理想的な異世界の家族
側付きのオランジェというメイドによるともうすぐ兄であるスワロウ様と言う方が帰宅するらしい。
しばらくすると部屋の外に急ぎ足でやってくる大きな足音が聞こえた。
「セイリーン、入っていいか?」
私をみてうなずいたオランジェが扉を開けに行くと、眼鏡をかけたダークブラウンの髪色のスレンダーで背が高い男性が入ってきた。180cmはあるだろうか。鼻筋が通ったキレイな顔立ちだ。
「セイリーン、記憶が無いと聞いたぞ。本当か?」
「はい本当です。先ほどこの世界のことは何となく聞きましたが、細かいことについてはまだまだ分からないことばかりでしてね......」
「なんだその話し方は!オレのことも分からないのか?」
「はい、残念ながら」
「はあああ」
ものすごくショックそうに額に手を当てて盛大な溜息をついていらっしゃると思ったら次の瞬間、矢継ぎ早に質問をしてきた。
「学園のことは?魔法実験していたことは?年齢は?」
「スワロウ様、一度にたくさん聴かれてもお嬢様には記憶が本当に無いのです。1つ1つ聞いてあげてくださいませ」
オランジェに言われ、お兄様だというスワロウ様が椅子をベッド脇に持ってくると腰掛けてゆっくりと質問をしてくる。
「学園に通っていたんだ。魔法に特化した学園だ。魔力は持つ者と持たない者がいて、魔力がある者は魔法学院に通うことになっている」
「私はそこに通っていると?」
「そうだ。学年の中では魔力量が多いことでかなり上位成績者だった。よく自分で実験もしていたし、オレにもたまに相談してきていたよ」
「そうなのですね。魔法のこともさっぱり忘れてしまっていて使い方はもちろん、呪文?も分からないのです」
お父様と同じようにお兄様の表情も曇る。
「この世界に生まれて魔法が使える者と使えない者では生き方がだいぶ変わるんだ。魔法が使える者の多くは貴族として暮らしている。魔力を持たない者は他の知識なり武力スキルなりを身につけていくことになる」
丁寧に分かりやすく説明してくれるお兄様の瞳は、エメラルドグリーンでこんな状況にも関わらずキレイだなと、感じてしまった。
「私としては魔法を何としても思い出したいのです」
「それはそうだ。我が家は代々、魔力スキルにすぐれた一族。城の魔法課で何代もお仕えてしてきているからな」
「そうなのですね。私は一体なんの魔法実験をしていて倒れたのか知りたいんです」
「まったく何の実験をしていたんだろうな。オレにも言わなかったからな。手伝ってやったのに」
お兄様はどうやら妹のことを可愛がっているようだ。日々、学園での勉強で分からないことがあれば指導もしていたとか。めちゃくちゃ理想的なお兄様ではないか。
「字は読めるらしいな?言葉も話せているし、記憶が飛んでいる部分は勉強して補充していくしかないな」
「私は学園では何学年に所属しているのでしょう?」
「今年入学したばかりだから1年だ」
16歳で1年とは高校みたいなものらしい。魔法に特化した授業も多く、座学だけではなく実践専用の施設も整っており、実際に魔法を発動させて技を磨くのだとか。
高校生レベルの魔法って、かなり上級なんではないだろうか。魔法知識ゼロの私がとても通えるとは思えないが。
「学園にいずれは復帰しなければならない。魔力を持っている者は魔法スキルを学んでいくのが国の義務でもあるからな」
「学園には状況を説明してしばらく休みを申請する予定だが、それまでに基本からやり直さねばならないな。まずはセイリーンのために学園入園レベルまでのカリキュラムを組んでみるよ」
私のためにオリジナルカリキュラムを組んでくださるとはお兄様素晴らしすぎる。まるで家庭教師だ。突然、こちらの世界に来てどうやって生活していこうかと悩んでいたから、非常に助かった。
「ぜひぜひ、お願いいたします!」
お兄様はニッコリと微笑むと、エメラルドグリーンの瞳を細めて私を見つめている。計画的に動くあたりは私とちょっと似ているかも。気が合いそうだ。
「お前に魔力が宿っているのは感じるよ。だから、練習していけば使えるはずだ」
「私の中に魔力が宿っている?」
「ああ、魔力がある者には感じるんだ。だから父上達もそこまで慌てていなかったのだろう」
「私の中に魔力はどのくらいなのでしょう?」
「いつもより少し少ないぐらいかな。体調も戻ってくれば元に戻るだろう」
「お兄様、ずいぶんと協力的なのですね」
「魔法課で成果を出すことがフォルテ家の使命だからな。セイリーンも例外ではない」
「責任重大ですね」
「オレが指導するから大丈夫だろうとは思うが。一応、オレは魔法課で期待のエースだしな」
「そうなのですね。お兄様はエリートなんですね」
「え?はは、まあな」
お兄様はどうやら照れているようだ。これからお世話になるお兄様についてもう少し知っておく必要がありそうだと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます