第23話 人気者の末路?

ウィンターカップといえば、高校生にとっては重要な大会だ。夏に行われる全国大会と、冬に行われる全国大会だからだ。夏は3年生がいるチームも、ウィンターカップになると引退していることが多い。特に、うちの高校は全員が部活を辞めて試験勉強に専念していることもあり、ウィンターカップで勝つためには厳しい競争を生き抜く必要がある。


それ故、二軍と三軍メンバーからすれば最後の昇格機会ともいえる。自分が有能であることを示すことができれば、活躍の機会が与えられるのだ。かくいう俺も、昇格テストは受けてみたものの、体力と走力の面で惨敗を喫した。三試合走り続けるだけの体力がなく、失ったものはかなり大きかったようだ。


テストを乗り切り、ごく一部の認められた人間だけが許される一軍。そのメンバーとして選ばれた精鋭たちは、協力して地区大会を勝ち進み、県大会でも優勝した。その勢いのまま、全国大会に出場し優勝するかに見られた。ただ、僅かにその手は金色のトロフィーには届かず、惜しくも全国二位という結果に終わった。近年、「勝って当たり前」という評価をされていた我が校だけに、この敗北はかなり大きなダメージを受けることになる。


俺たちの高校が負けたのは、東京代表である帝総合学園。スカウトに力を入れていることが有名で、関東圏の優秀なプレイヤーが多数集まる高校だ。今回、その高校にビッグプレイヤーが二人加入した。一人は留学生のアレックス。もう一人は、ハーフである神崎レイクロフトだった。二人は身長190という高身長ながら、パス、ドリブルのセンスも高く、何よりうまい。この二人のエースを前に、俺たちの高校は成す統べなく敗れることになった……………らしい。

というのも、俺は三軍メンバー。応援席にすらたどり着くことができなかった。



「いやー、きつかったわー」

「バスケ部、全国大会出場してたもんねぇ。入学前から知ってたけど、本当に出場してるところを見るとびっくりするよね」

「ねー。しかも、一年生でレギュラーの人もいるんでしょ?」

「そうそう!しかもメッチャイケメンなんだよ!」

「わかるっ!あの人絶対に人気高いよねっ!わたしも狙ってみようかなって思ったけど、遠くで見てるだけで十分だもん」


クラスメイト達は、新人戦や各々の大会の感想を述べていた。そのさなか、やはり全国に出場して見せたバスケ部は話の中心となり、注目を集めていた。今年の新人戦には、何人もの一年生が出場しており、クラスメイトの中で一軍である彼は再注目人物になっていた。


「でも、確か花音ちゃんに告白して見事に振られたって聞いたよ?」

「え?ほんとに?」

「うん」

「あっ、それ私も聞いたぁー!思い切り振られて、完全に光は断ち切られたみたいだよ?しかも、絶対にOKされると勘違いしてたらしくて、その振られた現場を大量の男女に目撃されるおまけつき」

「うわ~、それはないわー」


名前も知らない一年生エース君、散々な言われようである。ウィンターカップの決勝戦だけ視聴したけど、確かに彼は顔はよくてバスケも上手かった。う~ん、となるとあれかな?勉強が恐ろしくできないとか?


「なんで振ったんだろうねー」

「好きな人がいるって言ってたけど、誰なんだろう。バスケ部の人って話なことは確実みたいだよ?」

「ふっ、それは俺のことじゃないかな」

「いや、お前のわけないだろ?最悪俺程度の実力はないとなぁ!」

「いや、二人とも実力でいえば一軍ギリギリでしょ?」

「お前は三軍だろうがっ!?」

「「「あははっ!!」」」


へぇー、城崎さん好きな人がいるのかぁ。あれ、ずっと俺といるけどいいのか?いやまぁ、今はバスケに全力で恋は別問題にしてるのかなぁ。というか、三軍のお前はもう少し悔しそうにしようぜ?

