第二章 両軍の状況

1 力のバランス

アイフェルのフェルゼンネストでの緊迫した会議から数週間が経過し、ドイツの軍事計画は着実に進行していた。 OKWの策定した侵攻計画は、イギリスに対する大規模な攻撃を想定し、ドーバー海峡を越えて南東イングランドへと迫るというものであった。 ヒトラーの命令に従い、ドイツ軍は着実にその戦力を整えていった。


しかし、イギリス海軍がいかに脅威的であるかは、誰もが知っていることだった。 ノルウェー沖での損失とフランスからの撤退で打撃を受けたとはいえ、依然としてイギリス艦隊は地中海での戦闘に加え、アイスランドやスカパ・フロー、南海岸の港に分散していた。 その中でも、4隻の戦艦や2隻の巡洋戦艦、13隻の巡洋艦、80隻の駆逐艦、2隻の航空母艦が控えていた。


一方、ドイツ海軍が集められた戦力は、比較するとあまりにも貧弱だった。 巡洋戦艦「シャルンホルスト」と「グナイゼナウ」、旧式の第一次世界大戦時の戦艦2隻、重巡洋艦1隻、軽巡洋艦3隻、そしてわずか6隻の駆逐艦であった。 レーダー提督は、この限られた戦力を無駄にしないよう、慎重に運用する必要があった。 彼はノルウェーからの撤退船団に対する巡洋戦艦による襲撃計画を取り消し、その戦力を温存する決断をした。


その不足を補うべく、ドイツは空の力に頼ろうとしていた。ドイツ空軍は、フランスでの消耗にもかかわらず、依然として強力な戦力を保持していた。Bf-109戦闘機約700機、双発のBf-110長距離戦闘機250機、そしてHe-111、Ju-88、Do-17中型爆撃機1100機、および偵察機出撃準備を整えていた。これらは、アルベルト・ケッセルリンク将軍率いる第2航空艦隊、フーゴ・シュペルレ 将軍率いる第3航空艦隊によって南イングランドへの攻撃が計画されていた。さらに、ノルウェーからはハンス・シュトゥムプフ将軍率いる第5航空艦隊が北東部の攻撃に備えていた。


しかし、これらに対抗するイギリス空軍は、スピットファイアとハリケーン戦闘機400機を擁していたものの、その数は少なく、ドイツ空軍の猛攻を支えるには十分ではなかった。AVマーシャル・キース・パークが指揮する第11グループは、南東イングランドとドーバー海峡の防衛を担っていたが、増産された戦闘機も戦力としては未熟なパイロットたちが操縦することが多く、戦力バランスは依然としてドイツ側に有利であった。


しかし、イギリス空軍が自国の領空で戦うことができるという地の利は、唯一の希望の光だった。彼らは最新のレーダー技術と無線指揮統制システムによって、敵の動きを逐一把握し、その対策を練ることが可能だった。この点において、彼らはドイツ空軍に対して唯一の優位性を持っていた。


イギリス陸軍の状況はさらに深刻だった。フランスでの壊滅的な敗北の結果、兵士たちの士気は低く、武器と弾薬の不足は深刻だった。野砲はわずか760門、対戦車砲は160門、中戦車と重戦車は200台にも満たず、さらに最新式の小火器や自動車も不足していた。このような状況下で、アイアンサイド将軍は防衛戦略を取るしかないと考えたが、それでも敵を冬の荒れた天候になるまで食い止めることは容易ではなかった。


エドマンド・アイアンサイド将軍は、戦争の行方を決めるのは、ドイツ軍の圧倒的な攻勢と、それに対抗するイギリス軍の防衛意志との戦いであると感じていた。チャーチル首相との会話で彼は、「陸軍は攻撃に出る訓練を受けていない」と語り、機動力も装甲もない状態での防衛戦略がどれほど困難であるかを痛感していた。

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