◆第二章 たじたじな学園生活編

学園に登校するのは冷や汗もの

屋敷での基礎学習を終え、ついに学園に復帰することになった。


「おはようございます、お嬢様。よく眠れましたか?」


カーテンを開けながらオランジェが声をかける。ほとんど寝られなかった私は、目もうつろ。


「緊張してあまり眠れなかったわ」

「あら、お嬢様らしくもないですわね?性格も少しお変わりましたかしら。以前は、寝つきも良くてあまり緊張されるタイプではなかったと思いますけれど」

「ガサツなタイプってこと?」

「そういうことではなく、元気で好奇心旺盛ということですわ」

「好奇心旺盛で魔法やピアノが得意な女の子ってとこかしら?」

「そうですね。ピアノは今の方がお上手ですね」


性格が違うと言われてドキッとしたがそれは致し方ない。中身は別人なのだから。記憶を失って戸惑っている時期だから家族からも不審には思われていないけれど、このままだとセイリーンと自分が入れ替わったことでマズいことになるかもしれない。早く元の世界に戻る方法について調べていかねば!と気合が入ったところでベッドから飛び起きた。


「今日もお世話よろしくね!」


未知なる学園生活に向けてナゾの気合を入れた声掛けをすると


「お嬢様らしさが戻ってきましたわね」


とオランジェが言ってくれる。セイリーンって名前はキレイなのにちょっとヤンチャなキャラだったのだろうか。セイリーンの元の性格も知りたいなーと思いつつ通園に向けて準備をすることにした。


朝食が済むと小さい頃からの友人だというレント嬢が迎えに来る時間になった。通園カバンを持って玄関ホールでソワソワして呼び鈴が鳴るのを待った。呼び鈴が鳴らされオランジェが応対すると、レント嬢と思われる少女が駆け寄ってきてくれる。レモンイエローの鮮やかな髪の色が目に眩しい。


「セイリーン、大丈夫だった?おじ様から記憶が一時的に抜けているとお聞きしたのだけど」

「レント嬢ね。ごめんなさい、私はいろいろと覚えていなくて。学園生活も心配で」


レント嬢のダークグリーンの瞳が切なさそうに揺れた。


「大変だったわね。ゆっくりと取り戻していけばいいわ。クラスも一緒だから力になれると思うし」

「同じクラスなの?味方がいるのは嬉しいわ」


ニコニコと微笑むレント嬢は事前情報通り、穏やかそうな性格そうだ。良かったと胸をなでおろす。レント嬢が乗ってきた馬車に一緒に乗って学園まで色々なことについて話をする。


「記憶が無いってどのくらい覚えてないの?」

「全く覚えていないの。言葉は話せて文字も読めるのだけど。後はピアノが弾けるくらいかな…」

「基本的な動きは忘れていないということなのかしら。魔法は使う感覚が戻れば不自由なく使えるのかしらね?」

「まだ学園に通うほどのレベルまで追いついていなくて。今日もこうして学園に行くのが心配で仕方ないの」

「おじさまは、授業日数のことを気にされているんだと思うわ。魔法学院って必修単位の数が多くて厳しいから、休みが長くなると留年してしまうのも珍しくないし。留年してしまうと就職とか婚活とかにも影響してきちゃうのよ」

「就職はともかく婚活に?」

「そうそう、学園を卒業したら大体は魔法学院出身を活かした職業に就くか、魔法力を確保したい家の方と結婚するのも珍しくないのよ。そういえば、セイリーンは一応、婚約者いたわよね?」

「え、私に婚約者いるの??」


婚約者がいる!?衝撃的な言葉がレントから飛び出してきた。婚約者ってアレだよね。結婚する人。


「あ......これは負担にならないように黙っておくんだったっけ......」

「一応の婚約者だから。詳しくは帰宅したらおじさまに聞いてみて」

「すごい気になるんだけど。記憶も無いのに婚約者がいるとか」

「私があまり話すのは良くないのよね」


レントは慌てていてこれ以上は話すのはマズイと言う。学園に初めて通園するこの瞬間に何て暴露をしてくれているんだ。元の世界での16歳はまだ、婚約者なんて考えられない年齢なんだが。


「そうなんだ......帰ったらお父様に聞いてみる」

「ごめんね!学園復帰初日にこんなこと言って」


かなり申し訳なさそうにしているので、一旦この話題は流すことにした。


「えーっと、それでね…!今日は魔法Aと魔法B・エクササイズ・数学・化学の授業があるの」

「魔法Aと魔法Bの違いはなに?」

「魔法Aは知識、魔法Bは実践授業ね」

「レントさんがいるから心強いな」

「レントさんなんて気持ち悪いわ。いつもレントって呼んでたし、私もセイリーンって呼んでいるじゃない」

「レ......レント、いきなり呼び捨てなんて恥ずかしい」


ワイワイ話しているうちに前方に学園の大きな門が見えてきた。門の奥にはレンガづくりの歴史ある建物が見える。門をくぐると馬車寄せがあり、レガート家の従者が手を引いて馬車から降ろしてくれた。


まわりを見ると、同じように馬車から降りて来る男の子や女の子がたくさんいる。レントと共に明かりとりの天井窓がある廊下を歩いて行くと、教室が並ぶエリアが見えてきた。深呼吸しながら教室に足を踏み入れる。すると、登校してきていたクラスメイトがこちらを一斉に振り返った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る