第8話 練習試合1
青色のビブスを着た見方が、赤いビブスを着た三年生に食らいつく展開が続いた。三軍選手たちはなんとか食らいつこうと、運動量を駆使してガードを試みる。
一対一の展開になると、確実に抜かれてしまう。それを念頭に、抜かれることを前提で、ヘルプにタイミングよく入ることでペイントエリア内への侵入を防いでいた。とはいえ、それはガードラインを押し上げるだけではなく抜かれた瞬間にヘルプ、カバーに入る必要がある。文字通りディフェンスの時も休憩などすることはできず、常に走り続ける状況が続いていた。
「これは、きつい状況だな」
とはいえ、それを防ぐ手段はない。特に、なんか城崎さんに注目していた、8番のビブスを付けた先輩と、4番が止められない。8番の先輩はPFとして一級品といってもいいだろう。力で押し込むパワープレイもできるし、技量も高い。チームのエースとして十分活躍できるドリブルスキルと、フックシュートも使いこなす手先の器用さ。
試合前に自信満々な表情だったのもうなずける。
ただ、今回はチームに恵まれていない。それは、弱いという意味ではなく。むしろその逆だった。
「あれは、無理だな」
4番のSGは、どう頑張っても止められそうもない。身長が高いだけでシュートを止めることは困難だし、その確率もすごい。城崎さんの資料によれば、3Pはフリーならば8割近い成功率を誇るらしい。ただ、シュートを警戒して近寄ると、圧倒的敏捷性を利用したドリブルで置き去りにされてしまうだろう。
遠目に観察していても騙されてしまうようなシュートフェイク、そして0から一瞬でMAXまで加速する敏捷性。遠くから見ているから目で追えるし、何をしているのか理解できる。でも、近くにいたら一瞬で視界から消えてしまうように実感するだろう。
左右関係なく、斜めに潜り込むような切込み。初めの一歩をしっかりとディフェンスの足の近くに刷り込ませるから、ディフェンスは体をねじるか一歩引くかのワンアクションが必要になる。その一歩を踏み出している間に、あっという間に置き去りにされてしまうだろう。それこそ、三軍の選手の中には、回転して対応している人もいるから、絶対に止めることなんてできない。
冷静にそんな考察をしている間にも、またしても一点決められてしまった。
「ナイッシューー!いや、やっぱりお前は最強だよ」
「いい調子だなぁ!」
「ちっ!俺にも撃たせろよなぁ!!」
上手い、単純明快に上手い。
一歩で並び立ち、三歩目には確実に置き去りにするスピード。そのスピードを殺し、一瞬で左右に振ることができる足腰、崩れない上半身。一瞬でシュートモーションを完成させて、一切リングに触れることなく決めるシュート率。
何をとっても、完成されているといえる。なるほど、これがインターハイ優勝校の実力。そのエースともなれば、このレベルになるのか、すごいなぁ。
「って、感心してる場合じゃないなぁ。オフェンスーー!!一本!!」
ベンチの三軍選手に合わせて、掛け声をかけながらひたすらに応援する。ただ、それでも無情に差は開き続けていく。1Q終了時はかろうじて互角に見えていたが、それでも「24-16」と、8点ビハインド。集合して少し休憩を挟んで迎えた2Qでは、徹底的に4番と8番に回されたボールを前に、ただの一度も止めることができなかった。
オフェンスに関しても、徹底的にガードされた。当たり前だが、俺たちがどんな練習をしているのかも把握されているし、そもそも何が苦手なのかもばれている。その弱点を的確につくようなディフェンスを前に、攻めあぐね続けていた。
「もう少し、パスがうまければいいのに。というか、PGのパスセンスが本当に微妙だよなぁ。視野は広いのに決断が遅いし、見て体を向けて狙いを定めてパスって、中学でも通用しないでしょ。絶対にダメ、三テンポ遅い」
そうこうしている間に、再びのパスカット。
「あっ!」
「くそっ!戻れっ!!」
「さっさと戻れよ、遅いんだよっ!!」
「一人で持っていけるぞ~」
最早相手にもならない。3軍のメンバーが全力奪取するよりも、8番が、4番がドリブルして走ったほうが早い。時折ドリブルしている方が50m速く走れる猛者がいるが、確実にそのタイプだな。
「ナイスッ!」
「「うぇ~い!!」」
相手は得点を決めればハイタッチして喜ぶ余裕があるのに、こっちは死にそうな表情をしている。そもそも、1か月のブランクがあるとは言え基礎体力が違う。3Q終了時には、三軍のメンバーで元気が良い人材なんて誰もいなかった。すでに、点差は取り返しのつかない点数になり、「78-26」と、徹底的に抑え込まれてしまっている。
とはいえ、これは練習試合。ここからどう学び、何を生かし、何を身に着けるのか。ここからの成長が重要だし、先輩方からもらえるアドバイスを精一杯使って、この三軍を押し上げていけたら楽しいだろうなぁ。
はぁ、いいなぁ。
試合ができるの、単純にうらやましいわ。
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