第20話 練習とストバス

それからしばらく、バスケの練習をしに来た城崎さんを交えて、四人で簡単に遊び始めた。ミニゲームもどきをしたり、城崎さん相手に姉妹二人で挑戦したり、城崎さんとワンオンワンしてみたり。

気が付いたら、三時間もの時間が過ぎ去っていた。あっという間の時間だった。さすがに疲労感がたまってきたこともあり、俺と城崎さんはコート横のベンチに座って談笑しつつ、シュート練をしている二人を遠めに眺めていた。


「そういえば、夏樹君はストバスしたことがあるの?」

「俺は幼少期はストバスだったよ?というか、中学時代もコートが借りれなかったから、近くの公園で練習してたしね」

「へぇー、だからゴールセンスがいいんだね?」

「なにそれ?」

「なんていうかな、ゴールを決めるために必要な手先の感覚?それはさ、これまでの人生でどれだけシュートをしてきたかで決まると思うんだ。もちろん、天性の間隔ってあると思うけど、それもシュートをしないと磨かれないでしょ?」


いわれてみれば、確かにその通りかもしれない。確かに何時間も練習して何か月もそれを繰り返していくうちに、右手でも左手でも関係なく簡単にシュートが入るようになった。中学に入学する前には、トリックシュートを自在に操れるようになったし、3Pエリア内ならどこからでも、正直フォームに依存せずに決められる。リングの位置を確認して、空中で姿勢を整えて、きれいに力を伝達できればだけど。


片足を失ってから、空中姿勢で非常に苦労している。ただ、手先の感覚で無理矢理修正できるときもある。もちろん、できないときもあるけど。俺はボールハンドリングの問題かと思っていたけど、実際は違ったのかもなぁ。


「確かに、俺もそういわれてみれば覚えがあるような気がするな。確かに、シュートの感覚を養うには、時間が必要だもんなぁ。なるほど、だから俺はそこまで練習しなくても、この体でもある程度シュートが入るようになったのか」

「まぁ、もちろん才能的な部分もあるとは思うけどね?でも、君の人生経験はほとんど無駄になることなく、全部生かされていると思うよ」

「あはは、ありがと」


城崎さんは俺のこれまでの人生を肯定するような発言を時折してくれるけど、それはなんだか嬉しい。でも、そのたびに心の奥底にチクりと何かが刺さるような痛みを感じるようになってきている。

これは、いったい何なのだろうか?


「城崎さんは、ストリートで練習を始めたのはいつからなの?」

「中学の時、君のことを初めて見たその日から。試合に勝って、決勝まで進んだ。でも、君のようなプレーはできなくて、絶対に追い抜くって決めたの。そのためにできることは全部したし、中学時代君の学校が練習試合とか公式戦をするときは、いつも見に行っていたんだよ?録画して、そのプレーを文字通り目に焼き付けた。でも、同じことはできなかったし、同じレベルにはたどり着けなかったんだ」


話している最中はまるで輝かしい自分の記録を語るような口調だったのに、最後は下を向いて悔しそうにしていた。多分、それだけ必死に俺のプレーを見て真似をしようと練習したんだろうな。

でも、どれだけ練習したのかはさっき一緒にプレーしてて何となく把握できた。城崎さん、フックシュートもできるしバックシュートやフェイダウェイシュートも全然できる。単語自体は結構聞くけど、どのシュートもシュート率を7割超えて入れるには、かなりの練習量が必要だ。


「まぁ、俺のプレースタイルは俺に最適化されているからね。身長が似たようなものだったとしても、残念ながら筋肉の付き方や骨格が違うから難しいよ。でもさ、面白いものでバックシュートに関しては、城崎さんのほうが上手だと思ったよ?」

「本当に?私、夏樹君みたいにゴールを見ずに打つことができないから、あまり役に立たないかなって思ってたんだけど」

「う~ん、タイミングが早いからレイアップを完全にフェイクに使えてないんだよね。もう一つ問題なのは、打点が低いことかな。前に飛ぶことに意識がいってるけど、実際にはもう少し上。斜め上に飛ぶ意識が必要だと思う。もっと垂直に飛んでいいよ」

「そうなのっ!?」

「たぶん」


何度か対戦して思ったけど、単純に体が流れているだけなんだよね。前に飛ばないとリングの反対側からシュートを決めることができない。だから、できるだけ前に飛んで相手をかわし、シュートは投げるだけになってしまうことがある。ただ、それはシュートの打点が低くなるし、体も流れてしまうからシュートを打つのもめんどくさい。

自分で練習しているとなかなか気が付かないけど、バックシュートは意外と完璧に取得するのは難しいんだよね。


「ちょ、練習してくるっ!」

「え、うん」


普段のマネージャーをているときの姿からは想像もつかないほど、ワクワクとした楽しそうな表情をすると、さっそくボールを手にして練習をしに行ってしまった。


「あはは、結局彼女も俺と同じバスケバカなんだよね」


その日、二人のバスケ好きが誕生し、俺は一人のバスケバカと出会った。

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