図書室を偵察する

部屋に戻ると、まだ興奮した様子のオランジェが話しかけてきた。


「お嬢様!あのような素晴らしいピアノスキルを天より戴いたのです。勉学も"為せば成る”ですわ。お昼の食事まではまだ時間もたっぷりあります。抜けてしまった知識を取り戻していきましょう!」


やる気に満ちたオランジェはなかなか博学でマナーから一般教養まで一通り指導できるらしい。もともと官僚一族であるフォルテ伯爵家では、使用人も高い知識を持つべく定期的に勉強会も開かれているとか。


「では、そろそろお昼ですし休憩にいたしましょう。お嬢様の理解は早いので記憶を失っていても問題ないくらいですわ。文字の読み書きの知識もそのままで安心しました」


そうなのだ。学んでみると驚くことに、こちらの世界の文字の読み書きは問題なくできたのだ。いわゆるチート能力というやつだろうか?いまいち、こちらの世界が物語の世界なのかゲームの世界なのかは分からないが、生活するにあたって文字が分かるかどうかはかなり重要だったので助かった。


文字は分ったので、こちらの世界での基礎知識やマナーを、頭をフル回転させて頭に叩き込む。ノートには覚えるべきメモ書きですぐにいっぱいになった。聞くところによると屋敷には図書室もあるとのことなので、昼食後に図書室に行ってみることにした。


図書室は元の世界の教室2つ分の広さくらいがあり、落ち着いた雰囲気のインテリアで統一されている。ソファーやテーブルも置かれ、リラックスして本を読める環境だ。


(魔法についてしらべなくちゃ。きっとこの世界に来たのも魔法が関係しているはず)


「オランジェ、魔法の本を探したいのだけどどこにあるかしら?」

「どのような分野でしょう?」

「えーと、召喚とか魔法陣とかかしら」


私の言葉を聞いたオランジェの眉間にシワがよる。


「お嬢様、召喚魔法については国の定める魔法規制に触れるものです。もし、召喚魔法を使っている現場を見つかったら捕まってもおかしくはありませんわ」


「そ、そうなの?」


オランジェによると、この身体の元の持ち主は魔法が好きでしょっちゅう魔法実験を学び実践していたのだとか。だとしたら、私と本来のセイリーンの入れ替わり?は召喚魔法の類である可能性が否めない。


私は死んでこちらの世界に来たわけではないし、中身が入れ替わるような魔法をセイリーンが行ったのではないか?もし入れ替わっているならば、セイリーンが私の元いた世界でどう暮らしているのか不安だ。なんせ貴族だし、身の回りのことなんてできないだろう。


「とりあえず、お嬢様は魔法について一通り目を通しておくと心配ないかと思います。魔法に関する書物を運んで参りますね」


それからお茶休憩を挟みながら魔法関連の知識を夕食の時刻間際まで学んでいた。気づけば外は暗く、カーテンをオランジェが閉めている。夕食は夜7時だそうで、これも元の世界とはそう変わらない。


初めての食事で心配していた食事マナーも、高校に入った時にテーブルマナー講習があったので何とかなった。


(学校に感謝。元の世界はどうなっているかな。戻りたいな)


気を引き締めないとすぐに涙が出そうになる。パパ&ママ&弟にも会いたいし、普通の生活に戻りたい。元の世界に戻るためにもこちらの世界に順応しながら元の世界に戻るための手がかりを探していかねばならない。


(魔法の知識については一通り目を通せた。後は実践ね)


気合を入れ直していると、図書室の入り口からお兄様の声がした。


「セイリーン、今日はどうだった?」


「魔法についての資料や本を読んでいました」

「魔法か。セイリーンが倒れた時に魔法実験を行っていたのは覚えているか?」

「いいえ、まったく覚えていません。オランジェから先ほど聞いて驚きました」

「やっとオレも仕事に一息つけそうだから魔法の実践に付き合えそうだ。インプットしたら次はアウトプットだな」


(わあ、勉強と一緒。魔法も勤勉さがモノを言うのね。)


「ところで、お兄様の働く魔法課というのは、エリートしか入れないのですか?」

「そうだ。試験の倍率も高いぞ」

「私もいずれ入るつもりでいたのでしょうか?」

「そうだ。幼い頃から魔法について知りたがってオレについて回っては魔法を教えてほしいと頼んできたものだ。でも、最近では全く寄り付かなくなって......新しい魔法開発でもしていたのかもしれないな。やたらと資料を読み漁ってた」


(独自の魔法開発?やはりセイリーンが何かの魔法を試したという可能性が濃厚になった。あのおばあちゃんはセイリーンの魔法によるものだったのかもしれない)


「セイリーン?どうした?また無理していないか?」


急にだまりこくった私をお兄様のエメラルドグリーンの瞳が私をのぞき込んでいる。


「あの、魔法についてご指導よろしくお願い致します!!」


私の勢いに驚いていたお兄様であったが、懐かしそうに眼を細めうなずいてくれた。


「なつかしいな......もちろんいいさ。夕食後にさっそく始めよう!」


夕食後は、お兄様に魔法の基礎から実践練習をして1日が過ぎたのだった。

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