素晴らしすぎる品の良い朝食会

あくる日、人の気配で目が覚めた。


「お嬢様、おはようございます。本日から少しずつ記憶が戻りやすいようにいつも通りの生活に戻していきましょうね」


昨日のメイド服とは違うシンプルな品の良いミモレドレスを着たオランジェが挨拶をしながら部屋のカーテンを開けていく。朝日が入り、天気が良いのが分かる。ほんのりちょっと寒いから日本でいう秋か春だろうか。


身支度が済むと食事は部屋でとるか食堂でとるかを聞かれた。屋敷内を知りたかった私は食堂を選択した。


「家の中の間取りも記憶にないのですね......生活するうちに思い出しますわ」


オランジェが少し前を歩きながらワンピースに着替えた私を先導する。私の部屋は3階で1階が食堂のようだ。廊下には落ち着いた赤色の絨毯が敷かれ、まるで小学生の時に見学した国会議事堂みたいだった。


「おはようセイリーン。よく眠れたか?気分はどうだ?」


お父様が声をかけてきた。お母様、お兄様もそろっている。


「はい。まだ記憶は戻りませんが、体調には問題ありません」

「そうか。なんとなく以前よりも性格が落ち着いたようだな。記憶が無いのだろうから仕方ないだろうが。記憶が無いということはこうも人を変えるのだな」


お父様が鋭い分析をなさっている。性格が違うのは中身が違うから、とは言えない。セイリーンは元気の良い魔法好きな女子ということなのだろうか。演じるのは難しいし、ストレスが溜まりそうなので、基本的にはいつもの自分でいこうとは思うが。


席に着くとさっそく焼きたての目玉焼きやベーコン、野菜が入ったコンソメスープ、焼き立てのパンや新鮮なミルクが並ぶ。食べ物なども元の世界と変わらないようだ。もし、ここが小説やゲームの世界ならば案外、魔法以外は元の世界を反映させた世界観なのかもしれない。


「いただきます」


お父様とお兄様が食事の挨拶をする。


(あ、こちらでも"いただきます”でいいんだ)


私も"いただきます”と言って食事を始めると牛乳が濃厚で美味しい。牛乳好きな私は思わず笑顔になった。


「セイリーン、あなた牛乳好きよね。美味しい牛乳飲んだら何か思い出したりしないかしら?」


セイリーンも牛乳が好きらしい。良かった、私と同じでホッとする。食の好みは記憶が無くなったって変わらなさそうだから。


「牛乳は美味しいですが、さすがに記憶までは戻らないですね」


「まあ、そうよね.......では、セイリーンは正式にしばらく学園をお休みすることにしましょう。屋敷で生活に順応できるようになるまで特訓よ」

「はい、その方が良いかと昨夜、セイリーンと私で話していました」


お兄様も見解を伝える。お父様も同意見のようだ。


「お母様は今日、侯爵夫人のお茶会があるから午後は出かけねばならないけれど、医者の診察が済んだら本を読んだりピアノを弾いたり、お庭を散歩したりすると良いわ」

「ピアノがあるのですか!?」


元の世界でピアノをずっと習っていて、大会にも出場した経験のある私はピアノがあることを知ってつい食いつくように反応してしまった。


「あるわよ。大きな立派なピアノが。学園に入ってからもピアノは続けていたし。ピアノの記憶はあるの?」

「記憶というか、弾ける気はします」

「ふむ。では食事が済んだらピアノ室でピアノを弾いてみると良い」


ダンディパパが素敵な提案をしてくれた。朝からピアノを弾けるなんてステキ。


「私とスワロウは共に城に勤めに出かける。遅くはならないと思うが、付き合いがあるかもしれない。こんな時はセイリーンの側にいてやりたいのだが」


「ご心配ありがとうございます。今日は、屋敷の中を探検したりして大人しくしていますから」

「そうね。目が覚めてからずっと思っていたけれど、話し方が変わったわよね?」

「え、そうでしょうか?」

「女性っぽくないというのかしら。令嬢ならば、語尾も女性らしく話す方が自然よね」

「ですわ、とかでしょうか?」

「まあ、そうね。いずれ学園に戻るのですから、令嬢らしい話し方の方が良いわね」


記憶が無いと話し方も変わるのかしら?とお母さまが首をかしげながらブツブツ言ってらっしゃる。思わず冷や汗をかく。


「ふふ、そんなに悩まないで。ゆっくりといきましょう。困った表情のセイリーンもとても可愛らしいわね」

「私の天使セイリーンは本当に朝から可愛い!」

「同意です」


お母様&お父様&お兄様が朝から褒めまくるではないか。きっとセイリーンちゃんはめちゃくちゃ可愛がられて育ったんだな。私も元の世界で大事に育てられたが、こちらの世界は直球で褒めてくるので慣れない。


そして、こちらの世界の家族は貴族なのもあり、やたらと品がよろしい。せっかくこの世界に滞在するならば品性のスキルも身につけてから戻りたいと思ったのだった。

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