見世物パンダ
教室に入ると、こちらを一斉に見つめるクラスメイトが目に入ってきた。
赤髪で粗野な感じがする男子生徒が声をかけてくる。
「お前、記憶ないって先生に聞いたぞ。何か覚えてることないのかよ?」
あいさつも無く、いきなり"お前”呼びする見知らぬ男子生徒に思わずムッとした。覚えも何も不可抗力で異世界に転移してしまった自分としては記憶自体が無い。堂々と記憶が無いと答えておいてやろうか。
「覚えていません。あなたの名前も知りません」
「何だと......!オレの名前も思い出せないのによく学園に来れたもんだぜ!」
「セイリーン、気にしちゃだめよ。あの人、オレ様で無神経なとこがあるから」
「うん、ありがとう」
赤髪の男子生徒をニラみながら小声でレントが励ましてくれる。
自分の席だという場所に案内してもらって席につくと、まわりにいた女子生徒達も私に好奇な目を向けながらドンドン声をかけてきた。
「クラスメイトの顔も分からないのではコミュニケーションをとるのが難しいのではありませんの?」
「勉強の知識が抜けてしまっては登校しても勉強についていけないでしょうに」
「元の生活に馴染むまで学校は無理なさらずお休みなったらいいのよ」
丁寧な言葉遣いだけど、何か悪意を感じる。どこの世界でも気に食わないヤツはいるものだ。まともに返事をする気にもならず適当に返事をしてやり過ごすことにした。
しばらくすると、壮年の男性教師が教室にやって来て朝の会が始まる。
「昨日、皆に話して伝えた通り、フォルテ・セイリーンは事故によって今のところ記憶が無い。記憶が戻るように皆で協力してあげるように」
端的に伝えると、本日の伝達事項などを伝えてさっさと教室を出て行ってしまった。クラスメイトに"協力してあげるように”と言った割には、私の方を見もしないで行ってしまうのは何とも心もとない。ああいう性格なのだろうか。
「あの先生、今日もやる気ないわね。学年でもトップの成績の生徒が通学して来たって言うのに。もうすぐ退職だからどーでもいいのね」
そういうことか。ホントどこの世界でも適当な人というのはいるもんだ。うちの学校にもいたなーなんて思う。でも、お給料もらっているんだしちゃんと仕事して欲しい。
しばらくフォローするために横の席にしてもらったというレントに、授業で使うテキストや資料について説明をしてもらいながら授業の準備をした。
1時間目はさっそく魔法の知識授業だったが、予習してきたのもあって張り切って授業に臨めた。魔法知識の勉強は屋敷でお兄様に重点的にレクチャーしてもらったので少し自信があったのだ。
教室に入ってきた魔法知識の先生は、女性で長年指導を行っているというベテラン教師だという。かぎ鼻でいかにも“魔女”という感じの方だ。だが、見た目に反してとても穏やかで分かりやすかった。事前に予習していたこともあり、問題なく受講できて嬉しくなる。
だが、魔法実践の授業は実践練習不足で全く皆についていくことが出来なかった。魔法の基礎であると聞いていた“浮遊”や“移動”なんてレベルよりはるかに難しい魔法実践で、魔法を使いこなしているクラスメイトに劣等感を抱いてしまった。
想像するよりもそれぞれの得意とする魔法属性に従った魔法を展開しており、より高いレベルを目指した授業だったのだ。
(何でこんな世界に来ちゃったのよ......全然ついていけないし泣きそう......)
思わず涙目になりそうになっていると、無遠慮な声が聞こえた。
「お前、全然ダメじゃん!無理して参加しなくていいんじゃね??」
また赤髪の男子生徒である。まわりの生徒もこちらを見て、何となく失笑している雰囲気......すごくイヤな感じだ。
「アンス!余計なことをいうものではない!」
変な空気になったのを察した魔法実践の男性教師が、大きな声でアンスという赤髪の男子生徒を叱ってくれた。ありがたい。が、悔しい。
(あんの赤髪め!言いたいこと言いやがってぇ。絶対にこの恨みはらしてやるからね!)
元来、聖来は負けず嫌いな性格なので、受けた屈辱は晴らしてやるぞと決意する。
(帰ったらお兄様に特訓してもらわなきゃ!ついでに優しく慰めてもらおうっと!)
ここのところ、イケメンのスワロウお兄様との勉強は聖来の楽しみの1つとなっていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます