第10話 因縁立ち込める第二試合
第二試合、こちらはメンバーを総入れ替えして臨むことになった。そして、そんな中俺は、コートの真ん中で一人、歓喜の渦に飲み込まれていた。
またコートに立てるなんて、最高すぎるっ!
「おいおい、まじかよ。本当にこいつがPGで大丈夫なのか?」
「ま、まぁ。三年生の先輩方も手加減してくれるだろうさ」
「つか、こいつ本当にバスケの推薦で入学してきたのか?俺、禅定夏樹なんて選手、聞いたこともねぇぞ?しかも、PGならそこそこ有名でもおかしくないだろ」
「俺も知らねぇよ。でも、ちょうどいいだろ、アイツがいると練習サボれないし、花音ちゃんの視線だって独り占めしていやがるんだぜ?」
「確かに、ちょうどいいかもなぁ」
うん、周りが酷い評価を下し続けているけど、仕方ない。ポッと出のけが人雑魚プレイヤーが、ベンチ入り選手を抑えて出場しているし、何なら部のヒロインである城崎さんと仲がいいのだ。表面上は。
この嫌われよう、パスを回して連携する形の作戦は全部無理そうだな。
この試合で与えられたポジションはPGである。とはいえ、過激な運動は難しいし、怪我している足に負荷をかけた瞬間、義足が吹き飛んでいくのは知っている。できることは限られているが、リズムよく頑張ろう。
「よぉ、禅定」
「?」
「ちぃ、やっぱり覚えてねぇか。俺は、島田誠也。中学三年の夏、てめぇにボコボコにされた男だ」
「中学三年って、三年まですよね?俺、初戦敗退してますよ?」
厳つい表情と敵意を隠すことなく近づいてきたのは、4番をつけた先輩だった。どうやら因縁?にも似た何かがあるらしいが、よくわからない。
俺、三年前の試合は接戦こそ演じれたものの、負けた覚えしかない。
「はぁ?こっちはずっとお前に勝つために練習してきたんだよ。てめぇが覚えていないことに関してはどうでもいいが、俺からしたらこれはリベンジマッチだ」
「そうですか。じゃあ、俺も負けないように精いっぱい頑張りますね」
「ああ、お互い全力でやろうぜ。片足がないなんて、かんけぇねえ」
闘志を隠そうともしない先輩の後ろ姿に、ちょっとだけ見惚れそうになった。ああいう、まっすぐで男の勝負ができる人を、真にかっこいい人というのだろう。決して、見てくれだけじゃない、心の在り方がかっこいいのだ。
「あっ、そうだ。先輩っ!」
「あんだよ」
「俺、踏ん張ると義足が飛んでいくのでよけてください。あと、外れても気にしないでくださいねえ」
「ああ。って、それは無理だろっ!」
「でも、本気でやるんでしょ?」
俺が挑発的な笑みをうかべれば、楽しそうに「わかった」と頷いてくれる。疑心暗鬼の表情でこちらを見ている8番の先輩は放置しておくとして、仲間は本気で震え始めたなぁ。
勝とうとする意志の少ないメンバーとの試合ほど、大変なことはないが。悲しいことに、そんな試合は慣れている。大丈夫、ボール運びは満足にできないから、8秒ルールに初めは引っかかるかもしれないけど、ハーフライン超えることができれば勝負すること自体は可能だ。
「っとか考えてる間に、もう2点取られた」
開幕速攻、電光石火。読んで字のごとく、ボールを取り合ってルーズボールになることなく、速攻で一点取られた。マジで速いし、連携のレベルが高い。互いの信頼が厚い証拠だ。
「おい、お前を中心にって言われてるが、足は引っ張るなよ」
「了解、ボールありがとう」
愚痴を一言、仲間からボールを受け取ってドリブルを始める。相手は、ハーフコートのマンツーマンが基本だ。オールコートで当たられるときついが、ハーフなら確実にコート中央まで寄せられるっっ!!
「「「誠也っ!?」」」
「単独でコミットっ!?」
ハーフラインギリギリ。まるでここから先は自分の陣地で侵害させることは絶対にない、そういわせる気迫。思わず一歩引きそうになったが、絶えて真正面から先輩の圧を受けつつ、そのゾーンに入る。
「先輩っ、マジでディフェンス上手いっすね」
「てめぇに勝つために、三年間練習してきたからなぁ!!」
「光栄ですっ!」
前後左右、思いつく限り揺さぶってみるが効果なし。一歩も動くことなく、重心もずらすことはない。生半可な雑なフェイントは、むしろ自分の首を絞めつけて、無駄に終わるんだろうな。しかも、味方もなし。「ざまぁ」と言いたげな表情でこっちを見ているし、事情を知っているであろう三年の先輩は興味深そうに俺を注視している。
なるほど、この一対一は成立するのか。なら、本気でいかないと。
「行きますよ」
「なめんなっ!こいっ!」
ダンッ!ダダンッ!!
体育館中を支配する、ビリビリと痺れるようなドリブル音。懐かしい、全力でボールを突き出すと、こうして目にも止まらない速さでかつ、手に吸い付くような強力なドリブルをすることができる。
宣言通り、先輩のディフェンスゾーン内で俺は不用意に一歩を踏み出した。その一歩を見逃すはずもなく、島田先輩は容赦なくカットを狙って手を最短最速で、手が伸びる!
ただ、俺はその光景を冷静に判断する。角度とタイミング的にもう一回ドリブルができる。ドリブル後、左手に持ち替えてその横を通り過ぎるスペース、速度、タイミングはばっちりだ。
「「「「っ!」」」」
「ちっ!」
容易に抜き去って見せたが、先輩も即座に回り込んでくる。これで再び足止めを食らう形になったが、問題はない。
ウォーミングアップは十分なようだ。
「てめぇ、のんきに待ってるとか。ふざけんなよっ!」
「いや、何言ってるんですか先輩。ちゃんと、ハーフコートライン超えましたよ。時間、ギリギリでしたけど」
「知るかっ!でも、俺はまだ負けてねぇ!」
「ええ、お互いに存分に全力でやりあいましょ!」
試合は楽しい。普段の俺とは全く違う別の俺が姿を見せるし、そんな俺に体を任せて思う存分プレーするのが大好きだ。それに、今はなんだか調子がいい気がする。
そう、なんて言ったらいいのかな。全能感?万能感?なんでもいいけど、なんでもできるような気がする。
楽しい、楽しいからこそ、挑戦したい。久しぶりに、俺も楽しんでみたい。
試合を。
「ふぅ、ふっ!」
「くっ!」
互いの肩をぶつけつつ、ぎりぎりのラインを通過する。義足を使っているから、力を込めた一歩を踏めない。自分の想像しているラインよりも、体が数センチずれている。だけど、踏ん張れない接触じゃないし、置き去りにできないほどのミスじゃない。
「らぁぁっ!!」
「やぁっ!」
何とか食らいついてきた先輩をロールで回避して、フリー状態になる。一瞬だけゴールの位置を確認し、足元の3Pラインを見た。
いける!
「「「「「「はぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁ???」」」」」」
「まだだぁぁぁあ!!!!!」
俺は、無事な左足のみで踏み切ると真上に高くジャンプした。周囲の驚くような声が聞こえる、それに先輩の必死にすがってくる声も。でも、ごめん。
この勝負は、俺の勝ちだ。
着地に失敗して転びながらも、俺は自分のシュートがリングに吸い込まれていくのを確認した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます