第四章 英国本土決戦

1 Sデー

ヒトラーがカレー行きの特別列車に乗り込んだとき、ドイツ軍の士気は最高潮に達していた。彼の命令により、Sデーが翌日に決定され、ドイツ軍は数ヶ月にわたる準備の成果をついに発揮する時が来た。イギリスの海岸では、砲声が絶えず鳴り響き、ドーバー海峡の暗い水面には侵攻艦隊が姿を現していた。ケッセルリンクは、侵攻前にイギリス空軍を壊滅させるため、残されたすべての力を注ぎ込んでいた。彼の指示に従い、Ju-87スツーカ急降下爆撃機が轟音を立てながらイギリスの鉄道網と道路を狙い、さらなる混乱を引き起こしていた。


ドイツ軍の長距離砲がイギリス側の砲台を沈黙させるために火を噴き、その激しい砲撃により、海峡を守るイギリス軍の砲台は次々と黙らされていった。しかし、イギリス軍も無抵抗ではなかった。特に、ドーバーにある旧式の9.2インチ砲は、ドイツ軍の進行を阻む最後の砦となっていた。ドーバーの砲台から発射された砲弾は、ドイツの旧式戦艦「シュレジエン」と「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン」に命中し、大きな損害を与えた。ドイツの護衛駆逐艦が接近支援を試みたが、イギリス軍の魚雷と大砲の攻撃により混乱し、その効果は限定的だった。


その一方で、ドイツ軍は海上からの攻撃を強化していた。シュペルレ指揮下の第3航空艦隊は、プリマスとポーツマスを中心にイギリス海軍を封じ込めるための作戦を展開していた。Ju-88とHe-111爆撃機が次々と発進し、イギリス軍の艦船に対して精密爆撃を行った。これにより、イギリス海軍の行動範囲は大きく制約され、ドイツ軍の水陸両用作戦が順調に進む道を開いた。


やがて、夜が明ける頃、ドイツ軍のDFS-230グライダーがイギリスの要所に着陸し始めた。ラングドン、シタデル、エイクリフ、リデン・スパウトなどの戦略的地点に配置されたグライダー部隊は、激しい戦闘の末にこれらの地点を制圧していった。シタデルだけは激しい抵抗を見せたが、ドイツ軍の圧倒的な火力と兵力の前に、次第に劣勢に追い込まれていった。


その頃、海岸に上陸を果たしたフェルディナント・シェルナー将軍の第6山岳師団の第141山岳連隊は、困難な状況に直面していた。彼らが選んだ上陸地点は、ドーバーの西に位置するシェークスピア断崖だったが、この場所はイギリス軍の激しい砲火と小火器の射撃にさらされていた。多くの兵士が海岸に到達する前に倒れ、戦線は混乱に陥った。しかし、シェルナー将軍はその場を見捨てることなく、兵士たちを鼓舞して前進を続けさせた。


一方で、第6山岳師団の第143山岳連隊はリデン・スパウトの下に上陸し、すでに制圧されていた崖の上に立つことができた。ここで彼らは迅速に足場を確保し、ドイツ軍の進撃を支援する拠点を築き上げた。わずか3時間で、防御可能な橋頭堡が形成され、第19空挺連隊の後方からの攻撃により、シタデルも最終的に制圧された。


その間、ハイス近郊の海岸では、ハーバート・ロック将軍指揮下の第17歩兵師団が上陸を開始していた。彼らはイギリス軍の砲火にさらされながらも、サンドゲートとハイスの間の海岸線に確固たる拠点を築いていった。新たに開発されたPzKwIII潜水戦車が登場し、戦線を押し広げるために前進を開始した。


午前4時50分、これらの戦車10両が歩兵とともに進撃を開始し、4,000メートルの前線に沿って内陸へと進んでいった。彼らが進む先には、旧王立軍事基地が広がっており、その防御線を突破することで、ドイツ軍はさらなる前進を目指していた。


ドイツ軍の進撃は順調に見えたが、イギリス軍の反撃もまた苛烈さを増していた。戦場の至るところで銃声と爆発音が響き渡り、空を飛ぶドイツ軍の爆撃機と戦闘機が、その全力を尽くしてイギリス軍を抑え込もうとしていた。海峡で繰り広げられる戦闘は、まさに激闘そのものであり、イギリス軍もまた最後まで抵抗を続ける覚悟を決めていた。

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