3 海と空の衝突

イギリス海軍は、ドーバー海峡におけるドイツ軍の進撃を食い止めるため、15日の早朝、再び出撃を試みた。制空権が奪われつつある状況での出撃は、危険を伴うものであったが、他に選択肢はなかった。ノールの駆逐艦群は、数隻の軽艇を沈め、ドイツの護衛部隊を撃退するなど、期待以上の戦果を挙げた。しかし、海峡に潜む敵の潜水艦、そして絶え間なく降り注ぐ航空攻撃の中、イギリス艦隊は次第にその勢いを失っていった。


この戦いで、H49潜水艦はドイツ戦艦シュレージエンを撃沈するという偉業を成し遂げた。しかし、同時に、ドイツ軍の反撃は苛烈を極めた。ドイツ空軍の爆撃機が、イギリス艦隊に対して執拗な空爆を行い、特に巡洋艦マンチェスターと複数の駆逐艦がドイツ軍の機雷によって深刻な損害を受けた。沿岸砲の激しい砲火と共に、イギリス艦隊は次第に防戦一方となり、250トンもの弾薬をほぼ使い果たしたことで、ついには後退を余儀なくされた。


この状況を見て、ドイツ軍は一時的に海峡を封鎖したものの、砲弾の補給が限られていたため、長くは続けられなかった。ドイツ軍の海上封鎖が解除された瞬間、ドイツ軍の輸送船団は再び海峡を渡り始めた。15日早朝には、ドーバーに第9装甲師団の戦車が上陸し、新たな戦力が加わった。Ⅲ号戦車やIV号戦車が浜辺に姿を現し、イギリス軍を撃破していった。


しかし、ドイツ軍内部の雰囲気は決して安心できるものではなかった。シェークスピア断崖での大惨事、第20空挺連隊が直面した困難、そして海峡を暴れ回るイギリス海軍と続くイギリス空軍の反撃のニュースは、ヒトラーとレーダーに不安をもたらした。特に、ゲーリングは、戦況の悪化に伴い、その行動を躊躇し始めていた。


だが、そんな中でも冷静さを失わない人物がいた。ケッセルリンクとシュペルレは、これまでの戦況を的確に分析し、次の一手を練っていた。そして、ゲーリングが情報を遅らせている間に、ケッセルリンクは重大な情報を手に入れていた。それは、捕獲されたイギリスの戦闘機司令部の信号システムの図表であり、セクター・ステーションが果たす指揮統制の役割を明らかにするものであった。


この情報を基に、ケッセルリンクは15日の攻撃計画を変更した。ドイツ空軍は、海軍と陸軍への支援を一時的に犠牲にし、イギリスの飛行場への集中爆撃を行った。Ju 88爆撃機やDo 17爆撃機が波状攻撃を仕掛け、イギリス空軍の重要拠点である飛行場を次々と破壊していった。爆弾が滑走路に直撃し、ハリケーン戦闘機やスピットファイアが爆発炎上する様子は、まさに壊滅的であった。


その日の終わりには、イギリス空軍の指揮官ダウディングは、第10および第12グループに対し、第11グループが事実上無力化されたことを伝えざるを得なかった。彼は、イギリス空軍の全戦力を海峡の戦いに集中させるよう命じた。しかし、この命令は、戦力が著しく削がれた状態でのものであり、事実上、ドイツ空軍はついに制空権を握ったのである。


ケッセルリンクとシュペルレは、その夜の戦闘報告から、ついにドーバー海峡上空の制空権がドイツ軍の手に落ちたことを感じ取っていた。海と空での激しい衝突が繰り広げられたこの日、ドイツ軍はその優位性をさらに確固たるものとした。

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