第5話 課題と発表
シュート、パス、ドリブルといった基本的な事項を確認しながら、一個一個作業のように熟していった。結果、すべての動作である程度の制限がかかっているし、できない動きやこれまでの動作に対して、修正する必要が増えているのも確かだった。
片足がない、というのは翼を捥がれた鳥と変わらないことを、改めて自覚した。それと、体の構成が変わったんだから筋トレもまじめにやってみないとダメな気がする。何がダメって、筋力と筋持久力が足りない。
こうして、反省まみれの初日が終了した。
「うん、やっぱりそうだね。間違いなかった」
確信した笑みを浮かべて、楽しそうに微笑んでいる人がいるなど、露ほど知らずに。
入学してから一週間、何とか通学にも慣れ始め足の使い方も色々と実験ができた。順調に学校生活を送り、部活に勉強にと充実した毎日を満喫していた。
独りで。
いやまぁ、そうなるよね。バスケしてるとか言って、片足がない。プレーをするにしても、キツイ練習に関してはヌルっとしか参加しない。復学してきたばかりなのに、勉強に関してはしっかりと追従している。休み時間は一人で本を読みながら、時折足を気にしたように、伸びをしているだけ。
どうやって話しかければいいんだろうね?俺もわかんないよ。コミュ障にはそこらへんが難しいよ。
「じゃあ、今日の授業はここまでだ。お前ら、部活がんばれよ」
「うーっす!」
「おい、行こうぜっ!」
「やばいよ、急がないとっ!先輩に怒られちゃうっ」
授業が終わったとたんに、バタバタとせわしなく移動が始まる。個人的にすごいなと感心しているのが、コレだ。文化部運動部関係なく、全力で部活動に勤しんでいる。文化部の中には、運動部顔負けの熱量をもって部活をしているところも少なくはない。
高速で人が移動している中を動くと、転倒の危険が高くなるため俺は一通り人が消えてから移動する。その旨に関しては予め監督と部長には伝えてあり、ここ一週間ほど誰もいない教室で少しだけボーっとするのがルーティンになりつつあった。
「さて、そろそろ移動するかぁ~」
凝り固まった体をグッと伸ばして解しつつ、ゆっくりと足元に注意して移動する。念のために杖も持っているが、できるだけ使いたくない。上半身の筋肉バランスが崩れるだけじゃなくて、歩く練習にならないからだ。歩くことにも慣れてきたけど、いい加減思い切り走ってみたい。
ノラリクラリと着替えを済ませて運動用の義足を装着し、体育館の戸を開けるとムワァッとした熱気と共に、迫力満点の運動部の声が響き渡る。時折監督や部長の声が響き渡り、それに合わせて中にいるメンバーはテキパキと行動をしていく。
「あっ!来たねぇ。なら、まずはドリンク作って運んでもらってもいい?」
「了解です」
「その間に私はボール集めて監督に今後の指示をもらってくるねぇ」
「了解です」
ついて速攻で行うのは、マネージャー業務のサポート。ドリンクづくりだけではなく、プレイヤーの練習をサポートしたりボール拾いだけではなく、ボール出しも行う。
慣れた手つきでパパッとドリンクを作ったら、専用のボトルに詰めていく。粉タイプのスポーツドリンクと、麦茶を作る。後は、俺が飲む用の塩水も忘れない。
「いつもの場所に置いときました」
「わかった~。そしたら、君はそのまま監督の所に行って~。パス出しらしいよ」
「了解です」
ピシッと敬礼をして、俺は急いで監督が待つコート中央まで移動する。なんだろう、別れ際に城崎さんが見せた、楽しそうな笑みがちょっと気になる。この後、何をさせられるんだ、俺は。
「お、来たか。ちょうどいいから、夏樹。お前、ここからパス出しして4対3の4側で入れ。常に攻撃だから安心しろ」
「え?」
「守る側は失点したらペナルティで、コート3往復だからなぁ。もちろん、攻める側も得点できなければ、3往復だ。夏樹はゆっくりでいいから、6往復な。いい加減、その足に慣れてきたろ」
「えっと、ハイ。了解です」
