4 英国海軍
英国海軍は、まだ経験したことのない空襲の現実に直面しつつあった。特にドーバー海峡において、昼間の爆撃は致命的な結果を招く可能性があり、提督たちはその危険性を強く認識し始めていた。海軍本部では、チャールズ・フォーブス提督が指揮を執り、国土防衛のための最終的な準備が進められていた。しかし、彼の心中には不安が渦巻いていた。イギリス国民が伝統的な防壁と信じている海軍が、ドイツの空爆に耐えられるかどうか、彼には確信が持てなかったのである。
フォーブス提督は、ドイツ軍が上陸を試みる場合、その作戦が夜間に行われる可能性が高いと考えていた。ドイツの戦略的な思惑を理解する限り、日中の海上での対決を避け、夜の暗闇に紛れて上陸を図ることが最も合理的だと推測していた。そこで、フォーブス提督は駆逐艦を前線に配置し、侵攻艦隊を迎撃する準備を整えた。彼の指揮下にある駆逐艦は、夜間の海戦において、その機動力と火力を最大限に発揮することが求められていた。
スカパ・フローに配備された戦艦と巡洋戦艦、航空母艦、巡洋艦、駆逐艦の大部隊は、イギリスの最後の防衛線として機能するはずだった。この部隊には、戦艦「リヴェンジ」と「ラミリーズ」、巡洋戦艦「レパルス」と「レナウン」、航空母艦「アーク・ロイヤル」などが含まれていた。これらの艦艇は、それぞれが強力な砲火力を持ち、海峡を渡ってくるドイツ艦隊を迎え撃つ準備が整っていた。
しかし、フォーブス提督は、その力を過信することなく、ドイツ軍の動きを慎重に監視していた。彼の懸念は、ドイツ空軍の制空権がイギリス海軍の行動を大きく制約することだった。特に、戦艦や巡洋戦艦がドーバー海峡での戦闘に参加する場合、敵の急降下爆撃機「ユンカース Ju 87 スツーカ」の攻撃に晒されるリスクが非常に高かった。これらの艦艇の大半が高角砲を装備していない現状では、空からの攻撃に対して無防備であり、これが海軍全体の脆弱性を生んでいた。
また、東海岸と南海岸に配備された1,100隻の軽武装のトロール船と小型船舶は、船団護衛と接近する敵の警戒任務を担っていたが、その戦力は非常に限られていた。これらの船舶は、敵艦隊の早期発見と警報の役割を果たすことが期待されていたが、ドイツの上陸作戦に対抗できるかどうかは不透明だった。
フォーブス提督は、ドイツ軍の侵攻が確実なものとなれば、夜間に駆逐艦が侵攻艦隊を迎撃し、できる限りの損害を与えることができるよう指示を出した。しかし、彼はその作戦が成功するかどうかについての不安を隠せなかった。彼の心中には、ドイツ軍の巡洋戦艦が海に出た場合、どう対応すべきかという難題が常に付きまとっていた。もし、ドイツ軍の巡洋戦艦が海に出て、スカパ・フローから離れたところに展開した場合、フォーブスはウォッシュの南に戦艦と巡洋戦艦を派遣することを考えていたが、それもまたリスクの高い決断だった。
フォーブス提督の心中をさらに重くしたのは、イギリス艦隊が高角砲を十分に装備していないという事実だった。もし敵の爆撃機が襲来すれば、艦艇が受ける被害は甚大になる可能性があった。特に、巡洋艦や駆逐艦が敵の航空攻撃に耐えきれるかどうかは極めて疑わしかった。彼は、可能な限り早期警報を受け取り、戦闘機の援護の下で巡洋艦と駆逐艦の強力な戦力を編成することで、敵を殲滅する作戦を立てていた。しかし、その実現には不確実な要素が多すぎた。
イギリス海軍が直面していたのは、未知の脅威に対する準備が整っていない現実であり、フォーブス提督はそのことを痛感していた。彼の指揮下にある艦艇が、果たしてドイツ軍の猛攻を阻止できるのか、それともその防壁が破られるのか、彼は予測することができなかった。
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