるんだろうなぁ。それか、ジャンプする前の感覚でシュートを放っているのか。

いずれにしろ、狙った位置に飛んでないんだろうな。


「え、お姉ちゃんなんで手前なの?ちゃんと奥を狙わないとっ!」

「そうなの?私、手前でいいって言われたんだけど……」

「いや、どっちでもいいよ?」

「「えっ?」」


喧嘩になる前に仲裁をと思ったけど、この姉妹なんだかんだで仲いいよなぁ。反応が二人とも完全にシンクロしてるし、狙ってるんじゃないかって思う。まぁ、当人たちの反応を見るに、これが素の反応何だろうけど。


「リングの手前を狙っても奥を狙っても、自分が投げやすい方法であればシュートは決まるんだよ。だから、どっちでも大丈夫。ただ、奥を狙った方が良いって言われているのは、ゴール裏の板を使えるからだね」

「あ、そっか。直接狙わなくても、後ろの板に充てて入れればいいんだもんね」

「そうそう、特に正面からシュートする時なんて、板に当てた方が簡単に入るよ?」

「参考にした人たちがみんなキレイに入れていくから、気が付かなかった…」

「加奈ちゃんのシュートだと、板に当てた方が良いかもね。結構勢いがあるから、力加減を覚えるよりも板を利用した方法の方が簡単だと思う」

「そうなの?」

「うん」


加奈ちゃんのシュートは、ちゃんと弧を描いているが勢いがある。多分、バスケプレイヤーが無意識で殺している勢いを、加奈ちゃんは殺しきれていない。後、ボールの回転も不安定というか傾いているから、まっすぐきれいに飛ばすのは難しいだろう。


「私は、どうしたらいいかな?」

「雪さんは、できるだけリングに直接入れるイメージで行きましょうか。難しそうなら板を活用する方針だね。ただ、加奈ちゃんとは違って勢い不足な面が見えるから、もう少し力を入れてもいいかも」

「力を入れるかぁ、うん。調整してみるね」


それから数回に渡ってシュート練習をする二人。ただ、やはりというか、同じ場所を狙って打ち続けているのに、ボールが当たる箇所が毎回大きく変わる。ジャンプが流れている時は致し方ないが、それでも変なランダムさが見て取れる。

う~ん、やっぱりジャンプするタイミングで何かしらの影響が出てるなぁ。


「加奈ちゃん、ジャンプしたときにどこ見てるの?」

「え?私は、ジャンプしたときもリングを見てるよ?」

「それは、初めに狙ってた場所?」

「う~ん、どうだろ。リングの方は向いてるけど、ずっと狙ったところをジッと意識できているかと言われると、怪しいかなぁ」

「じゃあ、次はそこを意識して打ってみようか」


元気よく「はーい!」と返事をすると、加奈ちゃんはすぐさまシュート練習に入る。最初の数本はまだまだブレブレだったが、徐々に一定の範囲に入るようになった。

これは、シュートが入るようになるのは時間の問題だな。


「さて、問題は雪さんだね」

「あはは、ごめんね?」

「そう簡単に習得できるもんでもないから、大丈夫」


ジャンプが流れたり、回転が不安定だったり、基本的な運動能力に問題があるなぁ。ま、女の子だし男子みたいに走り回っているわけじゃないし。運動不足感が否めないのは仕方ないな。


「まずは自分の体がどう動いているのか、ちゃんと把握してみましょうか」

「自分の体が?」

「そ、加奈ちゃんとかは無意識化でしているけど、体の制御を意識してみるってことかな。それができると、シュートもそうだけど、ドリブルとかパスとかもクオリティが段違いに上がるよ」

「でも、それってどうやって習得するの?」


うーん、どうやるのが理想的なんだろう?気が付いたらできてたからなぁ。動画で取って確認してみるのが良いのかな。


「動画を取って練習してみようか」

「わかった」

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