第30話 自称弟子

「じゃあ、私が弟子になる!」


昨日のことを悩んでいても仕方ないので城崎さんに相談すると、彼女は開口一番挙手しながらそう言った。元気よく、「ハイハイッ!」と言ってジャンプするけど、ちょっと待とうか。

うん、具体的にはヒラ付くスカートと、揺れる胸に多くの男子生徒が釘付けになってるから。教室でするような相談じゃないか。

というか目立つから、早く帰りなさい。


「弟子になるって言われてもなぁ、ちょっと困る。というか、君の場合は一軍で活躍しているイケメン君が構ってくれるんじゃないの?俺が教える必要性があるの?」

「何言ってんの?あんな奴、私が関わる必要ないでしょ?第一、あの人口ほどにも強くないよ、中学2年生の頃のあなたあの方が強いわ」

「へぇ、それは興味深いな。この学校に、俺よりも強い人間がいたのか?」

「あら、釘崎君。盗み聞きはよくないわね」


城崎さんは後ろから乱入してきた声の主に文句を言いつつ、視線だけで牽制した。彼はその視線を受けて少しだけ表情を歪め、何故か俺のことをにらみつける。

いや、好意を完全無視されて別の男と会話してたら嫉妬するのは理解できるけどさ。その視線と感情を俺に向けている時点でダメなんじゃないかな?


「はぁ」

「なんでため息?」

「え・俺の扱いそれで終わり?ねぇ、城崎?」

「いや、視線が痛いなぁと。これまでずっと逃げてたんだけど、今日はついに捕まってしまった」

「いや、お前まで無視するのか?」

「やっぱり逃げてたのねっ!」


入学して一か月以上、城崎さんから逃げ続けていたんだけどついに捕まった。まさか、休み時間のスタートと同時に襲い掛かってくるとは、想像もできなかった。

はぁ、これまで静かに過ごせたのに、バスケ部をはじめこのクラスで比較的にぎやかなメンツが、こっちを興味深くて見るし。嫌だなぁ、絶対に関わりたくないんだけど。


「だって、目立ちたくないしね。一度でも目立ったら、大変なんだよ?」

「お~い」

「そうね、目立ったら一緒だよね」

「諸悪の根源なのに、嫌に嬉しそうに言うじゃないですか。俺としては、できればその感覚は一生持ちたくないなぁ」

「ま、まぁ!目立ったのは別として、私を弟子にするプランはどうなの?」

「どうって言われてもなぁ」

「おい!いい加減にしろっ!無視するなっ!」

「ちょっと判断に困るなぁ」


弟子とか、考えたことがない。人にものを教える才能が自分にないことは知ってるけど、そもそも俺自身にそれだけの技術と知見があるとは思っていないんだよね。もっと試合を大局的に見れて、冷静で判断が的確にできればその方法もあるとは思うけど。

僕は、まだまだ視野が狭いし、できないことが多すぎる。


「少なくとも、私は君に教わりたいと思うよ」

「そうか?」

「うん」


まっすぐな真剣な瞳。無駄な感情や思想が一切ない、透き通るまでの意志を宿した瞳であるが故に、困る。

俺自身の思考は、判断は、感情が、醜いものであると理解しているから。わかっているさ、自分の考えが逃げであることくらい。でもまぁ、それでも変える気はない。


「ごめんね、今は受ける気ないんだよねぇ」

「あはは、だと思った。君は、いつも何か迷ってるからね」

「俺が?」

「うん」


迷っているのだろうか。いや、いつも何か唐突に選択肢をたたきつけられて困っているか?そんな簡単な話なのか知らないけど、俺は俺で困り続けているしなぁ。

困っていることは迷っていることと同義なのか?ただ、俺の選択も思考も、なんだかんだ揺らいでいるし迷っていることは間違いない。


「なるほど、確かに迷っているらしいな、俺は。いつも迷っているような気がする」

「君ほど適当に生きていて、バスケ以外に関心がない人も珍しいよね」

「ほかのことを全部無視しているからかな」

「お前の人生はどうでもいいが、この俺を無視するんじゃないっ!」

「君、いい加減うるさい」

「ちょっと静かにしてもらえる?」


なんか騒いでいる外野に、僕も城崎さんも面倒になった。城崎さんの言い方が想像の5倍きつくて、相手も思い切り引いている。大丈夫かな。

イケメンフェイスが激しくゆがんでるけど?


「さて、この人は放置しておいて。考えるべきだよ、君は」

「そうかな」

「うん、私が君にバスケを見てほしいからじゃない。これから先、一生バスケをしたいのなら、プレイヤー以外の方法を探してみてもいいんじゃないかな?」


何だか諭されているような気がして、無駄に抗いたくなる。。でも、相手が言っていることが間違っていないことはわかるし、これは俺の感情の問題だ。

しかも、言われる相手が原因というひどく傲慢で気持ち悪い。認めたくない、くだらない感情だ。


「でも、考えておいて。私はいつでも待ってるからね」

「了解です」


城崎さんが言って席を立つと、タイミングよくチャイムの音が響き渡った。そのタイミングで「おいっ!覚えとけよっ!」と言ってイケメン君も帰っていった。俺、何か悪いことをしたんだろうか?


彼は城崎さんのストーカーなんだろ?俺、関係なくないか?

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