第12話 第二試合3

俺と島田先輩、そして稲荷崎先輩を絡めた戦いはどんどん激化していった。


3Pもドリブルも自在に操って、確実に得点を重ねてくる先輩方。正直、こちら側のディフェンスで先輩方の裏をかくどころか、リバウンドをゲットすることも困難だ。

俺のほうも、できるだけ過激に攻めて行っているものの、何とか得点できるというシーンが続いている。そもそも、島田先輩を抜けているのもギリギリだし、先輩に誘導されて稲荷崎先輩との袋小路に、嵌められることも少なくない。その時はギリギリで察知して、ロールを利用してその場から抜け出す。時には、3Pで逃げるなどの方法で未だ、行動不能な状況だけは辛うじて回避することに成功している。


ただ、この均衡は絶対に長く続かないことは明らかだった。というか、俺個人の体力的な問題もあるが、何よりも目の前に立ち塞がる先輩という壁がでかすぎる。


「おいおい!もっと楽しめるよなぁぁぁ!禅定!」

「ったりまえじゃないですか!!」


こうなれば空元気だ、できるだけ走れ。やるだけやって、できるだけ頑張って。そんで、負けた時は負けた時考えればいい。

味方から受け取ったボールをドリブルつく事無く、左足を前に出したり引いたり、時にはパスフェイクを入れ込みながらタイミングを図る。

今っ!


「くっ!」


最悪!つられたっ!

俺の放った3Pは、ギリギリで先輩の指先に触れてしまった……気がする。少なくとも、軌道がずれてリングに当たる!


「っ!!リバウンドっ!」

「……リバウンド!!」


くそ、声出すのも面倒だ。しかも、完全にスクリーンアウトされてるし、ジャンプ力で劣るくせに、なんで基礎をおろそかにする。


ガコンッ!


「くそっ!」


リングに大きくはじかれたボールは、そのまま真上に上がっていった。落ちてきて李バウント勝負になるが、勝ち目はない。うちのPGは俺だから、ディフェンスに戻って、速攻に対処しないとっ!


「オオオオーー!!!」

「はいっったーー!!」

「えっ?」


振り返ってみれば、先輩方がコートのエンドラインでボールを投げるところだった。ダメだな、ボールから目を離すなんて。最後までボールの行く末を見ないと駄目なのに、後ろ見てディフェンスもクソもない。


「ふぅ、切り替えしてかないとな」

「いや、悪いがお前の上から決めさせてもらうぜ」

「はやっ!」


気が付いた時には遅かった。島田先輩は稲荷崎先輩とともに走りこんでくると同時に、俺に対して背を向ける形でボールを受け取ると、切り返しつつ斜めにダックイン。全身のばねを活用し、尚且つ右足を軸にして高負荷をかけたそのドライブは、本当に視界から消えていくようだった。

辛うじて、本当に辛うじて見えたのが視界の隅に靡くビブスのみ。


「想像の5倍は早いな」


両足が無事でも、所見でこれを止めるのは無理だな。絶対に足がついていかない。圧倒的な上手さ以外にも、作り上げられたフィジカルが違う。忘れそうになるが、相手は全国でエース級相手にバンバン1on1を仕掛けて、勝ち続けてきた猛者だからな。


「っっはぁぁぁぁ~」

「ん?」

「お前との勝負は、俺の負けだ」


え?いや、確かに薄々感じてはいたが、この先輩マジで律儀っていうかまじめだなぁ。でも、これで勝ちとか、絶対に嫌だ。なんでそうなったのか、若干の心当たりはあるけど。でも、やっぱり嫌。

だって、今のプレーで俺たちの格付けが済んでしまったのだから。


俺は、この先輩を止めることはできない。そして、もう二度と抜き去ることはできない。


「いや、これで勝ちとか、絶対に嫌です。でも、今日は関係ありません。最後まで、俺は俺のプレーを全力で貫きます」

「おう、それでいい。今のお前がするべきことは、俺に勝つことじゃねぇからな」

「ええ、試合に負けないように頑張ります」


最終、4Q。残り時間、3分。この正直、超絶微妙な段階で、今のゴールを機に、点差は10点に広がった。逆転するのは無理な可能性が高いが、まだ足搔ける。

まだ、飛べる。


「お前、誠也相手にここまで善戦するとは思ってなかったわ」

「そうですか」

「ああ、俺もいつかワンオンワンしてぇって思ったからな」


ディフェンスに戻っていく広く大きな背中を見つつ、俺は少しだけ悩んでいた「ここに来のは間違いだったか?」という疑問に答えが見えつつあった。いや、明確に見えたような気がする。