今のままだと、本当に城崎さんの言う「三軍なんか」に成り下がってしまうだろ。最近は俺よりもやる気のある人もいないし、なんか微妙な部活なんだよなぁ。


未だ教室で駄弁っているクラスメイトを放置して俺は、一人で部活に行こうと席を立った。丁度そのタイミングで、クラスメイトがざわつき始める。


「おいっ、あれって!」

「えっ!どうして?」


ザワつくクラスメイト達が指さす先には、一人のイケメンと、見慣れた美少女の姿。おお、彼らがいる場所だけなんでか別世界のように華がある。俺とは別世界、学校のカースト最前線で活動する彼らは、その身にまとう輝きからして違うらしい。

二人は俺の教室の前で出会ったらしい。教室の黒板側の扉で、嫌そうな表情をしている城崎さんがかわいそう。まぁ、助けることもできないし助けも求められてないから、俺には関係ないけど。さて、さっさと先生のところに行こうかな。


「あれ、花音もこのクラスに?」

「私の後ろをついてきてたくせに、それは無理があるんじゃない?私、あなたのこと興味ないから。ストーカーとか、普通に引くよ?」

「なっ!?ストーカーじゃないっ!」

「いやいや、普通にストーカーだから。一軍のくせして、三軍の体育館に来たり、こうして私の後ろをついてきてたり。昼休みだって、友達とご飯食べてたら普通に隣の席に陣取ってるし。キモイよ?」

「うぐっ!」


同級生ながらストーカーは流石に引く。犯罪すれすれだし、人によっては精神的に大きなトラウマができるじゃないか。城崎さんは心が強いからいいかもしれないけど、決して、笑いごとに済ませることができる内容じゃないけど?

あれかな、教員を早急に呼ぶべきかな。


「はぁ、なんでもいいけど。用がないんなら、もういいよね?あっても聞く気はないけど」

「なっ!ちょ、待ってくれっ!」

「何?」

「なぜ、俺じゃなくてアイツなんだ?」

「何が?」

「あの三軍のやつだ。君といつも練習している、あの下手糞の為に、なぜ君はそこまでするんだ!」


あ~、痛い。ホンっとうに、痛い。心が痛いけど、あのバカは死んでも治らないんだろうなぁ。めんどくさいというか、自分に対して無駄に自信があるからこそ理解できないんだろうな。普通、自分がだめであの人がいい理由は?なんて問、すぐに答えが出るのに。

というか、あっ。城崎さんがキレてる。あれは、バスケの時に俺が何連勝もしたときに、稀に見せる顔だ。思い切り戦闘心を剝き出しにして、敵としてしか相手を見ていない。


「ああ、なるほど。確かに君と同じく弱いけど、それが何か関係しているの?あなたに何の意味があるの?私がそれを説明して、何か変わる?人の心に土足で入り込んで、踏みにじって?何がしたいの?馬鹿なの?ねぇ、私を怒らせて、不快にさせて、友達を怖がらせて、悲しませて、怯えさせて、恐怖を刻み込んで、勝手に縛り付けて、知ろうとして。何がしたいの?今度は私の何様のつもりでそんなこと言ってるの?あなた、私が照れ隠しや何かで君への好意を隠しているとでも勘違いしてるの?馬鹿じゃないの?そんなわけないでしょ?純粋に、心の底から、100%の善意で教えてあげるけど、大嫌いだよ?むしろ、どこに好きになる要素があるの?ああ、あたりまえだけど恋愛的な意味でも、人間的な意味でもだよ?顔だけよくて、頭だけいい人なんて、この世にはごまんといるんだよ?それだけしか威張るものがないんなら、引っ込んでくれない?正直言って、迷惑だから。というか、迷惑で不快で嫌悪感の塊で邪魔で、それ以外の何物でもないよ?」


おおう、辛辣ぅぅ~~。ちょ、城崎さん言いすぎじゃない?ほら、相手のイケメン君悲しそうな顔を通り越して、居た堪れない感じだよ?まぁ、個人的にはスカッとしたけど、この後どうなるのか。ちょっと怖いなぁ。


「うん、城崎さんは放置して先に先生に会いに行こう」


その後、実は20分ほど揉めていたらしいが、最終的に先生が出張る話まで成長したらしい。なお、相手の名も知らぬイケメン君には、罰則が科せられることになった。


恋愛ごとでも、異常に執着するのはよくないよね

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