第19話 

「この二人とは、どんな関係なのかな?マネージャーで君の事を付きっきりでサポートしている私よりも優先するって、どんな関係なのかな?それに、中間試験が近いからって、言ってたのはどこの誰ったかな?それにそれに、日曜日は安静にしておかないと事故が原因で体を壊す人はどこの誰だったかな?かな?」

「はい、申し訳ありませんでした」


くそ、まさか近所に城崎さんが住んでいたとは。どう見ても運動をしに来た服装で、すらりと伸びた白い手足が惜しげもなく晒されている。肌はきれいだけど、それ以上にアスリートのようにしっかりと鍛えられた体だ。

ということは、彼女はマネージャー業の傍らこうしてバスケを黙々とこなしているってことなのか?なにそれすごいな。


「あの、夏樹さん?この人は、同じ学校の人なの?」

「ん?ああ、俺の学校のバスケ部でマネージャーをしてくれている城崎さん。俺も滅茶苦茶お世話になってるんだ」

「へぇ~、そうなんだ。なんか意外だな、夏樹君はマネージャーのサポートとかしてそうな性格なのにね」


なんだろう、雪さんから向けられる視線が少し痛い。というか、俺の性格的にって、そこまでバレてるのかな?予想はドンピシャで驚きが隠せないんだけど?


「ふふっ、夏樹君ここでも尻に敷かれてるっ!!」

「ちょ、笑ってないで何か手を差し伸べてくれてもいいのでは?」

「え?私に嘘ついている人に何をしろって?」

「ごめんなさい」


完全に孤立だなぁ。加奈ちゃんも、雪さんの雰囲気が怪しくなったことを悟ったのか、さっきの質問して以降ひたすらにシュート練習をしてるし。いいなぁ、俺もそっちに交じりたい。

少なくとも、バチバチと音を鳴らしてにらみ合っているこの二人の間にはいたくない。


「というか、なんで君は休まないの?体、大丈夫なの?」

「え?う~ん、本当はだめだけど来週からテストだし?練習も軽めだったから、簡単に付き合うぐらい問題ないでしょ」

「なにそれっ!私そんなこと、聞いてないよ?無理なら無理って、言ってくれてもいいのに」

「え、この人たちに説明すらしてないの?まったく、夏樹君はもう少し周りを頼ることを覚えなさいって!あのね、君が誰かを頼ったところで別に文句を言って嫌う人なんていないんだから。むしろ、そんな人がいたら関係を積極的に断っていけばいいじゃない!!」


な、なるほど。その発想は、あるようでないというか、自分でコントロールするって発想がなかった。人付き合いは苦手だし、いまだに三軍選手どころかクラスメイトとの会話すらままならない。

う~ん、城崎さんみたいに友達がたくさんいればその選択肢もあるのかなぁ。


「そうだよ、というか私たちに関してはもっと頼ってもらわないと困るよ。加奈だって、私だって。今日は無理させちゃったけど。でも、嫌なことはいやって言ってくれたほうが助かるし、危険なことはしてほしくない」

「はい」

「それで、この人とはどんな関係なの?」

「同じ部活のマネージャーです。なんでか知らないけど、俺の専属っぽくなっていて、練習メニュー作成から練習まで幅広く支援してもらっています」

「なるほど、かなり親密なんだね」


親密といいか、気が付いたら離れなくなったというか。今、俺が全力全開でバスケの練習をするには、必ず必要な存在だ。そもそも、彼女自身のスペックが高いのもあって、非常に助かる。元PGということもあり、ドリブル、パスの熟練度は相当なものだ。


「はぁ、私もいろいろと聞きたいことがあるけど、なんとなく察しがついたわ。その子たち、あなたが足を失った原因ね?」

「いや、それは」

「はい、そうです」


キッ!と睨みつけるような城崎の視線を真正面から受け止め、堂々とした態度を崩さない雪さん。この場に加奈ちゃんが居なくてよかったと思うけど、いつの間にか雪さんが、精神的にメッチャ強くなってるんだけど。


「へぇ?なるほど、受け止めて考えてへこんで、そのうえでの態度ってことなのね」

「ふふっ、あなたの観察眼もなかなかですね?」

「まぁ、事故当時者は向こうにいる子だよね。その姉?でいいのかな?」

「「っ!!」」


すっげぇ、そんな事分かるもんなんだ。息をのんでしまったことで、確信を持った城崎は、「ふんふん、なるほどねぇ」などと言いながら俺たちをジロジロと観察する。嘗め回すように見られるのは初めての経験で、何と言ったらいいのかな。

慣れないというか、気持ち悪い。


「まっ、言いたいことは色々とあるけどまぁいいや」

「え?」

「ひとまず、私はあの子と話をしてくるねぇーー!!」

「は?」


タタタッ!と走って駆け寄っていくと、サッとボールをスティールしてシュートを決める城崎。お手本のようなフォームから打ち出されたワンハンドシュートはきれいな孤を描いて、そのままリングに突き刺さった。呆然としている加奈ちゃんに、ボールを渡しながら人懐っこい笑みを浮かべて近寄っていく様は、ただの変質者である。


ただ、はじめはシドロモドロな対応をしていた加奈ちゃんも徐々に笑みをみえるようになり、数分で二人は仲良くプレーを始めた。城崎のプレーを手本にするかのように、見様見真似、失敗上等で挑戦していく加奈ちゃん。


「楽しそうだね」

「ああ、俺が思っていたよりもあの二人は相性がいいのかもなぁ。というか、いきなり突撃していくとは思っていなかったけど」

「あはは、それは私も想定外だったよ。うん、でもそうだね。私たちはきっと、あの人と向き合っていく必要があるんだよ」

「へ?」


なんで?何か因縁でもあった?

でも、雪さんは楽しそうにバスケをしている二人を、今にも泣きそうな表情で見ながら、ボソッと小さな声で何かをつぶやいた。


ただ、その内容が俺の耳に届くことはなく、サッと吹いた秋風が遠くへ運んで行ってしまった。

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