うん、そうだよ。俺は俺のバスケができればいいっていうのは変わらない。でも、やっぱりさ。どうせやるなら、ちげぇなって気がする。三軍にいるままだと無理だけど、この高校にはこんなすげぇ先輩がいるんだからなぁ。


「あぁ、やっぱり強い人との試合は楽しい」


ぐっと右腕に力を入れて握力を確認し、微妙に握力が落ちていることや体力の限界を感じつつも先輩の背中をゆっくりと追いかけた。


「おい、禅定」

「何ですか?」


ここにきて、初めてチームメイトが声をかけてくる。一体、何の用事だろうか?今まで、ずっとパスを回したりディフェンスをして協力こそしてくれたけど、基本的には触らぬ神に祟りなし状態だったが。


「左側を走れ、スペースは無理やり抉じ開けてやる」

「了解しました」


正直、めっちゃ助かる。右足に高負荷をかけられない状況で、右サイドで展開するのはキツかったんだ。ちょっとしたことだけど、基本的に俺がメインで戦っている以上、こうしてサポートしてもらえるのは助かる。

まぁ、タイミングが遅すぎるとか文句はあるけど、試合に勝てれば何でもいい。


「ヘイッ!」


ボールを受け取った瞬間、その変化は如実に表れた。一瞬にして視界に現れた黒い影。ソレを認知できたのは運としか言いようがなく、僅かに右腕を引き上体を捻ることで当たり所をずらした。


「うっ!」

「あ、悪いっ!」


いてぇ、いってぇぇぇーーー!!!マジで、ちょ、くそ!


範囲を考えずズラした上体は、見事に元々ボールがあった位置に近い所に移動した。そう、つまりボールを突き刺した一撃は俺の脇腹を正確にとらえたのである。

ピィィーーー!!大きな笛の音ともに、試合が中断された。「レフェリータイム!」という声とともに、一応ファウルをとることはできた。とはいえ、ジンジンと痛む横腹はそう簡単に治るものでもない。


「ちょ、先輩。指先、大丈夫ですか?」

「俺は鍛えてるからな、そう簡単に突き指するゴミみてぇな指でバスケができるかよ。いや、それよりも、お前のほうこそ腹大丈夫か?ボール吹き飛ばして、全力疾走する予定だったんだが………」


やっぱり、取れる確信があったのか。いや、当たり前だよなぁ。俺の動きをこれまで観察しつくしてたんだから、そろそろ攻略されてもおかしくない。片足の変なリズムも、独特な構えも、ちょっと傾いた重心も。全部、バレるどころか対策までできるだろうしな。


「ちょっと痛いですけど、痛みには慣れてますから」

「お前が言うと、ブラックジョークすぎるからやめてくれ」

「あははー、そうでした」


自分の右足を見て、乾いた笑いを誘うしかない。いや、本当にごめんなさい、だからそんなに罪悪感があるような表情しないで?むしろ、感謝してるのに。

もっと面白いバスケ、しましょうよ。


「罪悪感を感じているのであれば、ここからも全力でプレーしてください。全国区の選手たちと渡り合った時のように」

「はぁ?」

「流石に気が付きますよ、先輩が俺に合わせてくれたことくらいは」


俺がそう言って右足を指させば、ばつが悪そうに「っち、気づかれてたのか」と先輩は面白くなさそうに言う。だが、さすがに数十分プレーをしていて気が付かないはずがないだろうに。

先輩が、俺と同じ方向からしか抜かない、ディフェンスも左足での移動がメインで右足の切り返しやジャンプもなかった。特に横並びになると顕著で、俺に追いつくことはあっても、抜いて踏ん張ることは少なかった。もちろん、俺もブロックすることで、できるだけその状況を回避したこともあるが、どう考えても変なのだ。

動きも、実力も。

証拠に、さっき「俺の負け」と言っていたから確定でいいだろう。


「わかってる、済まなかった」

「いえ、その罰に関しては後から決めさせてください」

「はぁ?」

「え?だめですか?」

「はぁ、いいよ。俺が悪いからな、これに関しては。だが、まずはこの試合。勝たせて貰う」

「いえ、全力で足搔かせてもらいますよ」


コツン、と小さく拳を合わせた後、俺は城崎さんが持ってきたコールドスプレーやらシップやら。色々と断った後に、プレーを再開した。


そういえば、なんか妙に色っぽくなっていたが、城崎さん。熱でもあるのかな?島田先輩と稲荷崎先輩が真っ赤にしてて、ちょっとおもしろかった。特に、稲荷崎先輩とか、女慣れしてそうなのになぁ………

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