テキパキと出された指示に従って、俺はコート中央から名も知らぬSGに向けてパスを出す。受け取ると同時に、一瞬だけゴールを確認して無理なことを悟ると、即座に下に待機しているCへワンバウンドパス。ピッ!と突き刺すように出されたパスを流れるように受け取ると、右足を引いて軽快なターンを決めたCはそのままリングを狙った。
ただ、これは守備陣が一歩も二歩も上手だった。サッとターンする事はできてたけど、相手もしっかりと追従していたのだ。これでは、リングを狙っても無理やりが過ぎる。
当たり前のようにノーマークだった俺は、ペイントエリア内に容易く侵入して、浅い角度でパスを貰うために、コートを確認しつつ移動。
「ヘイッ!」
「はぁ!?」
視界の隅に入りパスを呼ぶ。敵の意識を一瞬でも引くことができればと思っての行動だった。あのタイミングからパスに切り替えるのは、ちょっと難しいだろうと思っていたからだ。
「へぇ」
「ちっ!だからこいつ嫌なんだよ!」
予想に反して、パンッ!と乾いた音が自分の手のひらを中心に鳴る。驚きの声を出しつつ、即座にシュートモーションを完成させる。もちろん、今の俺はフリーなので外すことはそこまでない。
「させるかっ!」
「終わりっ!」
「ナイスディフェンス」
ジャンプをした瞬間に、即座に二枚の壁が築かれる。ゴール下に陣取っていた大きな子が連続ジャンプするだけではなく、横からも腕が一本伸びてきた。シュートを放てば絶対に防がれるのは、目に見えている結果だ。
まぁ、このまま打てばの話なんだけど。
「っ!……ナイスっ!」
「シュートっ!」
右後ろに移動してきていたSGにノールックでパスを出す。久しぶりのプレー中のパス、更にノールックだったから心配だったけど問題はなかったようだ。なんだろう、驚かれたような気がしたんだけど、そんな珍しいプレーだったか?
お手本のようにきれいなシュートフォームから放たれた3Pは、見事にリングに収まった。きれいだ。
「だあぁぁぁあ!!翻弄されたっ!」
「きれいなスリーだったなぁ。相変わらず、惚れ惚れするわ」
「なぁ。スパッて入るからな、負けてらんねぇわ」
「いや、その前だろ。ノールックでパス出してたぞ、あの義足!」
「お、俺も見てたっ!あいつ、一回も西島のほうを確認しなかったぞ」
「すっげぇ、出すほうも出すほうだが、取るほうもやべぇな」
「気が抜けねぇな、こりゃあ」
まるで試合会場ののような盛り上がりを見せる。野次馬根性があって立派だなぁなんて思うけど、見てる人はしっかりと見てるらしい。
なるほど、三軍といえど地方の中堅高校とは渡り合える程度の実力ってのは本当らしいな。これは、気を引き締めてかからないと、つらいな。
課題は多いし反省点もまだある。だが、今はこれからのプレーに集中していかないと。みんなの目つきが、変わった。
これはあれだ、俺を敵として認識してくれたって証拠だ。でも、俺も負けない。
ただ、現実とはいつだって無常で、俺は何度も負けて自分の弱さを自覚した。何度も負けた、ゆっくりだけど走った。疲れたけど、久しぶりの練習は本当に楽しくて、最高だった。
ビィィーーーー---!!
練習の終わりを告げるブザーが鳴り響く。選手たちはみんな、途切れ途切れの息を必死になって整えつつ、監督の周りに集合する。いつもなら集合して、即座に練習の反省点を述べてくれるのだが、どこか難しい表情をしたまま考え込んでいる。
なにか、問題があったのだろうか?
俺の心配をよそに、言いづらそうにしながら監督は口を開いた。
「えー、もう知っていると思うが明日は練習試合だ」
かろうじて、声は出なかった。というか、俺以外の皆はちゃんと知っていたようで、一人だけ息をのんで反応してしまった。ちょっと恥ずかしいけど、これはあれだ。
友達いない、俺が悪いってやつだ。
でも、試合かぁ。楽しみだな。
「相手は、夏で引退した三年生だ。もちろん一軍だからな?土曜日にわざわざ時間をとって、一日付き合ってくれるらしい。向こうも何人か人数集めてくるし、お前らも全力で当たるように。ただ、ケガだけは絶対にするなよ」
「「「ウスッ!!」」」
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