エリートの兄

「あの、お兄様」

「なんだ?」

「お兄様は既婚者なのでしょうか?」

「な、なんだ、急に。オレはまだ結婚はしていない。結婚していてもおかしくはない年齢だが、なかなか城の仕事も忙しいしまだオレには結婚は早すぎる。急いで見つける必要も全くないしな!」


なんだか、お兄様がとても早口だ。結婚したくなくてまだまだ自由でいたい年頃だよなーと思う。お兄様の見た目は私よりは年上だけど若そうだ。


「そうなのですか。あの、お兄様っておいくつなのですか?お父様とお母様の年齢も知りたいです」

「オレは19歳だ。父は37歳、母は35歳だ」

「わっかー!!」


元の世界のパパとママと一回りくらい違う。みんな婚姻する時期が早いからか、年齢よりもしっかりしていてみんな大人っぽい感じだ。これは私もきちんとしないとマズいぞ、と焦ってきた。


「わっかー?若々しいということか?変な言葉を使うなよ、品性を疑われる。淑女教育もしていった方がいいかもしれないな......」


なにやらブツブツと言いながら考えだしたお兄様はしっかりしている様子だけど、ちょっと口うるさいところもありそうだ。面倒見は抜群そうだが。"淑女教育”だのとの単語が聞こえて思わず顔をしかめていると、頭にポフっと手を乗せられた。


「変な顔もしない。可愛い顔なんだから所作も可愛らしくしてほしい」


お兄様がニコリと微笑みながら"可愛い”などと言うので、普通に照れてしまった。顔に熱が集まるのが分かる。


こちらはこんなことを言うのが普通なのだろうか?ダイレクトに“可愛い”だなんて!緩む頬に手を当てている私を微笑ましく見つめているじゃないか。 ハズカシイからあんまり見ないでー!絶対、変なカオしてるし。


「明日、また城から戻ったらゆっくりと話そう。今日は休むように」

「そ、そうですね」

「子守歌でも歌ってやろうか?それとも、絵本かな?」

「私は子供じゃありませんよ!お兄様もお城勤めでお疲れでしょう?お部屋でゆっくりなさってください!」

「気になるんだよ、お前のことは。今日は疲れたよな?起きたら記憶が無いなんて、普通じゃないからな。いつもの生活に戻れるように、明日から無理のない範囲で勉強していこう。オレが付き合うから」

「ありがとうございます。頼りになります!」


エメラルドグリーンの瞳を細めて優雅なスマイルでお兄様は部屋を出て行った。


(恐るべしこの世界。めちゃくちゃ紳士じゃん!ちょっと嬉しいけど!)


お兄様の言動に感動していると、ふと魔法についての会話が思い出された。


私の入っている子の身体には相当な魔力が宿っているらしい。セイリーンは一体、魔力を使って何をしていたのだろう。異世界の人物と入れ替わる魔法を生み出したのは彼女なのだろうか。


お父様の話ではセイリーンは熱が出ていたと言っていた。もしかしてセイリーンは亡くなってしまっていて、異世界から私の魂が導かれたのだろうか?でも、そうするとあのエレベーターの中にいたおばあさんは一体何者なんだということになってくる。


考えても分からないことだらけだ。ただ、魔法を使える要素があるのならば、なんらかの手がかりはつかめるかもしれない。ちょっと希望が見えてきたじゃないか!と自分を励ました。


考えにふけっているとオランジェが新しいパジャマへの着替えやら、歯磨きケアやら面倒を見てくれる。記憶がない私が困らないように細かいことまで直接お世話してくれるようだ。


歯ブラシは元の世界と変わらず同じような形で、歯磨きペーストもある。水も蛇口をひねれば出るし、問題ないようだ。ただ、水道管が見あたらないのでこれも魔法の力を用いているのかもしれない。


元気そうならばとお風呂も勧めてもらったのでお風呂に入ることにしたのだが、身体も自分では洗わないこちらの貴族風習におったまげた。


部屋付のバスルームで素っ裸にさせられ、バスタブに浸からされると髪の毛やら身体までキレイに洗ってくれるではないか!ハズカシすぎる!


でも、普段自分ではササっと洗ってしまう部分も丁寧に洗われて、全身ピカピカになった気がした。気のせいか肌のキメも整うような......。これも魔法の力が働いているのだろうか。


気になってオランジェに聞いたら、“そんなお褒め頂いても何も出ませんよ”と嬉しそうに微笑まれたのでどうやら魔法ではなかったらしい。お世話する人にプロの仕事をするって素晴らしいわ!と、感動したのだった。


お風呂から出ると、あんなに寝ていたのに再び眠気を感じてきた。体力の無さもどうにかしていかねばならないだろう。


"明日からお散歩も日課にしてみようかな”と考えつつ枕に頭を乗せると、すぐにまぶたが降りてきて眠りの世界へと旅立ったのだった。

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