4 鎧の衝突

夜の闇が迫る中、第1機甲師団は命令を受け、再編成を急いでいた。南部鉄道がドイツ空軍の爆撃で寸断され、道路には避難民の車列が続いていたため、移動は困難を極めた。エバンス将軍は予定を変更し、夜間に戦車を集結させ、夜明けと共に攻撃を開始する決意を固めた。彼の作戦は大胆だったが、成功するかどうかは誰にも分からなかった。


第3機甲旅団は、重戦車マチルダと巡航戦車を中心に構成されていた。これらの戦車は、優れた装甲を持ち、ドイツ軍の対戦車砲に対してもある程度の耐性を有していたが、それでも彼らの前には厳しい戦いが待っていた。特に、ドーバーを目指す道は、ドイツ軍の第6山岳師団がしっかりと防御を固めており、進軍は容易ではなかった。


戦車隊が移動を開始すると、街道には難民の列が続いていた。エバンス将軍は同時攻撃の計画を断念し、先に第3機甲旅団をドーバーへと送り込んだ。ドイツ軍の第22空挺師団は予期せぬ攻撃にパニックを起こし、撤退を開始した。しかし、イギリス軍の前進は短命だった。ドイツ軍の37mm対戦車砲と88mm高射砲が猛烈な砲火を浴びせかけ、イギリス軍の巡洋戦車部隊は一時停止を余儀なくされた。だが、左翼では突破口が開かれ、一部の巡洋戦車中隊がドーバーの見える位置まで到達した。しかし、ドイツ軍の第6山岳師団が急速に増援を送り込み、イギリス軍のさらなる進軍を阻止した。


同時に、第1戦車旅団もハイスとフォークストンへの攻撃を開始していた。この旅団は重戦車マチルダを主力とし、強力な装甲と火力で敵を圧倒する予定だった。しかし、前線に到達した部隊は、すぐにドイツ軍の88mm砲の厳しい砲火に遭遇し、多くの損害を被った。特にホーキンジ飛行場周辺では、敵の防御が堅固であり、突破は困難を極めた。イギリス軍の重戦車は装甲の厚さを誇ったが、それでもドイツ軍の砲火に耐えることはできず、やむを得ず撤退を余儀なくされた。


夜が更けると、第1機甲師団の損害は明らかになった。機械的故障と敵の攻撃により、彼らは戦力のほぼ50%を失っていた。この損失は、ダウディングの報告と合わせて、アイアンサイド将軍と英国政府に衝撃を与えた。航空支援の不足と、唯一の有効な装甲予備兵力が失われたことで、GHQラインへの撤退が避けられない状況となった。


この時、チャーチル首相は決断を下した。ドイツ軍の橋頭堡を弱体化させるためには、イギリス海軍が戦艦を含む全ての艦艇を投入し、海峡の戦いに全力を注ぐ必要があると感じた。同時に、ジブラルタルに駐留するH部隊にも緊急命令が発せられ、本国艦隊への増援としてイギリスに向けて直ちに出航するよう指示が下された。


戦局はますます緊迫し、両軍の運命が再び交錯しようとしていた。戦車と砲火が交錯する戦場で、誰もが次の一手に神経を尖らせていた。

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