第27話 女バスと男バス
あの視線フェイク、どうやって攻略してやろうか。そんなことを考えている間に、午前午後と過ごしてしまった。足を怪我して以来、こうして悩んでいることのほうが増えてしまって、なんだか気持ち悪い。
体を動かしている方が、何となく答えがつかめるような気がするんだけどなぁ。
「あっ、今日は夏樹君が先なんだ」
「ああ、早く練習したくてな」
「なるほどねぇ~。私は先にマネージャー業務を熟してるから、君はみんなに混ざって練習してたらいいよ?」
まだ誰も来ていないコートを指さす彼女。それは暗に、練習に参加しろとのお達しなのだろう。もしくは、俺が孤立していることを気にかけてくれているのかもしれない
。実際、三軍メンバーから認知されているが、会話なんてしたことないしなぁ。俺がマネージャーを手伝っている時も、基本はみんな女子に群がっていたからな。
「りょうかい~」やる気なく俺はヒラヒラと手を振ると、再びシュートモーションに入る。それから俺は一人で、シュートの練習をするのだった。
三軍の練習は、俺が合流したときよりも一段と質の低い内容になっていた。城崎さんに聞いた話だが、初めのころは今の倍は活気があって質の高い練習をしていたらしい。ただ、徐々にやる気が削がれていったようだ。
「今日の練習もきつかったなぁ~」
「なぁ~。つかさー、最近は女子マネが殆どさぼり気味じゃん?それに女子バスのほうは、レベルが上がってきたのか俺たちとは別で練習してるしよ。何しに来てるんだろうなあ」
「だよなぁ、モテる為に始めたのに二軍どころか最下層で意味もなく汗をかくだけの毎日かぁ。こんなことよりも、やるべきことが俺らにはあるのになぁ」
「いやいや、まだ城崎さんがいるだろっ!?」
「何言ってんだよ、其れこそ夢の話だろ。城崎さんは、一軍のメンツも必死に声をかけるくらいだぜ?」
「だよなぁ、俺達にはワンちゃんもなさそうだ」
俺の同級生たちはそんなことを言いながら、体育館を後にする。俺は彼らが走りこんで汚れた体育館をモップ掛けし、ボール磨きを始める。今日は城崎さんが練習に参加できないので、俺はここから一人で練習をこなすことになる。
実は、ストバスで城崎さんと出会っていこう彼女は平日の数日間をクラブチームで過ごすようになった。そのせいか、彼女は以前よりも活発で元気な印象を受けるようになった。
本人曰く、たいして何も変わっていないとのことだが、城崎さんの笑顔でノックダウンした男女は数知れない。
「あっ、まだいてくれたっ!」
「ほえ?」
「ちょ、なんで忘れ気味なの?」
「いやほら、私たちはそこまで関係性がないでしょ?」
「あはは、ごめんね?禅定君。我慢できなくてさ」
「皆さんお揃いで、お疲れ様です」
笑い声とともに登場してきたのは、先ほど話題になっていた女子バスケ部の皆さんだ。全員ではなく、スタメンの3人が楽しそうに入ってくる。
一体どうしたんだろうか?すでに大半の部員は帰ったんだけど?
「ごめんね、急に」
「それはいいのですけど、どうしたんですか?この体育館には、もう俺しかいないですけど?」
「あっ、うん。君がいてくれたら満足だよ。ほかの人たちは、多分私たち目当てで群がってはくれるんだけど、正直迷惑だからね」
「あはは」
これには、乾いた笑みをこぼすしかない。丁度さっき、その通りの言葉を吐きながら、片づけもロクにすることなく彼らは帰って行ってしまったしね。
いや、本当に困る。何が「どうせ禅定が練習するから不要」なんだか、サボりたいだけの癖してさ。
はぁ、もういいや。
「それで、なんの用事ですか?バスケ部のキャプテン陣営だけではなく、エースまで出張ってきているのはただ事ではないと思うのですが?」
「それなんだけどさ、私たちとワンオンワンしてくれないかな」
「俺が?ですか?」
「「「うん」」」
きれいに揃いましたね、なんて冗談は別として。なんで俺なんだろうか、というのはもういいか。こっちも練習相手には飢えていたところだし、いろんな人と全力でやりあいたいと思っていたんだ。
「俺は構いませんけど、多少接触があっても訴えないでくださいね?」
「そんなのあたりまえじゃん。むしろ、それを気にして手を抜かれて、技を中途半端に披露される方が嫌だよ」
「良かった。なら、先輩方も全力で来てください」
「もちろん!」
「なら、暇が出ないように総当たり戦でやりましょうか。コート半面を使いあって、試合と同じくハーフラインを越えたら負けでいいですよね」
そこから簡単に打ち合わせを行い、彼女たちのアップを見守る。ここに来たときは既にクールダウンしていた体に、再び熱を入れていく。淡々とシュートを打ちながら待機していた俺の前に現れた彼女たちは、すでに一人前の戦士の表情をしていた。
アップが完了した証である小さな息切れと、うっすらと肌に浮きあがる汗。白い短髪のエースの人だけが、何故かすでに息が上がっていたがペース配分間違えたのかな。
「それじゃあ、初めは学年どうして組もうか。私たちがあっちのリングを使うから、二人はここのリング使いなよ。流石に、これくらいの譲歩はいいでしょ?」
「むしろありがとうございますって感じです。助かります」
「あはは、それじゃあ先に行くね。夢、負けないようにね」
「はい、キャプテン」
夢と呼ばれた少女は、力強く頷き、俺のほうをまっすぐと見据えた。一年生ながら、女子バスケ部のエース。正式なエースで、全国区でその名前は轟いているらしい。中学時代は、Cとして活躍していたが、その圧倒的実力もありPFもこなせるらしい。
今は、身長の関係でPFをメインで担当しつつ、3Pの練習を行うことでSFとしてもある程度は動けるようになっているらしい。
「私が先行でいい?」
「いいよ」
パッとパスを出し合って、それだけで理解できた。
うん、この子強いわ。
「本気で行くからね。頑張って?」
「ありが……っとっっ!」
早速高速ドリブルからの一歩で抜かれそうになるが、なんとか食らいついた。「へぇっ」と興味深そうな視線が一瞬だけ向けられた。早いけど、男子の中ではそこそこの速度だ。ただ、3年の先輩たちのほうが、倍は早い。
キュッ!
高速移動から、ターンもフェイクもなく唐突の急停止。小さなスキール音を軽快に鳴らし、足が揃いひざの屈伸運動に合わせて彼女の体は一瞬で停止して上に移動した。
「はっ!」
「ん!」
ガオンッッ!!
放たれたシュートは、弧を描きながらリングに衝突した。
「間に合うんだ、あのタイミングで。本当に義足?」
「ええ、義足ですよ?それに、確かにあの場面でノーフェイクのノーガードシュートは驚いたけど、それで思考停止はしないよ」
「なるほど、ちゃんと強いね」
彼女は満足そうに微笑むと、チロリと小さく舌を出して見せた。軽くその小さく膨らんだ唇を舐めるようなしぐさをすると、俺のほうをジッと見つめ始めた。その身にまとう雰囲気も、全然違うものに変化している。
「そっちは、尻上がりに調子が上がるタイプなんだね」
「そうだよ?だから、ここからだよ」
まだまだ勝負は始まったばかり。この練習の終盤までに、彼女はどこまで豹変するだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます