第3話 自己紹介と出会い

ピィッーーー!

集合!


監督とともに体育館へ足を踏み入れると、即座に三軍のまとめ役らしい人が笛を吹いて集合をかける。その号令に従って、俺と同じくらいの背丈の同年代の男女約40名がワラワラと円形に集合した。


その中心になれたようにいる先生はいいとして、俺は何とも居心地が悪い。ほら、「ああ、あいつだよな。事故ったやつ」「運河ねぇよなぁ」なんて、モロに聞こえてるんだよなぁ。というか、視線だけである程度意味が分かる。

どちらにせよ、目立つのは苦手だ。


「練習お疲れ、いい感じに集中できててよかったぞ。とはいえ、お前らのレベルで行くと、もうワンテンポ早く動き回ってもいいな。パス一つとっても、バウンドさせなくて良いところで、ワンバンさせるなぁ~」

「「「「「はいっ!」」」」」

「それと、こいつが例の新人だ。はい、自己紹介」


なんとも雑、それに唐突。もう少し丁寧な前振りがあるものだと思ってたけど、そんなことはないのね?


「初めまして、禅定夏樹です。一年で、ポジションはPGでした。御覧の通り、片足がまともに動かないので、サポートに徹することになると思いますが、よろしくお願いします」


自己紹介は苦手だ、何を言ったらいいのかわからないし、どう立ち振る舞うことが正解なのかもわからない。とはいえ、この場で重要なことは伝えた。

俺の自己紹介が終わると、微かにザワつく感じがするけど監督の手前ちゃんと前を向いて話を聞く姿勢を崩さない。


すごいなぁ、これが高校。中学だったら絶対に何人も声を出して騒いでるんだよなぁ。


「夏樹はこう言っているが、俺としては普通に入ってもらう予定だ。そのために、俺はこいつを引っ張ってきたしな」

「え?」

「なんでお前が驚くんだよ。まだ走れないから、本格的には無理だろうがな。筋トレとシュート錬、パス出し、ボール出し、ブロックはできるだろ?まぁ、当然だがマネージャーのサポートもしてもらうけどな。俺たち三軍は、一軍ほど万全の設備ではないし、サポート役もいないからな」

「りょ、了解です!」


いわれてみて、パッと見渡した限り確かにマネージャーは少ない。多分だけど、三人で回しているみたいだ。女性三人で、この人数のサポートは確かに厳しい。三軍は男女混合だから、頼みやすい場面も多いだろうけど。

一人当たり、10人以上面倒を見ないといけないことになるからなぁ。


「さて、さっそく練習を始めよう。夏樹は、花音に場所を聞いて着替えを済ませてこい……って、一人で着替えできるか?」


カノンって、たぶんマネージャーの一人かな?なんか、その人の名前が呼ばれた瞬間、メッチャ睨まれたんだけど。なに、有名人なの?

いや、監督も面白そうにしてないで、この視線の山をどうにかしてほしいのですが?


「ああ、はい。大丈夫ですよ、手間取りますけど着替えは一人でできるように訓練しているので。それに、今日はちゃんと下に着てます」

「なるほど、なら待ってるからなぁ。お前が戻り次第、シュート練習だ。じゃあ、お前らは引き続きパス連するから、コートの端に寄れぇえ!」

「「「「「「「ウス!」」」」」」」

「了解」

「それじゃあ、君は私についてきてねぇ?」

「了解です」


先導していくれる花音さん?について、俺も移動する。


「ごめん、じゃあ私ちょっと抜けるねぇ~」

「んー、早く戻ってきてねっ!」

「はーい」


花音さんは仲間に声をかけると、「じゃあいこっか」と言って俺のゆっくりとしたペースに合わせて歩き始めた。意外と近くにあるのかなと思っていたが、そんなことはなく即座に体育館を出て外履きに履き替える。そのまま、渡り廊下を通って第一体育館がある本校舎のほうへ、今来た道を戻っていくことに。


「なるほど、こっちにあったのか」

「そうなんだよねぇ~、ちょっと面倒だけどね。そうだっ、私まだ自己紹介してないよねぇ?私は、城崎花音です、同じ学年だからタメ口で大丈夫だよ?気軽に、花音って呼んでね」


その場でクルリッと回転し、ニッと笑って見せる。長い金髪が可憐に宙に舞い、日の光をキラキラと反射し、彼女の輝くような笑みも合わさって、まるで太陽のよう。パッチリと開き、きれいな二重瞼に小さくも柔らかそうな、ぷっくりとした健康的な唇。一目見ただけで、多くの人の目をひき、魅了しているんだろうなぁと分かる。

きっと、部活内にも沢山のファンがいるんだろうなと思いながら、努めて冷静に返事をする。


「ああ、了解しました。改めて、禅定です。よろしくお願いします」

「あははっ!かったいなぁ、もぅ!気軽に、名前で呼んでね?」

「了解です」


距離感が近すぎて、自分から積極的に距離を取らないと疲れるタイプだ。でも、城崎さんはそれを許してくれないみたいで、グッと顔を寄せると「花音だよ?」と念押ししてきた。

いや、近いから。ちょ、なんでそんなに近寄せるかな、顔。女の子特有の甘い匂いが鼻腔をくすぐり、慣れない匂いにちょっとクラっとする。

マジで、もうちょっと恥じらいというか、パーソナルスペースを意識してほしい。無理、本当近すぎ。


「あの、離れてもらっていい?」

「むぅ、もう少しドキドキするというか、反応してくれてもよくない?ちょっと傷ついたなぁ」

「いや、十分ドキドキしましたよ。なんで、早くロッカー案内してください」

「はいはーい」


悪戯が成功して嬉しいのか、楽しそうに笑うと再び俺を先導してくれる。警戒心をちゃんと抱きながら、恐る恐るその後ろをついていく。

くっそー、ちゃんと足が動けばさっきみたいな接近を許さないのになぁ。


そんなことを考えつつしばらく歩くと、バスケ部と書かれた部屋の前についた。なるほど、第一体育館に併設されているのか、部室棟。


「ここね。君は一番奥って聞いてるよ~」

「了解、ありがとう」

「じゃあ、私は先に戻っているから。ちゃんとサボらずに来るんだよ?」

「はーい」


サボるも何も、俺に何ができるのかは知らない。でも、この胸の高鳴りは何だろう。そう、はじめて玩具を手に入れた時のような高揚感。これからの未来に期待して、迷いや不安よりも先に、無条件で胸が膨らむ感覚。やばい、楽しみだ。

部活、楽しめるのかな。みんなの役に立てるだろうか、サポートできるだろうか。


俺、まだ………バスケ、できるんだな

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