ピアノで褒められて調子に乗る
朝食が済むと、ピアノが置かれた部屋にオランジェが連れて行ってくれた。
入口から一段低くなった広い部屋には大きく開口が取られた窓が並んでおり、窓際に置かれたグランドピアノの下には深紅の絨毯が敷かれている。見た目的にちょっとした舞台のようだ。さわやかな朝日が差し込み、ピアノを美しく照らしている。ピアノを弾いたらさぞ気持ちよさそうだ。
ピアノのフタを開けると、元の世界にあるピアノとまったく同じ構造でつくられているのが分かる。ピアノ好きな自分にとってピアノが弾けるのは幸いだ。オランジェがさあどうぞと言わんばかりにワクワクした視線を送ってくる。
ゆっくりとしたワルツから弾いてみると、ピアノの美しい音に癒される。前方の椅子に座っているオランジェが目を見開いてキラキラした表情で聴き入ってくれているのが見えた。そんな反応をされてしまったら、一介のピアニストとしては張り切ってしまうではないか。
だんだんとテンションが上がってしまい、この世界の文化で根付いてはいないであろうアップテンポのポップスも調子に乗って弾いてしまった。
(ああ〜なんていい気持ちなの〜!オランジェが興奮してくれているのが分かるわ~!)
ますます調子づいた私はレパートリー曲をミックスして演奏していく。終盤は盛り上げてエモく決めなきゃ!とナゾの使命感に燃えて身体を揺らしながら渾身のピアノ演奏を終えると、突然拍手が沸き起こった。
驚いてまわりを見回すと、なんとオランジェだけでなく家族やら使用人らがそろって盛大な拍手を送っているではないか!!
「おお、これはどういうことだ!!もともとピアノが上手だったが、段違いにレベルアップしているじゃないか!!」
お父様が大声で叫び、お母さまとお兄様も目をキラキラさせて本気で感動してくれている。私は小学生の頃にピアノコンテストで入賞経験があることからピアノは平均以上に上手である自信があったが、中学受験を境にピアノを辞めてしまっていたので、久々の喝采は気持ち良かった。
コンテスト出場時には毎日のピアノ練習が負担になり、友達と遊びたいなーと悩んでいたがこうも賞賛してもらえると、ピアノに打ち込んだ時期は決してムダじゃなかったんだなあと、感じた。
「セイリーンは、天より “ギフト”を戴いたのだろう!倒れたのはそのショックであったのではないだろうか」
音楽好きらしいお父様は興奮したまま大声で見解を述べている。真実はともかく彼らにとっては聴いたこともないポップスなどを弾いてしまった手前、すんなり納得してもらえるならばありがたい。
(それにしても“ギフト”って天から授かる特殊スキルのことみたいね。この世界じゃあ珍しいことじゃないのかしら?)
「"ギフト”なのでしょうか。何となく指がいつもより軽く感じるかもしれません」
「そうにちがいない!あんな聴いたこともないメロディや独特なリズムは神の与えたものとしか思えない」
お父様の言葉にお母様やお兄様、使用人たちも疑うことなく納得してしまっている。とりあえずは好きなピアノもいつも通り弾けるしOKということにしておいた。
ニコニコ顔の家族が私を取り巻き、賞賛していると、使用人の1人が城に登城する時刻であると伝えに来た。お父様とお兄様が慌てて玄関ホールに向かう様子から、どうやら時間ギリギリらしい。
こちらの世界でも自分の得意分野が活かされたのがとても嬉しい。満足感に浸りながら自室に引き上げたのだった。
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